今日はねえさんが、ヒジャブを選ぶ日。
ねえさんのアシヤは、ママが差し出したピンクじゃなく、青い海の色のヒジャブを選んだ。
新学期の明日から、アシヤははじめて青いヒジャブをつけて、学校にいくんだ……。
ヒジャブとは、イスラム教徒の女の人が、髪の毛をおおいかくすのに使う布のこと。
この絵本は、はじめてヒジャブをつけて登校するお姉さんを、妹の目線で描いたものです。
妹のファイザーは、「青いヒジャブをつけたアシヤは、まるでプリンセスみたい」と誇らしく思います。
その一方で、学校の子の目が気になり、ねえさんは大丈夫かしらと心配でたまりません。
校庭では「そのテーブルクロス、頭からひっぱって、はずしてやろうか!」とゲラゲラ笑う男の子の声もきこえます。
でも、にっこり笑うねえさんを見て、ファイザーはほっとします。
実は、作者のイブティハージ・ムハンマドさんは、アメリカの選手としてはじめてヒジャブをつけてオリンピックに出場した人なのです。
2016年のオリンピックではフェンシングの団体戦で銅メダルを受賞しました。
イスラム教徒であることに誇りを持ち、「ヒジャブはわたしの一部」「宗教や外見で人を差別するべきではない」という信念をもつイブティハージ・ムハンマドさん。
キリスト教徒が国民の大半を占めるアメリカで育ち、ヒジャブを身につけていることでからかわれたつらい経験があるそうです。
彼女の実体験をもとにしたストーリーを、児童文学作家S.K.アリが詩のような言葉にし、画家のハテム・アリが生き生きとした絵で描いて、美しい絵本に仕上げています。
わが家の子どもたちに「電車やバスで、こんなふうにスカーフみたいなもので髪をおおっている人を見たことある?」とたずねると「うん」とうなずいていました。
「見たことはあるけれど、どういう意味かはわからなかった」と言う子どもたちにとって、絵本を読み「ヒジャブ」という名前を知ったあとでは、それを身につける人への印象もちょっと変わったようでした。
ヒジャブをつけている人が、どんな気持ちでその色を選んだのか、なぜ身につけているのか……。日本の子どもたちにとっても、想像するきっかけになったらいいですね。
絵本の中で、ファイザーとアシヤのママが語る言葉がとても素敵です。
いじわるを言われたときの心の切り替え方も、きっと誰もが参考になる、気持ちいいアドバイスですよ!
差別やいじわるは身近にあるものですが、ヒジャブを身につけたアシヤのように、堂々と生きていきたくなります。
空のように、海のように……。
青という色からやさしい強さを感じられる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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