イタリアで1972年に出版されて以来、世界6か国語で翻訳され、愛されてきた絵本『
ふゆ』。
スイス在住の日本人デザイナー・イラストレーター、こうのあおい(葵・フーバー・河野)さんの作品で、じつは日本語版が出版されるのは初めてなのです。
こうのあおいさんはグラフィックデザイナー・河野鷹思(1906〜99年)氏の長女で、マックス・フーバー(1919〜92年。世界的に有名なグラフィックデザイナー)氏の助手であり妻。『ふゆ』は、ネフ社のおもちゃのデザインやテキスタイルなど、幅広い活動をされてきた中での稀少な絵本作品です。
子どもの感性と響きあうシンプルで美しい絵本『ふゆ』は、どのように生まれたのかうかがいました。
(*文中では葵さんと記します)
- ふゆ
- 作:こうの あおい
- 出版社:アノニマ・スタジオ
ある冬の日、空では雲があそんでいます。やがて雨が降り、雪になり、降り積もって大地をおおう白い雪。そこで見つけた足あとをたどると……?
イタリアで出版され、40年以上愛されている絵本の初の日本語版です。世界6カ国で翻訳。
●雲から雨、ゆきへ。冬の一日のドラマ
───『ふゆ』をひらくと、まず、空にうかぶ雲にひきよせられます。雲たちがなかよくあそんでいるうちにひとつになって、森に雨がふってきて、そのうち雨はゆきにかわり・・・ゆきの上にあらわれた足跡をたどると・・・?
しずかで美しい感じにドキドキします。
40年以上も前に作られた絵本だなんて信じられないのですが、『ふゆ』の原書『era inverno』は1972年にイタリアのエッメ社から出版され、日本では出版されていませんでした。初めて日本語版が出版され、どんなお気持ちですか。
うれしいですね。これまでもイタリア語版や英語版は、インテリアショップや専門書店で販売していただいているところもありましたが、ほとんど知られていなかったでしょうね。
ボローニャ児童図書展でアノニマ・スタジオの編集者である村上妃佐子さんが『era inverno』を見て、コライーニ社(『era inverno』を2004年に復刊したイタリアの出版社)を通じてご連絡くださり、刊行から40年以上を経て、日本の子どもたちが手にとれる『ふゆ』を世に出すことができました。
───日本語版出版にあたっては、デザインや翻訳など、全面的に葵さんが関わられたとか。
最初にエッメ社から出版した『era inverno』は夫のマックス・フーバーがデザインしました。編集者と二人でああだこうだと話し合っていましたよ(笑)。だから日本語版の『ふゆ』のテキスト配置も夫のレイアウトを基本にして、ほとんど同じイメージになっていると思います。
エッメ社から出版したものは、ゆきの玉が全面にある青い表紙でしたが、コライーニ社で復刊するとき、木の表紙に変えました。そもそも最初の案は、木のバージョンだったの。でもエッメ社の編集者が、木の案では目立たないというので、青い表紙になりました。いま見るとやっぱり木のほうがこの本には合っていると思うので、もとに戻したの(笑)。
イタリア語版のタイトルは、直訳すると「ふゆだった」という過去形表現でした。でも日本語版ではシンプルなほうがいいだろうと、ただ『ふゆ』としました。
『era inverno』エッメ社から出版された初版本の表紙(作品集『io Aoi』より)
───原画は何で描かれていたのですか。
水彩です。筆で描いていました。原画はもっと濃淡があって、線の輪郭もにじんだような感じだったんですよ。でも原画は残っていないから、復刻するには古い本をスキャンして作るしかないんです。
スキャンした画像をデータ上で整えると、輪郭はまっすぐになるし、絵から受ける印象は違います。でもこれはこれでグラフィックなよさがあるのかなと思います。
筆で描かれた原画(作品集『io Aoi』より)