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「みんいく」絵本『ねこすけくん なんじにねたん?』木田哲生さん、 伊東桃代さん、さいとうしのぶさん インタビュー

慢性的に睡眠不足の子どもたちが年々増えているそうです。『ねこすけくん なんじにねたん?』(リーブル)は、しっかり眠れていないとどんなことが起こるのか、睡眠の大切さが小さな子どもにもわかるように作られた絵本。『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』(リーブル)などで人気の絵本作家、さいとうしのぶさんが絵を描いています。文章は、大阪府堺市で睡眠教育の活動「みんいく」を続けてきた木田哲生さんと、いずみがおか幼稚園主幹保育教諭の伊東桃代さんの共著。教育現場で働く先生から子どもたちへ思いがこもった絵本です。いずみがおか幼稚園でお話を伺いました。

ねこすけくん なんじにねたん?
編著:木田 哲生 伊東 桃代
絵:さいとう しのぶ
監修:三池 輝久
出版社:リーブル

ねこすけくんは、このごろ元気がありません。にこにこえんに来てもぼんやりして、あそぼうとしないので、かばこ先生もなかよしのうさちゃんもとても心配です。うさちゃんはねこすけくんが夕べねた時間をきいて、びっくりしてしまいました。そこで、うさちゃんは、自分が何時にどんなふうにしてねて、何時におきるのか、話しました。ねこすけくんが、うさちゃんのようにやってみると──。「みんいく」地域づくり推進委員会編の小さい子どもたちがしっかりねむっていないために起こるいろいろなことをとりあげている絵本です。少しでもそんな子どもたちが減ってくれるようにと願います。

ねこすけくん、どうしたら早く園にこられるんかなあ?

───『ねこすけくん、なんじにねたん?』は、眠そうなねこすけくんが、お母さんに手を引かれてにこにこえんに登園する場面からはじまります。もう園の子どもたちは元気いっぱいで遊んでいるのに、ねこすけくんはお母さんから離れようとしません。なんだか元気がないですよね。

伊東:朝起きられない子って、遅れて登園したあと、遊びの輪の中になかなか入れないんです。だいたいそういう子は毎日そうなっちゃう。お母さんたちは、園の活動が苦手なんじゃないか、しんどいんじゃないかとか思われるみたいですけど、そうじゃないと思うんです。遊びの場ができたあとに後から入ってくるって、誰でもつらいよって……。そんなイメージをまず絵本で伝えられたらいいなと思いました。


いずみがおか幼稚園主幹保育教諭の伊東桃代さん

───たしかに、大人だって、途中から仲間に入っていくのは勇気がいりますよね。

伊東:だから私たちも、「早く来ないと、あそべないよー」と、よく遅れてくる子に言ったりするんです。遊びの輪の中に入ってしまえば、子ども同士はあっという間なんですけどねえ…。

───せっかく登園してきたのになかなか遊ばないねこすけくんに、仲良しのうさちゃんは、「もっとはやく えんに きたらいい」と言います。ここから「おきたじかん」「ねたじかん」の話になりますね。この絵本は、どういったいきさつで作ることになったのですか?

伊東:木田哲生先生たちと一緒に、地域の睡眠教育「みんいく」の一環として、就学前の子どもたちやその保護者にも読んでもらえる絵本を作ろうということになり絵本作りをはじめました。

───「みんいく」ですか?

木田:「みんいく」とは、睡眠についての教育です。私はもともと中学校の教員で、生徒指導主事として多くの不登校生徒と関わってきました。「学校に行きたいけど行けない」という子どもたちのために、解決方法を探る中で、睡眠不足や睡眠時間の乱れが子どもの深刻な体調不良に影響していると知り、 何とかしたいと思うようになりました。そこで“地域づくり推進委員会”を組織して、子どもや地域への「みんいく」をはじめて3年になります。各学校の養護教諭さんのチームや幼稚園チームなど、いくつかのチームにそれぞれにわかれて活動していまして、幼稚園チームでは伊東先生を中心に2年くらいかけて絵本を作っていました。

伊東:作る過程で、「今こんな絵本を作っています」とスライドなどで園の保護者にも報告していました。お母さん方は「こういうものを見せられると胸が痛いわー」って(笑)。子どもは早く寝かせたほうがいい、とか、睡眠時間が大事だというのは、みんな心のどこかでわかっているんですよね。でも毎日忙しくて、なかなか早く寝かせられない。私も正直言って人のことを言えませんもの(笑)。

さいとう:幼稚園の先生もお忙しいですよね。私もいろんな働くお母さんとお会いしますが、「今ね、こんな絵本作ってるんですよー」とおしゃべりすると、だんだんその方の顔色が青ーくなっていくんですよ(笑)。彼女たちもおうちではお母さんで、働いたあと保育園に迎えにいって、ごはん食べさせてお風呂入れて……。「夜の9時までに寝かせられないー」って落ち込んだ顔になって……。みんな悩んでるんだなあと。


絵本作家・さいとうしのぶさん

木田:子どもだけを早く寝かせようとしても難しいんですよ。大人も本当は夜早く寝るようにしないと。 不登校の子たちは「意思が弱い」「怠けている」と、個人の問題と考えられることが多いですが、私はそれだけでは説明がつかない、何か子どもたちの体調不良の問題があると感じていました。あれこれ試してみても不登校の改善につながらず悩んでいたときに、平成27年1月に放映されたNHKのドキュメンタリー番組で、生体リズムと不登校の関係を研究している、小児科医の三池輝久先生を知りました。三池先生は、「体内時計」と「現代社会の生活時間」のズレが、子どもたちの心身に負担をかけていること、子どもの脳機能低下や様々な病気を引きおこしていることを説いていました。「これだ」と思って三池先生に会いにいったのが、私が「みんいく」に取り組むきっかけです。


堺市教育委員会学校教育学部生徒指導課・木田哲生さん

───三池輝久さんはこの絵本の監修者でもありますね。

木田:はい、出来上がった絵本に目を通してくださいました。乳幼児期の睡眠研究や、小学生の「登校渋り」「体調不良」の背景などについて、「あとがき」で書いたところは、医学的・理論的なベースをふまえてご指導くださいました。

伊東: 活動をはじめた当初は、ポスターを作ったり、睡眠教育の教科書みたいなブックレットを作ったりしていたんですが、やっぱり私たちが日ごろ、園で教材として使うのは絵本なので、絵本を作ってみたいなと思っていました。でも本格的に作れるかどうかわからないし、まずは紙芝居でもできたらいいかなと思っていたんです。でも木田先生が「本物にしましょうよ」と言ってくださって、卒園児の保護者のさいとうしのぶさんが絵を描いてくださることになり、絵本作りがスタートしました。

さいとう:主人公の子を、ねこにするか、くまにするか。女の子はうさぎにするか、トイプードルにするか。先生たちも、最初は悩んでいましたね。


キャラクターラフ。左案がねこすけくんとうさちゃん。右案はくまとトイプードルの女の子でした。

伊東:いろいろ考えて、最終的にねこにして名前はどうしようかと。「ねこきち」?「ねこた」…?と考えていたらうちの教頭先生が「『ねこすけ』で『ねぼすけ』でいいだろう!」って(笑)。

───かわいいですね! ねこすけくんの起床時間を聞いたうさちゃんが、「9じ!? それやったら、ねこすけくんじゃなくて、ねぼすけくんやん!」と叫ぶところはおもしろかったです(笑)。

さいとう:文章について話し合っていたとき、「ツッコミ入れるのはどうですか」と木田先生がおっしゃったんですよね(笑)。

伊東:そうそう(笑)。ねこすけくんとうさちゃんのやりとりの場面も、「3段オチみたいなのを入れたいけど、どうすればいいと思う?」とうちの職員たちに相談しながら作りました。「もっとはやくきたらええねん」ってうさちゃんが言って、ねこすけくんが「はやく? どうしたらはやくこれるんかなあ?」「スポーツカー? しんかんせん? ひこうき?」「そうそう、はやいのりもの…… ちがうねん! はやくおきたらええねん!」って(笑)。

───かけあいのテンポがよくて読みやすいです(笑)。お話の文章はどなたが書いたのですか?

さいとう:文章は全部伊東先生です。場面分けをして、それぞれの場面に入れる文章を考えていただきました。最初は文章が多かったので、絵でわかってもらえるかなというところは文字数を減らしたりしました。 絵本作りにあたっては、伊東先生に「こうしたい」という希望がちゃんとあったので、私も進めやすかったです。さすがだなと思ったのは、ふつうだったら、例えばかばこ先生が「夜遅くまで起きていたらダメよ」と言って聞かせそうなところを、うさちゃんが、ねこすけくんと一緒にどうやったら早起きできるかを考えてくれる。しっかりものの女の子と、眠れていない男の子の設定が、すごいなあ、さすが伊東先生やなあと思いましたね。

伊東:園の現場で子どもを見ていて感じるのは、先生が教えるのではなくて、友だちが教えることのほうが、じつは、あの子たちの中にいちばん浸透するんだな、ということなんですよ。先生が上から言って聞かせるよりも、横で手をつないでいけるクラス運営がしたいんです。たいてい、しっかり者の女の子が何人かいて、クラスをうまくまとめてくれます。

さいとう:うちの子どもが幼稚園に通っていたときもいましたよ、同じクラスにしっかり者の女の子が(笑)。

伊東:何となく、女の子の名前は2文字のほうがぱしっとしてて、しっかりしてるイメージがあって(笑)、だから絵本でもうさこちゃんじゃなく「うさちゃん」なんです(笑)。困った子を見つけて声をかけてくれる、うさちゃんのようなしっかりさんが、「はやくおきたらいいやん」って言ってくれたら。子ども同士の思いやりの中で、読者の子たちも「ねこすけくん」に気づいていってくれたらと思っています。

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木田哲生(きだてつお)

  • 堺市効率中学校保健体育科教諭として勤務し、現在、堺市教育委員会。平成28年度読売教育賞最優秀賞受賞、平成28年度国際学会「Higher Education Forum」Best Paper Award(2位)受賞など。著書に『睡眠教育のすすめ―睡眠改善で子どもの生活、学力が向上するー』『眠育ハンドブック』(共に学事出版)など。

伊東桃代(いとうももよ)

  • 学校法人常磐会学園常磐会短期大学付属いずみがおか幼稚園教諭。現在、主幹保育教諭として勤務しながら、担任としてクラス運営も行う。子育て認定講座や幼児教育指導者養成研修を修了し、幼児教育推進リーダーとして活躍中。後進に対する研修マネジメントや、「幼稚園における預かり保育」に関する実践発表なども行っている。

さいとうしのぶ

  • 堺市に生まれる。嵯峨美術短期大学洋画科卒業。テキスタイルなどのデザイナーをへて、インターナショナルアカデミー絵本教室に学ぶ。
    作品には、『あっちゃんあがつく』(原案・みねよう)『しりとりしましょ!』『おしゃべりさん』『おかしなおかしなおかしのはなし』『へんてこかぞえうた 1ちゃんいちにち』『どっきりかぞえうた ちょっぴりこわいぞ』(うた・高木あきこ)『きしわだのだんじりまつり』(作・なかむらしょうこ)『たべものかるた』(原案・みねよう)─以上リーブル
     『ぎゅうって』『よーい よーい よい』『あぶくたった』『おべんとうばこのうた』─以上ひさかたチャイルド『たこやきようちえん』(ポプラ社)『べべべんべんとう』(教育画劇)『おいしい おと なぁに?』(あかね書房)『まほうのでんしレンジ』(原案・たかおかまりこ ひかりのくに)『てんとうむしのはじめてのレストラン』(アリス館)『まんまるおつきさん』(作・ねじめ正一 偕成社)『おはなし だいどころ』『おはなし きょうしつ』(以上PHP研究所)『十二支のかぞえうた』(佼成出版)『子どもと楽しむ行事とあそびのえほん』(産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞 のら書店)など多数。

作品紹介

ねこすけくん なんじにねたん?
編著:木田 哲生 伊東 桃代
絵:さいとう しのぶ
監修:三池 輝久
出版社:リーブル
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