電話一本で「さあ、しごとだ!」と、どこへでも出かけていく、プロフェッショナル仕事集団―。「おたすけこびと」シリーズの新刊が、早くも登場です!
今回のタイトルは『おたすけこびととハムスター』。なんと作品づくりにあたり、文章を担当されたなかがわちひろさんも、絵を担当されたコヨセ・ジュンジさんも、実際にハムスターを飼われたのだそう。そんなハムスターLoveなお二人のハムスター談義から、おたすけこびとインタビュースタートです。
ペットのハムスターのために、まわし車をつくっていたおとうさん。 手にけがをしてしまい、どこかへ電話をかけました。 「あと、やってもらえますか?」 やがて、クレーン車、ショベルカー、ブルドーザーや高所作業車…働く車をそろえたこびとたちが、やってきました。 さあ、どんなまわし車ができるのかな? こびととハムスターが大活躍! 画面のすみずみまで楽しめる、 わくわくがいっぱいの絵本、待望の第四弾!
●「コヨセキンゴロウくん」と「なかがわおからちゃん」
───おたすけこびとインタビューもありがたいことに4回目。まずはやはり絵本のカバーの著者紹介の写真にも載っているハムスターがすごく気になるのですが(笑)。
コヨセ:やっぱり(笑)。
なかがわ:今回、お話を考えるにあたって考えたのは、「小さな世界にもどろう」ということだったんです。『おたすけこびと』ではバースデーケーキづくり、『おたすけこびとのクリスマス』ではサンタさんのプレゼント運び、『おたすけこびとのまいごさがし』では、子ネコの救出…と、シリーズを重ねるうちに、こびとたちはどんどん外の広い世界に出て行くようになったんですよ。なので今回は、最初とおなじく部屋の中、しかもテーブルの上というとても狭いスペースで、しかも働く車本来の魅力を発揮して、建設系の仕事をさせたかったんです。
───ハムスターを登場させる案は最初から考えていたんですか?
なかがわ:こびと達に何を作らせようかって、ずーっと考えていたんです。で、あるとき、「そうだ、ハムスターのための遊園地造成だ!」と思いつきました。最初はラップの芯や,牛乳パック、ペットボトルを利用した遊園地ができないかと思ったんです。けれど、だんだん焦点がぼけてきちゃって、遊園地案は一度ボツにしました。それから、ハムスターの幸せに本当に必要なものは何だろうと真剣に考えて(笑)「まわし車」を作ってもらおうと思い至りました。
───それでハムスターを登場させることに決まったんですね。
なかがわ:はい。ハムスターにもいろんな種類がありますが、大きさや性格から考えて、ゴールデンハムスターの1匹飼育がいいなと決めました。で、次にやった作業は、まわし車の設計でした。それがこのまわし車です。
───すごい! 本当に絵本に出てくるまわし車そのままですね!
なかがわ:おたすけこびとが作るなら、プラスチック製のまわし車より、やっぱり木製だよねって考えて、棒と棒の間に足を挟まない幅や、ハムスターが回せる大きさなどを考えているうちに、作ってみないことには、わけがわからなくなっちゃったもので。実際の作業は夫にも協力してもらいながら(笑)、何とか完成させたんですが、本当にハムスターが遊んでくれるかをやはり検証しなければね。うちは今まで何匹もハムスターを飼ってきたんですけど、ちょうど、切れていまして(笑)、まわし車が完成した日に、買いに行きました。それが、おからです。からだの色がベージュで、おから色だからですけど、漢字だと「雪花菜」って書くんですよ。きれいでしょ。おからちゃんは、すぐにまわし車で遊んでくれて、大のお気に入りになりました。ということで、めでたく絵本のテキストを完成させることができたわけです。
↓こちらが「おからちゃん」です!
コヨセ:そうして出来上がった原稿がなかがわさんから来たんだけど、そのとき一言「コヨセさんもハムスター飼ってね」って言われたんです(笑)。
───それでコヨセ家に来たのが、キンゴロウくんだったんですね。
コヨセ:はい。僕はハムスターを飼ったことはなかったんですが、「ハムスターはゴールデンにしてね」となかがわさんからアドバイスをいただき、買いにいきました。
↓コヨセさん家のキンゴロウくん。
───では、今回はハムスターのポーズをしっかり実物で観察できたんですね。
なかがわ:それが、ハムスターって夜行性なんですよ。でも、コヨセさんは早寝早起き、朝型体質なので…。
コヨセ:ずっとすれ違い生活でした(笑)。キンゴロウは僕が寝るときに起きてきて、「カカカカカ…」ってまわし車を回す音が聞こえてくる…。
なかがわ:それでも、見返し部分にはコヨセさんのハムスター愛がこれでもかと描かれてますよね(笑)。
コヨセ:ただ、実際に飼ってみたら、うちのキンゴロウは他のハムスターとは違って、随分マイペースな性格だったんです。
───マイペースな性格というと?
コヨセ:例えば、ハムスターって、えさを頬袋に貯めて、自分の小屋に貯蔵しますよね。でも、うちのキンゴロウはその場でむしゃむしゃ食べちゃって、巣穴に持って帰ることをしないんですよ。それと、寝るときはお腹を出して眠るんです。
なかがわ:絵本でもハムスターがお腹を出して寝ている絵があるんですが、これを見たときに私、「こんなハムスターはいません!」と言ったんです。でもネットでよくよく調べたら、「うちの子は警戒心がなくて、お腹をだして寝ます」って書いている人がみつかって。「ああ、キンゴロウは警戒心のない子なんだ…」って納得したんです。
───じゃあ、『おたすけこびととハムスター』に出てくるハムスターのモデルはほぼキンゴロウくんなんですね。
コヨセ:体毛の色や割合はキンゴロウですね。でも、ポーズや行動などは一般的なハムスターの資料も参考にしつつ、なかがわさんのところのおからの話も取り入れつつ描きました。
なかがわ:確かに、まわし車をすぐに回すところなんかはおからですね。でも、ウエスト寸法をおとなしく測らせてるところなんかはキンゴロウくんなんです(笑)。
───こびと達が事前にハムスターのことを調べてから現場に臨んでいることに感動しました。
なかがわ:もちろん、彼らはプロフェッショナルですから(笑)。えさも準備して、事前にハムスターの生態についての研修もすませて、準備万端なんです。
コヨセ:でも、ケージから出ているのは予定外だったんだよね。
なかがわ:そう。実物ハムの大きさには、さいしょ、ちょっとたじたじ。ハムスターって本当によく脱走しますからね。
コヨセ:…うちはあまり脱走しない…。
───こびとがハムスターに抱きついている場面も可愛いですよね。
なかがわ:これはえさをあげて、お礼にギュッてさせてもらっているんです。
コヨセ:可愛いよね。大人でも太った人とか大柄の人なんかに抱きつきたくなるじゃない。ああいう心境だよね。
なかがわ:え? 私はあんまり思わないけど…(苦笑)。
───そして、まわし車を回す場面。ハムスターが無心に回していてすごく可愛いんですが、実物のまわし車も、回すととてもきれいな色になるんですね!
なかがわ:これは最初から意図したわけではなく、家にたまたまあった塗料で「いろんな色に塗り分けて、グラデーションにしたらきれいかも…」と思って並べて回したら本当にキレイでビックリしちゃったんです。
コヨセ:僕もなかがわさんからこのまわし車を貸してもらって、感動しました。これは絵本の中でも描かなきゃいけないと、即決でしたね。
なかがわ:しかも、この絵の具は「バターミルクペイント」という、なめても体に害のない絵の具なんです(笑)。
───さすがの徹底ぶり!前回、なかがわさんのお宅にお伺いしたときのパフェパーティも新作『プリンちゃんとおかあさん』(文:なかがわ ちひろ、絵:たかお ゆうこ、出版社:理論社)の制作の一環とおっしゃっていましたけど、作品を創作されるときにこれだけしっかりと現物を作られてから考えられる、というのも珍しいことですよね。
なかがわ:今回は特にハムスターがまわし車で遊んでくれるか、どうやったら、おたすけこびと達にまわし車が作れるか…など、具体的に考えないと進まないお話だったんです。
「おたすけこびと」の話って、妙に現実的なんですよ。絵本だからつじつまが合わなくても良いって考えるのは簡単ですが、本当に働く車が好きな子ども達は、子ども達なりに理詰めで考えているから、あなどれない。やっぱりその思いは裏切りたくないですよね。
コヨセ:「おたすけ会議」でも、こびと達の舞台を真剣に現実として考えていて、「これは難しいんじゃないか」とか「これは現実的ではないんじゃないか」とか。…でもそもそもこびとという存在がファンタジーなんだけど…って(笑)。でも、僕達がこびとを真剣に考えることにおたすけこびとの醍醐味があると思うんです。
なかがわ:ていねいに、ひとつひとつのリアリティを積み上げていると、それがファンタジーの強さになると思います。その飛躍を裏付けるためには、やっぱりリアルな部分がしっかりしていないといけないと思う。だから、今回の『おたすけこびととハムスター』では実際にまわし車を作ることが必要だったんです。