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インタビュー

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2022.07.28

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『うみべのおはなし3にんぐみ』 小宮由さんインタビュー

絵本から卒業し、文章の多い本を読むきっかけが何歳くらいなのか……、どの作品から読みはじめたらいいのか……、悩む親御さんも多くいらっしゃいます。そんな「おはなしファーストブック」にぴったりの作品、『うみべのおはなし3にんぐみ』(大日本図書)が発売となりました。

この作品はローリー、スパイダー、サムの仲良し3人組が、海辺で自分たちが作ったおはなしをそれぞれ聞かせ合う、子どもらしい発想と、のんびりとした世界観が魅力の一冊です。ページの随所にカラー挿絵が入っているので、「ちょっと長いおはなしを一人で読む」というお子さんの、はじめての一冊にもおすすめ。読んだらきっと、3人組のように誰かに自分の作ったおはなしを話したくなると思います。

本書の翻訳を担当された、小宮由さんにお話しを伺いました。

  • うみべの おはなし3にんぐみ

    みどころ

    ある日、砂浜でピクニックをしていたローリー、スパイダー、サムの3人。おなかいっぱい食べたひと休みの時間、食べてすぐ泳ぐのは良くないし、かといって昼寝もつまらない。

    「じゃあ、おはなし、きかない?」
    提案したのは、つばの広い麦わら帽子に緑色のサングラスをかけたおしゃまな雰囲気の女の子、ローリー。
    「あたし、じぶんで おはなし かいてるの。」

    ローリーが話したのは、ねずみとねこと犬が登場するおはなし。
    あれ、もう終わっちゃうの? サムとスパイダーは物足りない様子。

    それならば、と、個性的な帽子にカラフルな服装の男の子、サムがおはなしを始めます。
    ローリーから「ねずみとねこのおはなし」というお題を与えられて作ったのは、ねずみがペットショップでねこを買うおはなし。サムは即興で作ったと思えないような、なかなかのストーリーテラーぶりを発揮します。

    最後は、3人の中で一番活動的な雰囲気の男の子、スパイダーの番。スパイダーが作って話すのはこわいおはなし! おなかをすかせたかいじゅうが海から現れ、なにか食べるものはないかと砂浜を歩きまわっています。ローリーとサムのおはなしに出てきたねずみやねこもちゃんと登場しますが、かいじゅうの好物はなんといっても、にんげんの子!
    「うほっ! いたいた!」
    男の子がふたりに、女の子がひとり。
    砂浜にいたにんげんの子!? それってもしかして‥‥‥。

    仲良しのともだちとうみべで過ごすのんびりとした時間。リラックスした雰囲気の中、語られていく3人の自由な想像で生まれるおはなしには、さりげなくそれぞれの個性も反映されているようで、なんて面白いのでしょう。

    ユーモア溢れる楽しいおはなしを書かれたのはアメリカの絵本・児童文学作家のジェイムズ・マーシャルさん。絵にもまたユーモアがたっぷり感じられて、見れば見るほど味わい深くなってきます。個人的なお気に入りは、表紙を開いたところにある3人の後ろ姿。読み終えた後にこの絵を見ると、3人の仲良しな姿がとっても幸せな気持ちにさせてくれるのです。
    そのジェイムズ・マーシャルさんのユーモアをしっかりと心地良い日本語で伝えてくれるのは、小宮由さん。自らを「1930年から70年の、アメリカの絵本黄金期の作品を掘り起こす考古学者」と語られる小宮由さんが、ジェイムズ・マーシャルさんのこちらの作品を発掘し、日本の子どもたちが読めるような形で届けてくださいました。訳の中でとくに注目したいのは、サム、スパイダー、ローリーのセリフの部分。それぞれの個性が伝わってきて、3人それぞれに親近感が湧くところもこの本を好きになるきっかけとなりそうです。

    おはなしを聞く楽しさ、作る楽しさ、想像する楽しさ……と、おはなしの魅力がたっぷり詰まった一冊。読んだ後は、自分でもおはなしを作って人に話してみたくなってしまうかもしれません! 挿絵がたっぷりで文章も易しいので、はじめてのひとり読みに挑戦する作品としてもおすすめです。

この人にインタビューしました

小宮 由

小宮 由 (こみやゆう)

〈1974年-〉東京都生まれ。学生時代を熊本で過ごし、卒業後、児童書版元に入社。その後、留学などを経て、子どもの本の翻訳に携わる。東京・阿佐ヶ谷で家庭文庫「このあの文庫」を主宰。祖父はトルストイ文学の翻訳家、故・北御門二郎。

この本は「泣く子も笑う」本として、請け合いです

───小宮さんはご自身のことを「1930年から70年の、アメリカの絵本黄金期の作品を掘り起こす考古学者」と別のインタビューで語られているのを拝見して、なんて素敵なお仕事なんだろうと思いました。今回の『うみべのおはなし3にんぐみ』も、まさにアメリカの絵本黄金期に生まれた作品ですね。この作品との出会いをお聞かせください。

これも、その考古学の一環でした。もともと作者のジェイムズ・マーシャルの本が好きで、マーシャルの本をいろいろ取り寄せていた中で出会いました。たしか、5〜6年前のことだったと思います。

───出会ってすぐに、「翻訳したい!」と思われたのですか?

もちろんです。私は、自分がおもしろいと思ったものしか訳しませんから。

───すばらしい信念ですね。『うみべのおはなし3にんぐみ』は、海辺にピクニックに来た、ローリー、サム、スパイダーの3人が、昼ごはんを食べた後、食休みの間に海辺でそれぞれおはなしをはじめるという、おはなしの中におはなしが入っている構造がとても面白いと思いました。

こういう入れ子構造になっている形式の作品を「枠物語」と呼びます。この形式で、みなさんが知っている代表的なものと言えば「アラビアンナイト(千夜一夜物語)」とかがそうでしょうか。

───「アラビアンナイト」は有名ですね。「枠物語」を翻訳するのは、普通の物語の翻訳よりも大変ですか?

「枠物語」だから苦労する、ということは特にありませんが、気をつけた点といえば、まず最初に、登場人物のローリー、サム、スパイダー、それぞれの個性をイメージして(と言っても、意識してイメージを作っているわけではなく、最初に原書を読んだ時点で、無意識にできあがっているのですが)例えば、この章は、ローリーが語っているのだから、ローリーが使いそうな言葉、言い回しを意識する、といったことでしょうか。語り手がちがえば、言葉遣いも変わってくると思うので。

───たしかに、3人の作るおはなしも、それぞれの個性が感じられるストーリーですね。

この作品は、1話ごとに語り手が変わり、それも即興で語られます。即興だからこそ、2番手、3番手の語り手が、1話目や2話目の登場人物、セリフ、展開などをまねしたり、アレンジしたりして、お話を重層的におもしろくしているのです。

この本でいうと、最初にローリーのお話に出てくる、ねことねずみが、2話目、3話目にも出てきます。だから、この本を通して読むと、点が線となって、おもわず「ウフフ」となるのです。

───最初におはなしを作ったローリーが「ねずみと ねこの おはなしに してよね」と言ったことを、2人がしっかり守っているのが、この本のおもしろさのひとつでもあるんですね。その他に、この本を翻訳されている中で、心に残っているエピソードなどはありますか?

そういえば、この本を訳している途中で、こんなことがありました。うちの子の次男(小学4年生)が、理由は忘れましたけど、ものすごくグズったときがあったんです。まあ、どの家庭でもよくあることだと思うのですが、それで、手がつけられなくなった次男に、ちょうど、その日、大日本図書の編集者から、この本の色校(本になる前の校正紙)が届いていたので「まだ、本になってない、おもしろい本、聞く?」と聞いて、読んで聞かせたんです。そしたら、読み終えた時には、もうすっかりケロっとなっていて、現場を見ていなかった奥さんに「あら? もうすっかりご機嫌だ。なにか魔法でも使ったの?」って(笑)。なので、この本は「泣く子も黙る」ではなく「泣く子も笑う」本として、請け合いです。

ユーモアを感じ取ることは、人間にとって、とても大事なことだと思います

───作者のジェイムズ・マーシャルは「二頭のかば」シリーズや『フクロウ探偵30ばんめの事件』などが日本でも出版されていますが、日本の親御さんにはあまりなじみのない作家さんだと思います。先程、ジェイムズ・マーシャルの本が好きだと伺いましたが、彼の作品の魅力を教えていただけますか?

ジェイムズ・マーシャルの魅力は、やっぱり、圧倒的なユーモア力です。それは、彼のどの本にも共通していると思います。実は、日本人って、上質なユーモアを感じさせてくれる本を書くことが苦手なんです。もともとユーモアは、イギリス文学から生まれたものと言われているので、仕方がないことかも知れませんが。

でも、本からユーモアを感じ取ることは、日本人に限らず、人間にとって、とても大事なことだと思うんです。なぜなら、ユーモアとは、自分と他者をおなじ高さに置いて、しかも、相手に思いやりをかけて笑うことだからです。つまり、心にユーモアを持つということは、相手の立場や、相手の気持ちになれる、優しい人間になるってこと。

そんなユーモア溢れる作品を、幼年文学として書けるマーシャルは、やっぱり天才だと思います。絵本から読み物へ移行させる幼年文学は、絵本を書くより、普通の読み物を書くより、むずかしいのですから。

───「相手に思いやりをかけて笑うこと」は、まさに『うみべのおはなし3にんぐみ』でローリー、サム、スパイダーがやっていることにつながりますね。絵本ではモーリス・センダックの『かいじゅうたちのいるところ』や、トミー・ウンゲラーの『すてきな三にんぐみ』など、ユーモアあふれる作品が多数出版されていますが、幼年文学でユーモアを描くことが難しいとは知りませんでした。

モーリス・センダックは生前、マーシャルのことを「ランドルフ・コルデコット、ジャン・ド・ブリュノフ、エドワード・アーディゾーニ、トミー・ウンゲラーにつづく、絵本界の最後の巨匠だ」と賛辞を送りました。自分よりも14歳も年下なのに、ですよ。また「あくたれラルフ」シリーズの挿絵を描いているニコール・ルーベルは、実際にジェイムズ・マーシャルと出会い、絵本作家を志しました。彼女の絵を見れば、マーシャルの影響を受けていることが、一目瞭然だと思います。

───たくさんの絵本作家に愛され、認められた作家なのですね。そんなジェイムズ・マーシャルのユーモアを存分に感じられる『うみべのおはなし3にんぐみ』ですが、9月に2作目『木のうえの おはなし3にんぐみ』、10月に『みずうみのおはなし 3にんぐみ』が出版され、3作シリーズとなると聞きました。一体どんなおはなしなのでしょうか?

『木のうえの おはなし3にんぐみ』も『みずうみの おはなし 3にんぐみ』も、お話の展開としては、この本と同じです。でも、またそれぞれ「クスクス」とおかしい。最後の『みずうみの おはなし 3にんぐみ』では、3人のお話だけでなく、4人目も(!)登場します。どうぞお楽しみに!

───なんと4人目が! それはどんな個性的なメンバーが加わるのか、10月が待ち遠しいです。今日は楽しいおはなしを、ありがとうございました。

校正・文:木村春子

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