ある日、ふしぎな緑の男がやってきて、見たこともないくらい大きなそらまめを置いていったとしたら……? そらまめを食べたポコおじさんの、おかしな体験を描いたナンセンス絵本『あしにょきにょき』は1980年に出版され、今なお多くの子どもたちに愛されています。そして、それから35年後、続編となる『あしにょきにょきにょき』が出版されました。今回は作者の深見春夫さんに、『あしにょきにょき』の誕生秘話、35年ぶりに出版した続編のおはなしを伺いました。
●作者が語る、「緑の男」の正体とは……?
───『あしにょきにょき』は、美食家のポコおじさんの身に起こった奇妙な体験を描いたナンセンスストーリー。豆を食べて、足が伸びる展開に、誰もがビックリしたと思います。
今でもときどき「よく出版出来たなぁ」と思います。当時、私はイラストを描く仕事をしていました。同時に、週刊マンガ雑誌にナンセンスマンガの連載をしていたんです。週刊マンガ雑誌といっても、今のように分厚いものではなく、週刊誌タイプの薄いものでした。それで、あるときふと、絵本を描いてみたいと思って、描いたのがこの『あしにょきにょき』だったんです。
───はじめて描いた作品だったのですか?
はい。もちろん、いきなりこの作品を思いついたわけではなく、絵本を描こうと思ってから数か月は、近くの図書館や書店の児童書コーナーに足を運んで、絵本についていろいろ研究しました。その知識と今まで私が描いてきたナンセンスマンガを合わせたものが『あしにょきにょき』なんです。
───デビュー作が30年以上も愛され続けているなんて、すごく珍しいケースだと思います。豆を食べて足が伸びるというストーリーは、図書館などで絵本を読んでいるときに思い浮かんだのですか?
ストーリーを考えるのに、相当時間がかかりましたね。ほかの絵本を見て、集中して考えて、一度作った作品をしばらく置いて、その間に他にも描けないかと考えて……。結果、ストーリーを決めるのに2か月くらいかかったと思います。私はもともと、ナンセンスマンガを描いていましたから、その流れを踏襲したおはなしになりました。
───たしかに、とてもナンセンス的だと思いました。アイディアは常に頭の中にストックしているんですか?
アイディアは潜在意識から浮かんでくることが多いですね。足が伸びる設定はおそらく『ジャックと豆の木』が潜在意識としてあったんじゃないかと思います。
───『ジャックと豆の木』! なるほど、だから、伸びるために必要なアイテムが「豆」なんですね! 「豆」を食べて左足がどんどん伸びていくポコおじさん。一体どこまで伸びるんだろう……とワクワクしながらページをめくっていくと、林をぬけて、橋を渡って、町の中を縦横無尽に伸び回ります。そして足の裏をくすぐられて戻っていくという最後まで意外な展開! このラストはかなり早い段階から考えていたのですか?
そうですね。足が元に戻って終わるための方法は、これ以外に選択肢がないように思って、割とすぐ浮かんだと思います。くすぐられている足の動きは、一番描きたかった場面ですね。
───とてもくすぐったそうに動いていて、感情があるように思いました。おはなしの中で、特に苦労したところはどこですか?
苦労したところは、最初のポコおじさんが豆を食べるところ。どうやってこのふしぎな豆を食べさせるか、かなり悩みました。
───導入部分の特に重要なところですね。そして、登場したのが読者が最も気になっている「緑の男の人」。この人はいったい誰なのか、絵本ナビのレビューでもいろいろな憶測が飛び交っています。
そうなんですよね。この男が何なのか、作者のぼくもさっぱり分からないんです(笑)。
───絵本ナビユーザーさんからは「ひょうひょうと去っていくそらまめオジサン、ナニモノ?! 是非この謎をとく続編がほしいです!」(ムスカンさん)、「もうこれは地球人ではない、そらまめ星からやってきた「そらまめ星人」に違いありません!」(MYHOUSEさん)など感想が寄せられています。
作者は何も考えていませんから、そういう風に深読みをしてくださっているなんて、ありがたいですね。「そらまめ星人」なんて、それで一本童話が書けてしまいそうですね(笑)。
───そのくらい、皆さんの想像力を刺激するキャラクターなんですよね、謎の緑の男の人は(笑)。こんなふしぎなおはなしが、どうやって出版に至ったのか、教えていただけますか?
おはなしができて、絵も描き上げた状態で、イラストレーターの仕事でお世話になった編集者さんに見てもらいました。残念ながらそこでは、絵本にしてもらうことはできませんでしたが、代わりに岩崎書店の編集長だった小西正保さんという方を紹介していただいたんです。
───小西さんは、『花さき山』や『モチモチの木』(作:斎藤隆介 絵:滝平次郎 出版社:岩崎書店)、『戦火のなかの子どもたち』(作絵:いわさきちひろ 出版社:岩崎書店)を手掛けられた編集者さんですね。
そうです。小西さんに作品を見ていただいて、「出しましょう」とほぼ即決だったと思います。
───即決! すごいですね。持ち込みに行ったときのストーリーのまま、出版されたのですか?
はい。原画まで完成させて見てもらったのですが、特に描き直しすることは言われませんでした。ただ、大きく変わったことといえば、ぼくが持ち込んだ原画は、右開きではじまるように描いていたんです。
───絵本は左開きではじまるようになっていますよね……。
そうなんです。「絵本は左から読むものです」って小西さんが仰って、原画を全部左右反転させて本にしたんです。
───えー! そんなことができるんですか?
ぼくも最初は逆版にしたら、どこかに矛盾が起きるんじゃないかと思ったんですが、実際に印刷されたものを見せてもらったら、違和感なく、スムーズに進行しているのでビックリしました(苦笑)。ただ、足の指だけは変になるから、描き直しましたね。それと、ナイフとフォークを持つ手、これも左利きの人ということで落ち着きました。
───確かに、ポコおじさんは、ナイフを左手に持っていますね。……ということは、もしかして伸びる足も最初は右足だったんですか?
はい。でも、言われないと違和感を感じないでしょう(笑)。なので、続編も左足を伸ばすことは決まっていたんです。