ハツカネズミからブラックホールまで、万物の寿命を集めたユニークな視点と、やまぐちかおりさんのかわいらしいイラストが話題となった『寿命図鑑』。
そのコンセプトを引き継いだ、おもしろ図鑑第2弾『失敗図鑑』が出版されました。
発売に際して、『寿命図鑑』『失敗図鑑』の企画ディレクションを手がけた編集者の河北亜紀さんと、『失敗図鑑』でアートディレクションをした本田琢馬さんへのインタビューが実現しました! 絵本に近い「図鑑」の企画を思いついたきっかけや出版するまでの苦労など、制作への思いを伺いました。
●彦星と織姫にまつわるトビリアから生まれた『寿命図鑑』
───『寿命図鑑』は、イラストがぎっしり詰まった、絵本のようなかわいい図鑑です。普通の図鑑とは違う雰囲気の本を作ろうと思いついたきっかけは、なんでしたか?
河北:実は『寿命図鑑』を考えたときには、図鑑を作りたいと思ったわけではなかったんです。最初は「星の本を作ってみたい」と思っていて、星について調べたときに、彦星と織姫に関するおもしろい話を見つけたんですね。
───彦星と織姫といえば、七夕ですね。
河北:そうです。物語では2人は1年に一度、七夕の日にしか会えないと書かれています。でも、アルタイル(牽牛星)とベガ(織女星)という星の寿命を人間の寿命に換算すると、実は一日3回も会っていることになるんです。この豆知識を知ったときに、「寿命って、おもしろいな」と思いました。もともと、小学生の道徳の授業で「命」を扱うテーマにかなり関心があったので、寿命を集めた本があったらおもしろいかもと思い、企画を立てました。
───発想がおもしろくて、図鑑としては例のない企画だと思います。本の企画を出したときの社内の反応はどんな風でしたか?
河北:編集長からは「寿命がいっぱい並んでいることによって、命の大切さを伝えられるところがいいね」と言われました。
───図鑑というと写真を使うイメージですが、イラストにしたのはなぜですか?
河北:私が漫画やイラストが好きだったのと、絵で表現するほうが、この本のカラーを表現できるかなと思ったんです。『寿命図鑑』の文章は、私が全部書いたのですが、例えばゴールデン・ハムスター「お父さんには二度と会えない」というキャッチコピーのように、ゆるくて、ちょっとシュールな感じを、イラストでも出したかったんです。この雰囲気が好きな読者さんには好評だったので、よかったなと思います。
───『寿命図鑑』の制作で、いちばん苦労したことはなんでしたか?
河北:参考にするものが世の中にないので、ゼロから作るところが大変でした。絵や文をどんな風にレイアウトしていけば、読みやすくて見やすくて、普通じゃないおもしろさが出せるのか、手探りで勉強しながら作って。ページのイメージを固めるために、何枚もラフを描いては編集長に見てもらって……と、1年ぐらいかけて制作しました。
───ご紹介したものは一部ですが、本当にたくさんラフを描かれたのですね。
河北:改めて並べると、たくさん描きましたね。先が見えなくてしんどいこともありましたけれど、アイデアを出したり、調べていておもしろいエピソードが見つかったりしたときには、心がおどりました。そういうことで、モチベーションを維持していたと思います。
───『寿命図鑑』に登場するモノたちには、すべて天使の輪が描かれていますが、ラフの段階から天使の輪と神様のアイデアがあったんですね。
河北:作り始めたときには、特に考えていませんでした。でも作りながら、寿命というテーマと、普通の図鑑ではないということが、見た人にはっきりと伝わるような工夫が必要だと思ったんです。そこで、「寿命を迎えたモノが、神様のいる天国に行って、天使の輪がつく」というビジュアルテーマにしようと思いつきました。『寿命図鑑』では、企画のコンセプトに合わせてビジュアルのテーマを作ると、すごく世界観が出る作品になることが学べたので、その後の本づくりにも役立ちましたね。