「世の中には、いろんな考え方がある。おおらかな考え方や、こせこせとした考え方、悪い考え方もあれば、いい考え方もある」と哲学的な一文からはじまります。
最初の絵は、燃えるようなオレンジ色の砂漠の夕暮れ。
見返しは濃紺の星空です。
そして「ライオンとはこうでなくちゃいけない」、つまり「ライオンは獰猛なものだ」と考えるひとたちの主張が語られます。
“じゃあ、やさしいライオンなんていないの?”
はい、これが本書のテーマです。
ストーリー自体は、ちょっぴり変わったライオンとアヒルの友情のおはなし。
ライオンのレオナルドは、アヒルに出会ったからといって頭からバリバリ!ムシャムシャ!なんてことしない。
日ざしのなか、草をふみながら、のんびり散歩するのが好き。
時にはぼんやり、お気に入りの丘で考え事をしたり、詩をつくったりするのが好き……。
でも「そんなライオンは、ゆるせん!」と同じライオンたちに言われたら?
レオナルドは変わらなきゃいけないのかな。
「獰猛」になって、友だちのアヒルをムシャムシャ!とやってしまうべき?
どうですか。“やさしいライオン”なんて“ライオンじゃない”と思う?
きみは、ほんとうは、どう思う?
イギリス生まれの作家エド・ヴィアーによる本作品は、ケイト・グリーナウェイ賞とカーネギー賞にノミネートされた作品。
日本語訳は、イギリスでのデビュー作『ぼくはおこった』(評論社)でマザーグース賞を受賞したり、日本の小学校の教科書に『ミリーのすてきなぼうし』(BL出版)が掲載されるなど、日英の文化を超えて絵本作家活動を続けてこられた、きたむらさとしさん。
「言葉で世の中を変えられないというひともいるけど、誰かの言葉をきいて考えはじめるひとがいたら、世の中は変わるかもしれない」という一文が心に残ります。
ライオンだって、わたしたちだって、すすむ道はひとつじゃない、と勇気がでてくる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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