●子どもの絵画教室は絵本のテーマがいっぱい隠れています。
─── 『えんふねにのって』は絵本ナビでも非常にレビュー数の多い人気作品なのですが、初出版の時の反響はいかがでしたか?
自分が予想していたよりも多くの方から感想をいただけて、とても嬉しかったのを覚えています。
特に、絵本ナビさんからの声が強く届いてきました(笑)。
─── ありがとうございます(笑)。
『えんふねにのって』も、絵の先生として園に通う間に生まれた作品なのですか?
はい。園に通っていると、先生たちの間で使われている専門用語が自然と耳に入ってきます。それは先生方からすると当たり前の言葉なんですが、外部の人間には非常に新鮮に響くんです。例えば「えんバス」「園庭」なんかがそうですよね。「えんふね」はこの「えんバス」がきっかけとなって生まれた物語です。
僕にとって、子どもと直接接する時間は絵本の題材を見つける貴重な時間です。作品の題材は『ぼくひこうき』のように、子どもたちの様子を見て生まれることもあります。
でも多くの場合、子どもと接することで、僕は自分の子ども時代の記憶を呼び起こしているんです。
それは今の子どもたちの感覚に触れて、「変わらないなぁ…」と思うことだったり、「僕はこうしてたなぁ…」と違いを見つけることだったりします。
今の僕と子どもの僕が一緒になって描いているので、自然と大人と子どもの目線が作品に入りこんでいるのかもしれません。
─── やわらかな印象を受ける独特な色彩、あの不思議な雰囲気がまたひがしさんの作品の大きな魅力のひとつですよね。どんな素材を使って描かれているんですか?
アクリルガッシュを水彩のように薄くのばして描いています。特に輪郭線は赤、青、黄色の3色を重ねて、パステルの様な淡い感じを出すようにしています。
輪郭線って、通常は黒一色の場合が多いものなのですが、それだと線が主張しすぎてしまい、すごく現実的な描き方になってしまうんです。
僕の作品は、現実と空想の行き来がしやすい、中間の世界を表現したいなぁ…と思って、あえて黒を使わない描き方を考えました。
たまに「眠たい絵だね」といわれることもあるのですが…(笑)。僕自身は今の描き方が結構気に入っています。
─── (笑)。でも、たしかにせい君が紙飛行機になって空を飛ぶ場面というのは「本当に飛んでる!」と感動します。現実世界と子どもの想像の中の世界が自然に共存しているからこそですよね。
では最後に、絵本ナビ読者の方に向けて、『ぼくひこうき』に込めたメッセージをお願いできますか?
『ぼくひこうき』は男の子の成長物語なんです。
子どもは大きくなると共に、自分の世界を広げていきます。赤ちゃんの頃は自分と身近な家族だけの世界。それが2、3歳になると家の中、よく遊びに行く公園まで世界が広がって、幼稚園に通うと新たに友だち、先生が世界に加わる。
『ぼくひこうき』の主人公・せい君は、園の中の世界で暮らしている子どもですが、紙飛行機になって空を飛ぶことで、一気に人間社会を越えた外の世界に飛び出すんです。
新しい世界へ行くことは、新しい刺激を受けることでもあります。
子どもたちにはそんな別の世界に飛び出す感覚と刺激を、せい君を通じて感じてほしかったんです。
そして、物語の最後で、せい君がみちこ先生の声で現実に戻ってきたように、外には無限の世界が広がっているけれど、そこに興味を持ちすぎて急ぎ足で成長することはないんだよ。今はまだ、君たちが安心して過ごせる世界を楽しんで良いんだよ…というメッセージを込めました。
─── ありがとうございました!
〈取材を終えて〉
毎週、保育園と幼稚園を訪れるというひがしさんですが、子どもたちの前で自身の絵本を読むことはほとんどないんだとか。「10人の子に読み聞かせても、ひとりひとり感じているところは違うと思うんですよ。でも、僕は大多数に「え〜〜!」といわれると、「え?…そう?」と、子どもたちの反応に影響されそうで……。その状況に自分の中で納得のいく答えが出ていないので、できないんです…。」
そんなこといわずに…子どもたち、きっと喜ぶと思いますよ、ね。
(編集協力:木村春子)