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「ともだちって かぜがうつっても へいきだっていってくれるひと」『ともだち』 谷川俊太郎さんインタビュー

『ともだち』という絵本を知っていますか? 現代日本を代表する詩人の一人である谷川俊太郎さんが、1979年刊行のシリーズ「玉川こども・きょういく百科」のなかの一冊として書かれたものです。好評だったことから2002年に単行本化され、和田誠さんのユーモアのある絵とともに、子ども、親、先生、多くの人の胸に響く絵本として18万部(2015年6月現在)のヒット絵本となっています。誕生の舞台裏と、谷川俊太郎さんの「ともだち」のお話をうかがいました。
※このインタビューは、玉川大学「大学教育棟 2014」において、100人ほどの学生の前で、絵本ナビによる谷川俊太郎さんへの公開インタビューとして行われました。

ともだち
作:谷川 俊太郎
絵:和田 誠
出版社:玉川大学出版部

「ともだちって かぜがうつっても へいきだっていってくれるひと」―谷川俊太郎の珠玉の詩と、和田誠のほのぼのとしたイラストによる、幼児〜小学校低学年向き絵本。よい友は一生の宝であり、生きて行くうえで友だちがいかに大切かということを、やさしいことばと楽しい絵により、幼児にもわかりやすく語りかける。

ともだちってなんだろう?

───「ともだち」って、だれもが無関係ではいられないテーマですよね。和田誠さんの絵が印象的で、言葉がシンプルでありながら多くの読者の心を引きつける『ともだち』は、どのようにこの世に誕生したのでしょうか。

玉川大学出版部から依頼があったからですよ。「ともだち」について書いてください、と。僕の仕事はすべて受注生産ですから。


───依頼があったとき、どう思われましたか。

僕はね、一人っ子だし、模型飛行機を作ったり、ラジオを組み立てたりするのが好きで、ともだちがあまり必要ない人間だったから。困ったなと(笑)。

───えっ!?(笑)。


「玉川こども・きょういく百科」全31巻。「ともだち」は、「いえ」「おかね」などとともに人文科学系の巻の一つ。「ちきゅう」や「うちゅう」など自然科学系の巻もあります。


それで、ともだちってどんなものかを一所懸命考えて、「ともだちとは何か」を定義しよう、と思いました。
ちょうど『定義』(思潮社、1975年1月1日刊)という詩集を出版する準備をしていた時期で、いろんなものを言葉で定義していったら詩になるんじゃないかと、りんごなら「りんごとは何か」や、そのへんに落ちているようなガムの小さな包み紙まで、“定義する”という試みをやっていました。
だから「ともだち」を“定義”したら、ともだちの絵本が書けるんじゃないかと、書き始めたんですよね。今思えば、その試みが意外にうまくいったということじゃないかな。



玉川大学の学生さんたちの前で『ともだち』についてインタビュー!

───なるほど〜〜。定義しようと試みた、とうかがうと納得です。
冒頭、まず「ともだちって」という項目からはじまりますよね。「ともだちって いっしょに かえりたくなるひと」「ともだちって おかあさんやおとうさんにもいえないことを そうだんできるひと」。小学生の息子と一緒に読んでいると、思わず「うん、うん」とうなずいたりちょっと考えこんだり。「ともだちって みんながいっちゃったあとも まっててくれるひと」は、息子にも同じ経験があったと言っていました。
つづいて「ともだちなら」という項目では「ともだちなら たんじょうびを おぼえていよう」「ともだちなら いやがることをするのはやめよう」など。
どのページもそれぞれ考えさせられるのですが、この35年以上前に作られた絵本が、ロングセラーとなって多くの方に読まれていることについて、谷川さんはどんなお気持ちですか?


「ともだちって かぜがうつっても へいきだっていってくれるひと」(左)
「ともだちって みんながいっちゃったあとも まっててくれるひと」

驚きですよ。すごく嬉しいし、自分の「ともだち」についての見方がまちがっていなかったんだなと思いますね。
そして、これだけ広く読まれるということは、ともだちが必要な人が世の中にはいっぱいいるんだなあ、ともだちがあまり必要でない僕みたいなのが(この本を)書くことが、大事だったのかもしれないなと(笑)。
だって、もし、ともだちのことを大好きで、ともだちがいっぱいいる人が文章を書いたとしたら、どうしても感情的な絵本、感情を扱った絵本になるかもしれないでしょう。

───たとえば「ともだちがいてよかった」とか、「こういうとき、ともだちとの間で嫌な思いをした」「仲直りできて嬉しかった」とかでしょうか……?

そうそう。とくにストーリーがある物語絵本は、どうしたって具体的な感情を扱うことになるんじゃないかしら。人間の心理や道徳を。ともだち関係は熱く濃くごちゃごちゃになりがちですからね。
でも、『ともだち』は感情を扱わず、一種の“認識絵本”としてクールに書いたから、ロングセラーになったのかなと思います。抽象的な場面、場面に、だれでも自分の経験を投影できるからね。ともだちがたくさんいる人も、あまりともだちがいない人も。
そして多面的に「ともだち」を定義したのがよかった。客観的に見られるというか、そういう作用があったかもしれませんね。

子どもの言葉で世界をとらえた“認識絵本”は、大人の学問への入り口

───個人的にこの絵本をすごく好きなのは、「ともだちをつくりなさい」と断言する内容ではなく、項目ごとにわかれていて「ともだちってこういう感じ?」「こういう感じでもあるよね?」と並べてくれているところ。
うちの息子が今、小学校6年生なんですけど、「ともだちをつくりなさい!」と親からはあまり積極的に言ってこなかったんです。一人っ子ということもあってか、本人も公園や学校に行けば誰かと遊んでいるし、特別悩んでいる様子もなかったので心配はしていなかったのですが、小学2、3年生のとき、個人面談で担任の先生に、うちの息子が一人で帰ったりお祭りの日に一人で遊んでいるところを見かけたと言って「ともだちいますか? 同じクラスにもつくった方がいいんじゃないか?」と言われたんです。それでちょっとびっくりしちゃって、「あれ、ともだちってなんだっけ?」とわからなくなっちゃった。でも、この絵本を息子と一緒に読むと、すごく自然に話ができます。そうそう、ともだちってこういうところもあるよね。いろんなともだちがいるよね、と。

一方で、知人の娘さんが、保育園で先生に読んでもらったときの話を聞くと、5、6歳の幼い子でも、絵本の内容をちゃんと感じたり理解したりしているんだなと感心します。社会経験がすくない幼い子から、小学校高学年、親の立場で見てもいろんな話ができるのがすごいなと思うのです。


「どんなきもちかな」は、ともだちのを心のなかを想像する場面がつづきます。


それが “認識絵本”のおもしろいところであり、役に立つところでしょうねえ。
僕は『ともだち』を “認識絵本”の一つという発想で作ったんですよ。

───さきほどもおっしゃっていましたが、“認識絵本”とは何ですか? 

そういう言い方があるんですよ。僕は絵本を、文化人類学や心理学や経済学といった“大人の学問への、入り口としての絵本”というとらえ方をずーっとしていたのね。
つまり「この世界を、子どもの言葉でどう認識していくか」を考えて絵本のテキストを書いていた。だから『ともだち』のような構成の仕方になるわけです。一般的な物語絵本を作るときの発想では作っていないわけ。

───では「ともだちって」「ともだちなら」「ひとりでは」など、絵本全体をコンセプトによって7つの項目にわけたのも、出版社の意向ではなく、谷川さんご自身ですか?

そうです。「ともだちって」のヒントになったのは、1960年代に出会っていたアメリカの漫画「ピーナッツ」かもしれませんね。スヌーピーとその飼い主のチャーリー・ブラウンのお話ですが、そのなかに「ハッピネス イズ……」といった題で、幸せとはどういうものかを、非常に短い気のきいた言葉で定義しているのがあります。これは、幸せというものを大上段にふりかぶらず、ひごろの生活のなかで具体的に定義して、とてもあたたかみのあるものなんです。

(※「スヌーピー」のキャラクターで有名なアメリカの漫画『ピーナッツ』を、1960年代に翻訳し日本に紹介したのが谷川俊太郎さん。以来、長年にわたり翻訳をつづけています。くわしくはこちらのインタビュー記事をどうぞ>>>

───なるほど……! 押しつけではないあたたかさが感じられるのは、そんな背景もあったのですね。
谷川さんは詩人でいらっしゃいますが、絵本のために言葉を書くときも、詩を書くように書かれるのですか。


いや、絵本のテキストを書くのと、一篇の詩とはまったく違うものです。
絵本を書くのと詩を書くのは、心構えが違うと言えばいいのか……、自分の内面が違います。
絵本は、映画のシナリオを考えるのによく似ていて、さいしょから頭をフル回転して考えます。絵本はたいてい見開きの枚数に制限がありますから、そのなかで自分の概念、コンセプトをどう展開していくかを、場面数に割り振っていく。絵本というのはコンセプトの勝負なんですよ。意識的、論理的に考えを詰めていきます。
絵だけですむところはできるだけ文字を少なくするし、むしろここはテキストでいったほうがいいという場面はテキストを多めにします。

───詩の場合は?

詩の場合はね、あまり頭をつかいません。意識をつかわない。「意識下」とか「潜在意識」という言い方がありますけれど、まだ言葉になる前の、もやもやしたものから、言葉がぽこっと出てくるのを待つ。それが理想的な詩の待ち方です。
まぁ、そうなかなかうまくいかなくて、締切が迫ってくると、頭をつかって書いてしまったりしますけどね(笑)。

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谷川 俊太郎(たにかわしゅんたろう)

  • 1931年、東京に生まれる。高校卒業後、詩人としてデビュー。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳など幅広く活躍。1975年日本翻訳文化賞、1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞。ほか受賞多数。絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これはのみのぴこ』(サンリード刊)、『もこもこもこ』(文研出版)、「まり」(クレヨンハウス刊)、「わたし」(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。翻訳作品も多数。

作品紹介

ともだち
作:谷川 俊太郎
絵:和田 誠
出版社:玉川大学出版部
A friend(ともだち 英語版)
作:谷川 俊太郎
絵:和田 誠
訳:アーサー・ビナード
出版社:玉川大学出版部
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