『がたごと がたごと』『おばけでんしゃ』や『ようちえんがばけますよ』など、ちょっとへんてこで味わいのある絵本を、数多く世に送り出している2人組といえば……? 内田麟太郎さんと西村繁男さん! それぞれにベストセラーがある代表的な作家さんでありつつ、ふたりが生み出す作品世界にもファンが多いのです。
このたび『とろ とっと』(くもん出版)発売を記念して、ご両人そろっての貴重なインタビューが実現しました。内田さんと西村さんの間に漂う、独特の空気をどうぞお見逃しなく!
「とろ とっと とろ とっと トロッコでんしゃが やってきます」 走ってくる一台のトロッコ電車。 「のりますよ。のりますよ。こどもも こぞうも のりますよ」 「どうぞ どうぞ。どなたも どうぞの でんしゃです」 駅で子どもたちが乗りこみます。それに混ざって、子象? そうです、だって子象は「こぞう」だから。 随所にことばあそびを散りばめながら、子どもたちに動物、虫やおばけなど、たくさんのお客さんを乗せて、トロッコ電車は「とろ とっと とろ とっと」と進んでいきます。 『ようちえんがばけますよ』『おでんさむらい』などで子どもたちの心をつかんできた内田麟太郎、西村繁男のコンビが、ナンセンスで不思議な世界を生み出します。 どんどん変わっていく景色や、乗ってくるユニークな乗客たちをじっくり楽しむのもよし。ことばあそびでくすりとするのもよし。 たくさんの楽しみ方ができる、あそび心に溢れた一冊です。
●『とろ とっと』トロッコ電車のゆる〜い世界
───内田麟太郎さんと西村繁男さん、おふたりがタッグを組んだ新作絵本『とろ とっと』ができましたね。ファンの読者は嬉しいと思います!
内田:西村さんとはこれまでいろんなことを絵本で試しているから、困っちゃうんだよね。はじめて組む画家さんなら、そこまでは考え込まないんだけど……。 何か次にやるなら、やっぱり新しい試みをしないといけないと思うじゃないですか。
西村:内田さんは、これまでの作品と似た内容だと、ぼくが興味を持って絵を描かないだろう、と、勝手に思ってくれているんですよ(笑)。いつも原稿をもらうとき、ちょっとずつ毎回違ったことをしなきゃだめって言われてるみたい。
───内田麟太郎さんは、1985年に長新太さんとの絵本『さかさまライオン』(童心社)でデビュー以来、ベストセラー「おれたち、ともだち!」シリーズ(偕成社)をはじめ、月刊絵本や紙芝居なども含め200冊をはるかに超える著作があります。
一方で1974年に『くずのはやまのきつね』(福音館書店)でデビューされた西村繁男さんは、精緻な観察をもとに人々の日常の姿を描いた『おふろやさん』『やこうれっしゃ』、徹底した取材で描いた『絵で見る 日本の歴史』『絵で読む 広島の原爆』(以上、すべて福音館書店)などが代表作ですが、1999年『がたごと がたごと』(童心社)を皮切りに、内田麟太郎さんが文章を書かれるナンセンス絵本を、いくつも手がけていますね。
内田:何年か前に、西村さんと『ようちえんがばけますよ』(くもん出版)を作ったでしょう。あれは四回転半なのよ。
───2012年に発表された『ようちえんがばけますよ』ですね。四回転半……ですか? フィギュアスケートの?
内田:そうそう。きつねが「ばけますよ ばけますよ。ようちえんが ばけますよ」と言うと、幼稚園も人も何もかも変身しちゃうんだけど。これはもう、読む側の想像力をかきたてるナンセンスさがすごいなと思うの。どう頑張ったって、あの四回転半を超えるものはそうそう作れない。
西村:あははは。
内田:結局、新しいことを……と考えて今回たどりついたのが、漫画の吹き出しみたいなものなんだよね。これはまだ試してなかったんじゃないかなと。あと、ダジャレね。 絵本作家の中でも中川ひろたかさんや高畠純さんみたいなスピード感のあるダジャレじゃなくて、長谷川義史さんのテンポでもなくて、僕と西村さんだからできる、ゆる〜いダジャレなの。
───たしかに、こんなにゆるい感じははじめてかもしれませんね(笑)。電車の音も「とろ とっと」だし……。
内田:「とろとっと」とつなげるんじゃなくて、「とろ」「とっと」と、間が半拍空いているのね。この音を見つけるまでが実は大変なんですよ。
───なるほど……。
内田:たとえば、今回はトロッコ電車にしてみようかと思って「とろたった」「たんたたん」とか音をいくつか考えますよね。でも、いや、トロッコの走る音じゃないな、速さや馬力がちがうなと。
それまでぼんやり、ぽこぽこっと「こういう場面がおもしろいかなあ」というエピソードがいくつか頭に浮かんでいるんだけど、その場面まで行く、肝心のトロッコ電車の音がすぐには見つからないのよ。音を見つけないと、トロッコが動いてくれないわけです。
「とろ とっと」という音が出てきたときに、のんびりした、馬力もあまり大きくない感じがして、「あ、この響き、好きだなあ」と。「とろ とっと とろ とっと」と声に出してみると「あぁトロッコが動いていくな」と思うわけ。それを見つけるまでいろいろ考えますね。
───『むしむしでんしゃ』(童心社)のいもむし電車が「ののたん ののたん」と走る音にも感動しましたが、やっぱり内田麟太郎さんでも音を見つけるまでは時間がかかるんですね。
内田:まあ、でも何日も悶々とするわけじゃなくてね。時間にしたら、せいぜい2、3時間くらい。
(一同):ええっ、2、3時間!?
西村:ははは(笑)。そうなの?
内田:だって、ふだん詩を書いている(*)わけだから。その延長で、こうかな、ああかなと考えるわけですよ。そのうち言葉が降りてくるというか、これならいいかなという言葉が見つかる。
*内田麟太郎さんは児童書を書く以前から詩を書いていて、詩集の著作も多い。『これでいいへら』(潮流出版社、1969年)、『あかるい黄粉餅』(石風社、1996年)。ほか少年詩集に『しっぽとおっぽ』(岩崎書店、2012年)、『たぬきのたまご』(銀の鈴社、2017年)など。
───内田麟太郎さんは絵本の文章を書くとき、映画や舞台の台本のようにト書きをつけるとお聞きしました。
西村:ぼくは、内田さんの原稿が来るとすごく嬉しいんですよ。文章とト書きをあわせて、内田さんの一つの作品として、ぼくは受け止めているんですけどね。ト書きもほんのちょっとしか書いてないんだけど、それを読むと自分の発想が広がるんですよ。内田さんがどこにも書いていないことを、どう絵に入れるかが挑戦なんです。それが、おもしろいんですよ。
西村:結局、内田さんの原稿が、ぼくは合ってるんだろうね。どこがって言われるとわからないけど、のんびりしているというか……。内田さんはあんまり締め付けないじゃない。ぼくもそういうのは好きじゃないから。