ラテールとアースセイバー 絶滅危惧種が教えてくれること(フレーベル館)
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インタビュー
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2020.02.20
日本語の専門家として、数々の本を執筆し、テレビなどでも活躍している言語学者の金田一秀穂さん。学研の小学国語辞典には、父親の金田一春彦さんと共に、35年以上にわたり監修者として携わってきました。
今回、2020年度の学習指導要領の改訂に合わせて出版された『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版』の発売を記念して、杏林大学にある研究室にお邪魔しました。
監修というお仕事のこと、子どもたちが手にする「小学国語辞典」への思い、さらに子どもの頃好きだった本についてもたくさんお話を伺いました。
出版社からの内容紹介
全ページオールカラー。文字が大きく、言葉をさがしやすい。収録語数は類書中最多の43300語。イラストや写真が多く、すべての漢字にふりがなつき。類語の解説が充実していて、文章表現に役立つ。巻末には、ミニ漢字字典。漢字ポスター・小冊子つき。
───金田一秀穂さんは、お父様の金田一春彦さんと共に、長く学研の「小学国語辞典」に携わっていらっしゃいます。
学研さんは『新レインボー小学国語辞典 改訂第5版』でいち早くオールカラーの国語辞典を出版されました。オールカラーの国語辞典を初めて見たときはやはり驚きましたか?
驚くというよりも「そういう時代になったんだな」としみじみと感じました。今は子どもの環境がカラフルになっていますから、辞書だからって偉そうに「辞書でござい!」っていう顔をしていたら、やっぱりいけないんですよ(笑)。
むしろ楽しい雰囲気で親しみを持ってもらうように変えていくのはとても良い傾向だと思います。
───そういう意味では学研さんはかわいい「ディズニー版」デザインの小学国語辞典を出版していますね。
ディズニーは子どもだけでなく大人も大好きなんですよね。
出版社からの内容紹介
全ページオールカラー。収録語数は類書中最多の43300語。すべての漢字にふりがなつき。類語の解説が充実していて、文章表現に役立つ。巻末には、ミニ漢字字典。漢字ポスター・小冊子つき。ケースはかわいいディズニーの仲間で、楽しく学習できる。
───金田一先生もディズニーキャラクターはお好きなんですか?
ぼくは特に「不思議の国のアリス」のチェシャ猫が好きなんです。ディズニーランドに行った学生がチェシャ猫のぬいぐるみをお土産でくれるので、研究室にたくさん飾っています。
───今回、辞書の監修の方にはじめてお話を伺うのですが、「監修」というお仕事は国語辞典づくりにどのように関わっているのでしょうか?
我々監修者は、辞書の全体的な方向性や大きな方針を示します。編集部の皆さんがそれを受けて、辞書の構成や製作を行います。次に監修者は、内容がある程度固まった段階で見て、気になったところを指摘したり、より良くなるようコメントをしたりしています。
───『新レインボー小学国語辞典 改訂第6版』の中で、金田一先生のお気に入りのページはありますか?
新しくできた「ことば選びのまど」は良いですね。
このコラムは、言ってしまえばとても分かりやすい類語辞典です。類語辞典ってなじみのある人は少ないと思うんですが、実はとっても便利なものだし、あるといいものなんですよ。語彙が広がるし、伝えたいことをより的確な表現で言葉にできますから。
子どもの頃から、類語辞典に慣れておくと、大人になったときにもっともっと役に立てると思い、今回、コラムにしてもらいました。
───語彙は知らないと使えませんし、学習指導要領の「表現力」にも大きく関わってくるものですよね。
そうです。知らない言葉を覚えるというのももちろん大切ですが、“知っているんだけど、使ったことがない”言葉がありますよね。これは「理解語彙」と呼ばれるのですが、それを実際に日常の中で使って「使用語彙」にする。そういうことをぼくはもっと広く伝えたいですね。
「驚く」を「驚愕」や「脅威」という言葉で表現してもいいんですが、そこをあえて「鳩が豆鉄砲を食ったようだ」とか「青天の霹靂」とか使ってみる。そうすると文章の中に人間的な温かさが生まれると思うんです。そういう文章が良い文章だと思うし、そういう言葉のセレクトを自然とできるところが粋なんですよ(笑)。
───大人でも、会話の中でなかなか使うことが少ない言葉ですね。粋な表現がすらっと出てくるようになりたいと、よく思います。
昔は身近に粋な大人がたくさんいたんですよ。残念ながら今、日常でそういう言葉を耳にする機会が少なくなっています。だから、辞書を引いて、知って、気に入ったら使ってもらいたい。
そういう意味でもこの「ことば選びのまど」はオススメですね。
───辞書というと1ページに膨大な量の言葉が載っているものだという先入観があったのですが、見開きを使って見やすく類義語が紹介されているのはとても斬新に感じました。
たしかに、辞書の中で左右の両ページをまるまる使った見せ方というのはやってこなかったように思いますね。今回はこういう形にしたけれど、もしかしたら次の改訂では別の方法になっているかもしれない……。
終わったところからすでに次の辞書作りに向けたやり取りがはじまっているんです。
───もう次の改訂を見据えなければならないなんて、辞書作りは果てしない作業なんですね。
本当に終わりがない(笑)。どんどんどんどん新しくするんですよ。だから、読者の方もぜひ新しい辞書を使ってほしいと思います。
大人の方でよく「私は金田一京助先生が監修された国語辞典を未だに使っております」と声をかけてくださる方がいらっしゃるんです。大事に使ってくださるのは大変ありがたいのですが、言葉は時代を反映してどんどん変化していきます。古い辞書には載っていない言葉が、今の辞書にはしっかり載っています。
例えば、今回の『新レインボー小学国語辞典』には「かみ(神)」の例文に「神対応」という言葉を載せているんです。
───それは、かなり新しい表現ですね。
10年前の辞書には「神対応」なんて言葉、載っていないでしょう(笑)。でも、今の辞書にはそういう言葉を載せる必要がある。だって、辞書は分からない言葉を解説するものなんだから。
「神対応」という言葉を聞いた人が、「それはどういう意味だ?」と辞書を引いたときにちゃんと説明が載っていることが大切なんです。
ぼくはよく「辞書は鏡なんだよ」と言っています。つまり、世間で使われている言葉をきちんと映すもの。
今の子どもたちが使っている言語生活をしっかり映し出して載せることが辞書の一番大切な役割だと思うんです。
───今の子どもたちが使っている言葉の中から、どの言葉を載せるかの判断は、金田一先生がされているんですか?
それは編集部の方との打ち合わせで、提案をしたり、相談を受けたりして決めています。編集部の方は、何十年も辞書を作っているプロですから、安心していられます。
───金田一先生は、これまで大人の辞書も子どもの辞書もたくさん監修をされていますが、子ども向けの「小学国語辞典」の監修は大人の辞書とは違いますか?
まあ、そうですよね。すでに大人になってしまった自分が、子どもの気持ちを察しながら、「こういう言葉を入れたら楽しいかな」「こういうページを入れたら辞書って面白いと思ってもらえるかな」と考えるわけです。欄外に載っている「ことばあそび」なんてその最たるものですよね。
大人は字が小さくて読み飛ばしてしまいがちですが、子どもはこういうところに載っているクイズ、大好きですよね。
───巻頭の「金田一ぱんが教える 言葉のひみつ」も、金田一先生がパンダになっていて、子どもたちはとても親近感がわくと思いました。
これは元々、「もちもちぱんだ」というキャラクターがいて、ぼくが『もちもちぱんだ もちっとことわざ』(学研)という本の監修をしたときに、コラボしたんですよ。それを今回の国語辞典でも再登場させることになりました(笑)。
巻頭特集の中では、ぼくは「写真でわかる ことわざ・慣用句」のページがすごく良いなと思っているんです。「うり二つ」とか「ねこの額」とか、写真で見ると「なるほどその通りだ!」ってすごく分かりやすい。
あと、「ことば博士になろう!」というコラムもオススメです。
───「ことば博士になろう!」のコラムは、「演劇からうまれたことば」や「料理に関係したことば」など、気になる見出しがありますね。
「料理に関係したことば」のコラムの中には「あんばい(塩梅)」「お茶の子」「手塩にかける」を紹介しているのですが、辞書は五十音順に言葉を載せるものだから、普通、この3つを並べることはなかなかできないんです。
でも、このコラムでパッと目にしたとき「この言葉は料理に関係しているんだ」って分かってくれる。
それが「動物園」のコラムかもしれないし、「演劇」のコラムかもしれないけれど、そういうきっかけでことばに興味を持ってくれる子が1人でもいてくれたらいいなって思っています。
───欄外のクイズやコラムなど、いたるところに言葉に興味を持つきっかけをちりばめて作っているんですね。
「小学国語辞典」は子どもが言葉に興味を持つきっかけを作る最初の本ですからね。もちろん、絵本っていうのがもっと小さい子に向けてあるんですけど……、いかにも本らしい本、子どもが少しお兄さんお姉さんになったと実感するという意味では、「小学国語辞典」が最初の出会いなんです。
その最初の出会いを「つまらない」「難しい」という感想にしたくない。「言葉って面白いんだよ」というのを、きちんと正確に伝えたい。はじめて辞書を手にした子が、これから90年近くにわたって付き合っていくであろう日本語の、広い広い言葉の世界の向こう側へ、連れて行ってくれる。
「小学国語辞典」はそういう本であったらいいよねって思うんです。
───そのきっかけとなる辞書を、我々大人が子どもに手渡す。責任重大なことに感じます。
金田一先生は、子どもが「小学国語辞典」を使うとき、大人はどういう関わり方をするのが良いと思いますか?
まず「小学国語辞典」をリビングやダイニングテーブルなど、普段家族が集まる場所に置いてほしいです。
───子どもが勉強する場所ではなくて、家族が集まる場所にですか?
そう。ひょいとテレビのわきに「小学国語辞典」が置かれている。別に汚れたって構わないんですよ。おでんの汁がかかったって、いいじゃない(笑)。
それで、テレビを観ながら「今、このタレントが言った言葉ってどういう意味?」って聞かれたら、サッと辞書を開いてその場で調べる。
そうすると、辞書が身近に感じられて、「お勉強」という言葉から遠ざかっていきますよね。
───どうしても授業で必要になるから、国語辞典を買わなければという義務感に囚われがちですが、それではダメなんですね。
ダメではありません。実際に小学3年生では授業で必要になりますから。でも、国語辞典の面白さはそれだけではないんですよ。
───『新レインボー小学国語辞典』の「監修の言葉」の中でも、金田一先生が書かれていることですね。
そうです。国語辞典を使って、「判断力」や「思考力」、「表現力」を高めることは、別に国語の成績とは関係なく、全ての学問において、必要なことなんです。
だから、言葉の意味や使い方を調べるためだけではなく、自分自身のことや、自分を取り巻くいろいろな事を理解するために、国語辞典を楽しく使ってほしいと思います。
───金田一先生は、お祖父さんの金田一京助さん、お父さんの金田一春彦さんと、三代にわたって、日本語の研究者でいらっしゃいます。やはり、子どもの頃から本が身近にある環境だったのでしょうか?
ぼくはほかのお家で育ったことがないから分からないですが、普通のお家よりは、本がある家だと思いますよ。
本は家中に、それこそ足の踏み場がないくらいにはあったので。それが当たり前だと思っていましたね。
───子どもの頃はどんな作品が好きでしたか?
実は童話っていうのを、読んでこなかった人間なんですよ。小さい頃から、いわゆる空想やフィクションよりも、事実が書かれているものが読みたいって思っていたんです。
父親の本棚を見ると、百科事典とか、人名事典、歴史年表、地図、後は汽車の時刻表や旅行のガイドブックなんかが並んでいるわけですよ。そういうのを読むのが好きでしたね。
───地図やガイドブックですか?
そう。地図、時刻表、ガイドブックはとりわけ大好きでした。地図を見て、どこそこ行きたいなと思ったら、時刻表を見て、何時の列車に乗るといいんだな……って。それでガイドブックを見ると、名所や名物が書いてある。それで行ってみたいな、食べてみたいな……というのが楽しかった。
あと、人名辞典も好きでしたね。武田信玄や上杉謙信なんかのページを見て、「ほー」とか「へー」とか思うんです。
───人名辞典で気になった偉人の伝記を読んだりはしなかったんですか?
伝記も何冊か読んだかもしれないけれど、大体若いころに苦労して、失敗して、年取って大成するっていうパターンが決まっているから、すぐに飽きてしまう(笑)。人名辞典で知るのが楽しかったんですね。
───物語のようなものはほとんど読まなかったんですか?
物語ではないけれど、父親が「これ面白いぞ」って渡してくれた『三国志』や『十八史略』の現代語訳は面白くて読みましたね。本棚に中国の歴史書がたくさん並んでいたんです。そういう昔の英雄達の話を読むのは大好きでしたね。ぼくは大学を卒業後、しばらくしてから中国の大連で教職に就くのですが、その根底には子どもの頃に読んだ歴史書の国に行きたいという憧れがあったんだと思います。
───先程、童話をほとんど読んでこなかったとおっしゃっていましたが、絵本はいかがですか?
ぼくの時代は絵本がそんなに出版されていなかったですからね。でも、子どもには安野光雅さんや谷川俊太郎さんの絵本を選んで渡しましたよ。ぼくが最初に子どもに選んだ絵本は『いないいないばあ』(童心社)です。
───赤ちゃんが大好きなロングセラー絵本ですね。
手渡すときは「これは分かるのかな……?」って思うんですが、ちゃーんと分かるんですよね。それと、安野光雅さんの絵本や、谷川俊太郎さんの文章など、長年多くの方に愛されてきている作品に小さい頃、ちゃんと触れていると、作品を読むベースがきちんと根付くんです。
すると、もう少し大きくなって、いろいろな作品と出会っても、自分で好きな作品かどうか判断できる。それは、とっても大切なことだと思うんです。
今の世の中、山のように物が出回っています。それをただ楽しむだけよりも、もう一歩進めて、ちゃんと自分の判断をもって作品と接することができるようになると、なお良いですよね。
───たしかに、自分の中に基準を作ることは大切ですね。
そのためにも、若いときにたくさん良い作品に触れてほしいと思います。それから大切なことは、親も楽しむことです。親が楽しんでいるものは、子どもも楽しいんですよ。親が本を読んで、すごく楽しそうにしてれば、子どもも「本を読むのは面白いんだな」って、本を読むようになるわけですよ。
スマホをずっとやっていれば、スマホに興味を持つ。ゲームをやっていれば、ゲームに興味を持つ……同じことです。
ぼく自身、子どもの頃、本に夢中になっていた父親の姿を見て、本に興味を持ったという経験がありますから。
───辞書を引くということも同じですね。
そうです。大人が分からないことを、辞書を使って調べているのを見れば、子どもも「ぼくも辞書で調べてみたい」と思うわけです。
だから、先ほども言ったように、子どもの勉強机の上に置きっぱなしにするんじゃなくて、リビングのすぐに手に取れる場所に置いておいて、どんどん使ってほしいんです。
───今回『新レインボー小学国語辞典』をはじめ、辞書出版社が改訂版を出版しています。国語辞典を選ぶときにチェックすると良いポイントなどはありますか?
ひとつは、最新の辞書を買いなさいということです。最後のページ、奥付に出版した日付が載っているので、なるべく新しい日付を見つけて買うのがオススメです……と言いながら、『新レインボー小学国語辞典』の奥付はほかの辞書と比べてどうなのか気になってきました…(苦笑)。
あとは、一般的に、同じ言葉を調べてみて、気に入った説明の方を買いなさいと言われていますが、ぼくの父親は「あい(愛)」って言葉を調べるんだってよく言っていました。
───「あい(愛)」を調べるというのは、辞書選びのときの言葉としてよく聞きますね。
「日本語は「あい(愛)」という言葉からはじまる」というのが調べる理由のひとつと言われています。これは蛇足ですが、国語辞典の最後のページには、大抵「わんりょく(腕力)」って言葉が出てきます。日本語は「愛」からはじまって「腕力」で終わる。じゃあ、真ん中は何て言葉があるでしょう?
───真ん中、というと……?
国語辞典を手にして、中心くらいを開いてみましょう。そうすると大体「せ」なんです。「せ」というところには「世界」って言葉が載っている。要するに、日本語は「世界」を真ん中に「愛」と「腕力」でバランスを取っているんだぞって……(笑)。
───すごい! 子どもに「小学国語辞典」を手渡すときにやってみたいです。
そうそう、そういう親と子の会話がね、辞書を挟んであると良いですよね。
───金田一先生のお話を伺って、国語辞典を今までよりずっと面白くて身近に感じるようになりました。今日はいろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
安野光雅さんや谷川俊太郎さんの絵本をお子さんと楽しんできたという金田一秀穂さん。
難しい中国の書物や研究資料が所狭しと並ぶ研究室の一角に、和田誠さんの描いた似顔絵が飾られていました。それは、ある新聞のコラムに原稿を寄せたとき、和田さんが描かれた挿絵なのだそう。
「嬉しくってその新聞を何度も拡大コピーして飾っているんです。私の宝物。いいでしょーって、研究室に人が来るたびに自慢しています」と笑顔で話す姿が、とても印象的でした。
取材・文/木村春子
写真/所靖子