ブリキのおもちゃやお店の看板、アドバルーンなど、昭和の雰囲気まんさいのシュールな世界を、細部までぎっしり丁寧に描きこむ画風の大串ゆうじさん。2016年に発売された初めての絵本『しょうてんがいくん』(偕成社)で、「こんな絵見たことない!」「不思議で楽しい」と読者の心をつかみ、着実にファンを増やしています。そんな大串さんの2冊目となる絵本、『ねたあとゆうえんち』(白泉社)が発売されました。絵本の制作にまつわる話を、大串さんにお聞きしました!
●子どものころから、細かくきっちり描いた絵を見るのが大好き!
───大串さんは、もともとイラストレーターとしてご活躍されていたそうですが、絵本を描いたきっかけはなんでしたか?
玄光社さんが主催している誌上コンペ「ザ・チョイス」というものがあるんですが、2012年に行われた「第29回ザ・チョイス大賞」で賞をいただいて、その展示会が行われたんです。その展示会で「阿佐ヶ谷君」のイラストを見てくれた編集者さんが、すごく絵を気に入ってくださって、「こういう感じで、絵本が作れますか?」と声をかけていただいて。絵本は描いたことがなかったんですが、ぜひやってみたいという気持ちになって、「やります!」と答えました。
───「阿佐ヶ谷君」の絵は、とってもインパクトがありますね! 小さなお店が集まっている感じや看板の文字など、全体的に昭和レトロな感じがあって。それがロボットみたいなキャラクターになっている不思議さと合わさって、「なにこれ!?」とびっくりします。
昭和っぽい商店街とか飲み屋さんの看板とか、そういうちょっとレトロなものがすごく好きで。小さな店がごちゃごちゃあって、おじさんがいっぱいいる路地裏も、ドキドキしちゃうんです。 でも、生まれ育ったのは、イラストにあるような雰囲気の街じゃなくて。それで下町のような雰囲気の場所に憧れがあるんです。小さいころ、父といっしょに東京に遊びに行ったときに、お店がたくさんある商店街の一角で食べた立ち食いそばが、今までで一番おいしかったなって思うくらい(笑)。デパートの屋上にある遊園地も好きでした。そういうちょっとレトロなものを、絵や作品として、なにかやりたいなとずっと思っていたんです。
───イラストには、大串さんの憧れや好きなものが詰まっているんですね。
はい、そうですね。小さいころから好きなものが、たくさん入っています。
───小さいころは、どんな遊びが好きでしたか?
レゴブロックで、基地を作るが大好きでした。砂場でも、山を作ってトンネルを掘ったり、基地みたいなものを作ったり。UFOとか、ムー大陸滅亡といった不思議なものも好きでしたね。だからイラストにも、自然と入ってしまいます。
───好きだからこそ、ついつい描いちゃうんですね! 小さいころに好きだった絵本はなんでしたか?
加古里子さんの『海』(福音館書店)の、断面図がすごく好きでした。それと、安野光雅さんの『あいうえおの本』(福音館書店)。不思議なだまし絵みたいなものや、細かくてきっちり描いてある絵に惹かれるんです。その絵を細かく見るのも好きで。
───そうなんですね! 大串さんのイラストを見ると、お二人の影響を受けているのがよくわかります。『ねたあとゆうえんち』も、遊園地のシーンはぎっしりと描きこまれていて、「いったいなにがあるんだろう」と絵を見ているだけでわくわくします。『ねたあとゆうえんち』は、どんなアイデアから生まれたのですか?
小さい子って、眠いのになかなか寝ないので、「なんでだろう?」と思ったんです。もしかしたら、自分が眠った後にもっと楽しいことが待っている気がして、寝るのが悔しいのかなって(笑)。「そんなことが自分もあったなぁ」、「寝るって不思議だなぁ」と考えながら、夜に散歩をしていたときに、子ども部屋の窓にウィーンとベルトコンベアが来て、子どもたちが運ばれていくというシーンが思い浮かんだんです。
───子どもたちが運ばれていく先が、遊園地なんですね。
───そんな楽しい発想から、『ねたあとゆうえんち』が生まれたんですね。次のページでは、絵本の制作の様子について聞いてみました!