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切り離されたしっぽはどうなる!?  『ぼくだってトカゲ』絵詞作家、内田麟太郎さんインタビュー

トカゲやカナヘビなどを見たとき、ときどきしっぽが途中で切れていることはありませんか? これは「自切」といって、敵に捕まったとき自ら切り離して、逃げることができる機能のこと。切り離した本体からは、その後「再生尾」という新しいしっぽが生えてきます。では、切り離されたしっぽの方はどうなってしまうのでしょう? そんなちょっと変わった発想から生まれた絵本が『ぼくだってトカゲ』です。
作者の内田麟太郎さんは、「おれたち、ともだち!」シリーズ(絵:降矢なな 出版社:偕成社)や『がたごと がたごと』(絵:西村繁男 出版社:童心社)など、人気絵本を生み出す絵詞作家の内田麟太郎さんです。

ぼくだってトカゲ
ぼくだってトカゲの試し読みができます!
文:内田 麟太郎
絵:市居 みか
出版社:文研出版

たいへん! トンビがトカゲをおそってきた! でも、トカゲはしっぽをぷっつんと切ってにげだした。あわてたのは残されたしっぽ。トンビからも捨てられて、地面に置きざり。このままではひからびてしまう。 そのとき、カナブンのおじさんが…。

子どもの頃、誰もが一度は疑問に思ったこと「トカゲのしっぽ」

───内田さんは今までも、いろいろな動物を主人公に絵本の文章を書かれてきましたが、今回の主人公はなんと、「トカゲのしっぽ」。今までにないキャラクターはどのように生まれたのでしょうか?

この話は、子どもの頃にふしぎだな〜と思ったことが根底にあります。子どもの頃、野原で一生懸命遊び回ってると、何度かしっぽのないトカゲと出会うんですよ。自分たちも、トカゲを捕まえて、しっぽをプチってやるしね。しばらくすると、トカゲ本体の方にはしっぽが生えてくるけれど、しっぽの方は、口がないから栄養を摂ることができずに死んじゃうんだよね。それって、何となく哀れでしょう。そんなことを子ども時代に考えていたわけですよ。

───その頃はまだ絵本の素材になるとは思っていないんですよね。

もちろん。私の時代の絵本は、講談社から出ていた昔話シリーズや、偉人伝のようなものばかりで、要するに真面目なんですよ。トカゲのしっぽからトカゲが生えるなんて、妙な発想の絵本なんてなかったから、絵本を作るようになって、妙な絵本を喜んでくれる人がいることが分かって、ようやく出す勇気を持てた絵本なんですよ。だから、今はいい時代ですよ。妙なこと考えて、妙なことを絵本にできるんだから(笑)。

───突拍子もない発想なのですが、内田さんの文章の説得力というか、カナブンのおじさんの存在もあって、すごく納得してしまうんですよね。

ただ、どうしてこの絵本を書こうと思ったかは正直、あまり覚えていなくて……。きっかけとして思い当たることと言えば、担当編集者さんが何かの折に「二宮由紀子さんは天才です」って言ったことかな?

───二宮由紀子さんは『へちまのへーたろー』(絵:スドウピウ 出版社:教育画劇)や『あるひあひるがあるいていると』(絵:高畠純 出版社:理論社)などを書いている絵本作家さんですね。

天才と呼ばれる作家さんは、作品を鋭角的に書くわけです。私は天才タイプじゃないから、変な話をもう少し分かりやすく書こうとするんですよ。……で、その違いを表現するために、意識して書いたんだと思います。編集者が二宮由紀子さんの話を出さなければ、もうちょっとあたたかな、「タヌキがすやすや寝ていたら……」のような、優しいストーリーになったと思うんですよね(笑)。

───それで、優しい物語ではなく、突飛で面白いストーリーをと考えたときに、子どもの頃に見た「トカゲのしっぽ」が思い浮かんだんですね。

そうです。しっぽが切れてもトカゲだから、しっぽからトカゲが生えてきてもいいんじゃないかという、アイディアはあるんだけど、実際、しっぽだけだとやせっぽっちだから、トカゲが生えてきそうにはないんですよ。だから、その間を埋める役目として登場してもらったのが、カナブンのおじさんというわけです。

───カナブンのおじさんは、トカゲのしっぽを励まして、トカゲが生えてくるようにアドバイスを送るキャラクターですね。博識ですが、思い切ったところもある魅力的な存在だと思いました。

おはなし自体は、先ほども言った「哀れ」な雰囲気なのですが、市居みかさんの絵が、明るくてのびやかで、あまり悲痛な感じがしないんですよね。

───市居みかさんに絵をお願いすることは、内田さんが決めたのですか?

編集者さんと相談して、決めたんだと思います。実は爬虫類が登場する絵本って、お母さんたちに敬遠されがちじゃないですか。それで、あまりリアルでなく物語としてキャラクターを好きになってもらえる絵を描く画家さんということで、何人か候補を上げてもらって、相談しました。

───いろいろな候補の中から、市居さんに決まったのですね。

市居さんの絵なら大丈夫って、ほぼ即決だったと思います。おおらかで明るい絵だから、爬虫類が苦手なお母さんも楽しんでくれるなぁってワクワクしたのを覚えています。

───原稿を渡してからしばらくすると、市居さんからラフが送られてくると思います。最初にラフ絵を見たとき、どう思いましたか?

自分で描いたおはなしだけど、絵がついたのを見たとき、「変な絵〜」と思ったね(笑)。あ、変っていうのは褒め言葉ね。

───確かにそうですね(笑)。特にしっぽがトカゲから切り離される場面。手も足も頭もないのに、目と口だけでキャラクターができていて、面白いと思いました。

なんだか、つりえさみたいだよね(笑)。あと、カエルがね、すごいなぁと思ったね。しっぽからトカゲが生える驚きを、カエルが表現しているんだよ。その脇役の使い方がうまいなあって。あと、色彩も鮮やか。明るい色や静かな青い色、激しい赤い色をページによって使い分けているんですよ。主人公の心情を表しているようで、よく見ていると、かなり考えられて色をつけていることが分かります。

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内田 麟太郎(うちだ りんたろう)

  • 1941年福岡県大牟田市生まれ。個性的な文体で独自の世界を展開。「さかさまライオン」(童心社刊)で絵本にっぽん大賞、「うそつきのつき」(文渓堂刊)で小学館児童出版文化賞、「がたごとがたごと」(童心社刊)で日本絵本賞を受賞。絵本の他にも、読み物、詩集など作品多数。
    他の主な作品に「おれたちともだち」シリーズ(偕成社刊)、「かあさんのこころ」(佼成出版社)、「とってもいいこと」(クレヨンハウス)、「ぽんぽん」(鈴木出版)などがある。

作品紹介

ぼくだってトカゲ
ぼくだってトカゲの試し読みができます!
文:内田 麟太郎
絵:市居 みか
出版社:文研出版
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