ハムスター「てをあげろ!」
ミミズ「ぼく、てがないんだけど・・・」
こんな楽しい絵本があるのを知っていますか?作者はオランダの絵本作家、カタリーナ・ヴァルクスです。
とぼけたキャラクターが可愛い「ハムスターのビリー」シリーズ、『てをあげろ!』『つかまえろ!』『インディアンはどこ?』3冊出版にあたり、訳者のふしみみさをさんにお話をうかがいました。
フランス語と英語の子どもの本を多数翻訳しているふしみさんは「あったかくて、へんてこりんなカタリーナ・ヴァルクスの絵本がだいすき」。じつは夏の間、アムステルダムのカタリーナさんの家に間借りしていたというエピソードも飛び出して・・・!?
わたしたちがふだん知ることができない素顔のカタリーナ・ヴァルクスさんと、その作品世界をふしみさんのインタビューからお楽しみください。最終ページには、カタリーナさんから日本の子どもたちへ、メッセージが届いていますよ!
●とぼけた可愛さがたまらない! オランダ生まれのハムスター・カウボーイ、ビリー。
───こんにちは。今日はカタリーナ・ヴァルクスさんの絵本についてたっぷりお話が聞ける、と楽しみにしていました。
今朝、わたしも、「きょうはカタリーナの絵本の話をたくさんしてくるよー」とカタリーナにメールしました(笑)。
───ふしみみさをさんは、ヨーロッパ各国の作家さんに会いにいったり、日本語訳出版にあたって表紙や中身の変更を交渉なさったりと独特のフットワークがありますよね。以前、絵本ナビに来てくださったとき(2013年4月)に、「カタリーナ・ヴァルクスの絵本がだいすき」とおっしゃっていましたが、カタリーナ・ヴァルクスさんの絵本を知ったのはいつでしょうか。絵本が先? それともご本人にお会いしたのが先ですか?
2011年にキティ・クローザー(ベルギー在住の絵本作家)に会いにいくことになって、そうするとベルギーからオランダのアムステルダムは電車で1時間くらいなんですね。キティとカタリーナも仲良しだというし、せっかくだからカタリーナに会ってみたいなあと、ベルギーからそのまま、アムステルダムをたずねたのが彼女に会った最初です。 まるで作品の登場人物を彷彿とさせるような、シンプルであたたかくて、自然体のなかに、どこかにじみ出てくるおかしさがあって、とても魅力的な女性でした。
───そのすこし前に『てをあげろ!』がフランスで出版されていると思いますが、目にしたときの印象はいかがでしたか。
一瞬で「うわぁっ」と心をつかまれてしまいました。だって、ミミズですよ。手も足もないミミズにむかって、「てをあげろ!」って・・・(笑)。
フランス語で「手」を「main(マン)」というんですけど、原書では「pattes(パット)」という「脚」を意味する言葉がつかわれています。日本語では「てをあげろ!」にしましたが、フランス語でタイトルを見ると「Haut les Pattes!」「手も足もあげて!」みたいな感じなの。よけいおかしいんです(笑)。
───ほんと、手足のないミミズが「てをあげる」なんてぜったいむりですよね(笑)。
カタリーナ・ヴァルクスのお話世界は、子どもの本でめったに見かけない登場人物でいっぱい。
ミミズ、毛玉、ムール貝、赤アリ、かたいっぽうのくつした、ダニ・・・。へんなものがいろいろ出てくるんですよ。
未翻訳の童話。左の本の主人公は、毛玉。「毛玉が主人公なんて、聞いたことない!と思いませんか?」とふしみさん。右の本の主人公のひとりは、ムール貝。ある日、ムール貝からウサギに、「わたしはあなたのいとこです」という、お手紙が来たところから始まります(笑)。とんでもなく予想外、もうたまらないでしょう?
───(笑)じゃあ、そのへんてこな「ハムスターのビリー」シリーズの登場人物を紹介してください!
───えっ、ちっちゃなハムスターがギャング? 一番のお友だちは、ミミズ!?
お話の設定がとっぴょうしもないし、どんなストーリーだろうと一瞬キョトン(笑)。同時にすごくワクワクします!
ある日ビリーは、こわもてのパパに「おまえは、あまりにせいかくがよすぎる」「このままだとりっぱなわるものになれないぞ」といわれて、相手をおどす方法を練習しに出かけます。ふつう、世の子どもたちは「やさしくしなさい」「やさしい子になりなさい」っていわれて育つのに、この場合反対(笑)。ビリーは「あまりに性格がよすぎる」って、たしなめられちゃうんです(笑)。
パパがふるい拳銃、ベルト、ふくめん、ぼうしを出してくれるけど、拳銃には弾もはいっていなくてからっぽ。
ビリーは「なるべくちっちゃいあいてでれんしゅうしたほうがいいな。あっ、あそこにミミズがいるぞ。ミミズならなんとかなるかな」と・・・
───もうしわけなさそうなミミズ。しかも名前は、りっぱなフランス風の、ジャン=クロード。かわいい〜。
「いいよいいよ。どうせこれ、れんしゅうだから」って、ビリーはミミズと友だちになっちゃいます。おどしにいったのにね(笑)。
こんどはねずみの女の子、ジョゼットに「てをあげろ!」というけど、ジョゼットは「ついでにあしもあげてあげる。ほら、これでどう?」「うん、ばっちり」だなんて、もう何やってるんだかわからないですよね(笑)。ジョゼットはさかだちまでしてあげて、おもしろそうだからとビリーたちについていきます。ところがこわいキツネにジャン=クロードがつかまって、さあどうなる!?というお話です。
───お話のはじめからおわりまで、ビリーたちのかけあいが絶妙です!
最後、あたらしい友だちをぞろぞろ引き連れてかえってきたビリーに、ビリーのパパはヘーゼルナッツのチョコレートがけを出してくれます。
「ハムスターのビリー」シリーズは、必ずおしまいにみんなでおやつをたべて、もごもご口にほおばりながら終わるんですよ。日本の「サザエさん」じゃないけど、カタリーナが子どもの頃から好きで読んでいたコミック・アニメが、いつもみんなでごはんを食べて終わるので、同じようにしたかったそうです。
───だからいつも、おわりのページで、ほんわかするんですね。
クスッと笑えて、読み終わったあとは心がポカポカあったかくなる。この読後感が、カタリーナの絵本の特徴のひとつです。カタリーナはお話をつくることについて、こういっています。
「わたしは悲しい話やこわい話は書きたくない。子どもたちにはただでさえ、闇や学校など、こわいものがたくさんある。子どもたちを笑わせて、今いる世界を好きになってもらいたい。そのためにはげましやなぐさめになるような話が書きたいの」と。
そうカタリーナから聞いたとき、だからいつも読んだあとに、自分を肯定されているようなやさしい気持ちになるんだなあ、と思いました。