「どうして2月は28日までしかないの?」
わが子からこんな質問をされたら…どう答えたらいいか、悩んでしまいませんか?
そんなパパママにオススメしたい、暦の不思議に答えてくれる絵本が誕生しました。
『カエサルくんとカレンダー 〜2月はどうしてみじかいの?〜』。
この作品の絵を描かれた、絵本作家のせきぐちよしみさんが絵本ナビオフィスへ遊びに来てくれました。
皆さんは、日常的に使っているカレンダーの基本が、いつごろ出来たのか、どのような理由でできたのか?ご存じですか?明日からカレンダーを見る目が変わります。
─── 今日は絵本ナビにお越しいただき、ありがとうございます。
以前いただいたラフを改めて拝見してているんですが、カレンダーの話を軸に地球の公転と自転、季節の移り変わりやローマの歴史まで触れることのできる、すごく贅沢な1冊ですね。
ありがとうございます。
今回、絵本のお話をいただいたのがすごく嬉しくて、物語の軸である暦を制定したカエサルを知るために、彼が活躍したローマに実際に行ってきました(笑)。
─── すごい熱意ですね!
では本物のカエサルの像を見たり、ローマの史跡を巡ったりされたんですね。
いえ…。実は予約したツアーがかなりな弾丸ツアーで、有名なところは全部バスで回ったんです。カエサル像もコロッセオも「こちら側にありますよ〜」ってガイドさんが言うんですけど、全然見れなくて…。
だからその部分は自分で写真やDVDを見て勉強しました。
でも、イタリアの空気は十分味わってきたので、カエサルくんが回想するところはその空気がでてたら良いな…と思います。
─── せきぐちさんはこの『カエサルくんとカレンダー』が初めての絵本なんですよね?
そうなんです。
大学在学中にお話をいただいたので、大学の授業や卒業制作と平行しながら絵本を描きました。
─── どのような経緯で今回の絵本を描くことになったんですか?
ある日突然、福音館書店の有賀さんからご連絡をいただいたんです。「カレンダーの絵本を作るんだけど、トライアルでやってみませんか?」って。
─── え?せきぐちさんと有賀さんは以前からお知り合いだったんですか?
いいえ。お会いしたことは一度もありませんでした。ただ、前に個展をしたとき、いろんな絵本出版社さんにお知らせをお送りしていて…。その絵を見て、声を掛けてくださったそうなんです。
そのときは同じ企画を他の画家さんにも声をかけていたそうで、何枚かテキストに合わせた絵をお渡ししました。その後、正式にご連絡をいただいて、絵本を描くことになりました。
─── そうやって決まることもあるんですね。知らなかったです!
せきぐちさんは以前から、個展などで絵を描かれていたと思いますが、普段描かれている絵と絵本の絵は違いましたか?
全然違いました…。絵本の描き方について何にも知らなかったんで、ひとつひとつがすごく新鮮でした。例えば、「文字が入る部分は読みやすいように薄い色や単色を使う。複雑な模様などは描かない」ということとか、「本のセンター部分は製本するときにくい込むことがあるから、重要な絵はかかない」とか…。
何枚もラフを描いて、有賀さんにチェックしてもらう繰り返しでした。
─── まさに実践…。描きながら体験していく感じだったんですね。
その中でも難しかったことはありますか?
絵本を描くことが決まったとき、有賀さんから「絵を描いてほしい」とお願いされていたんですけど、最初、私はその意味がよく分からなくて…。「私は、今も絵を描いているんだけどな…」と思っていたんです。でもそれから何度もやり直しをすることが続いて、時には泣きながら有賀さんに意見を求めることもあって・・・そのときはとても大変でした。
でも、あるとき「「ラス・メニーナス」(1656年、スペイン、ディエゴ・ベラスケス)のような、描き方をしてほしい」と有賀さんに言われたんです。「ラス・メニーナス」って、鏡に映ったベラスケス自身が描かれている絵なんですけど、その言葉で一気にイメージが広がりました。
「鏡からはどんな風景が見えるんだろう、どんな表情を描いたら良いんだろう」…といろいろ空想できて、楽しかったです。
─── そのようなやり取りがあったから、窓の外の様子や部屋の中の家具など、どのページもすごく細かい部分まで描き込まれていて、絵の“読み応え”も十分ある楽しい作品が出来上がったんですね。
ちょっと気になったのが、ゆうかちゃんの机の上の絵本…『ぐりとぐら』や『そらまめくんのベッド』などが見えるんですが…。
これは私が『カエサルくんのカレンダー』を作るに当たって、参考にさせていただいた絵本たちなんです。有賀さんに、絵本作家の先生方に連絡を取っていただき、感謝の意味を込めて絵本の中に載せさせていただきました。
実は、原画にははやしあきこさんの『こんとあき』も描いたんですが…。本にするときに切れてしまったんです。今回、一番参考にさせていただいたのが『こんとあき』だったのでそれがすごく残念で…。
絵本の絵の描き方について、まだまだ勉強しなきゃなと思いました。
─── はやしあきこさんの作品ではどんなところを参考にしたんですか?
絵のタッチや女の子の表情の優しい感じがすごく大好きで、参考にさせてもらいました。『こんとあき』以外にも、飯野さんの『ねぎぼうずのあさたろう』では構図の大胆さを参考にさせてもらったり、『ピノッキオ』は文章を書かれた池上先生のリクエストで描かせていただいたり、この本棚は私と池上先生の思いが描かれている部分でもあります。
─── なるほど、そういうお話を伺うと、「ここの部分はどうだろう…」「もしかしたらここも…」と部屋の隅々まで見てしまいますね(笑)。
てんとう虫とカエルがページのいたるところにいるので、是非探してみてください(笑)。
あと、1ページ目のゆうかちゃんが引っ越してくる場面に、ネコが4匹いるんです。だまし絵みたいな感じで入っているネコもいるんですが、是非探してみてください。
─── 可愛いゆうかちゃんと不思議なおじさん「カエサルくん」とのやりとりも、すごく生き生きと描かれていて、楽しいです。
ありがとうございます。
ゆうかちゃんをどれだけ可愛く、子ども特有の柔らかな感じを表現できるかという部分と、カエサルくんをどれだけ厳つく、でもコミカルに描けるかをずっと考えながら作っていったので、そう言っていただけて、とても嬉しいです。
─── せきぐちさんは絵本作家として今スタートしたばかりですが、今後はどんな絵本を作っていきたいですか?
私が絵本と出会ったのは大学のときなんです。もちろん、子どものときにも絵本は読んでもらっていたのですが、絵本はずっと「小さい子のものだから…」と思っていたんです。
だけど、大学で絵本好きの友達から酒井駒子さんの絵本を勧めてもらって、「こんなに絵画的で素敵な絵本があるんだ!」って感動しました。
それからは絵本が大好きになって、今は酒井さんの様な絵画的な側面を持ちながらも、子どもも大人も楽しめる作品を作っていきたいって思います。
今回のタッチのような作品もそれ以外の作風の絵本も沢山作っていきたいです。
─── ありがとうございます。
これからの活動がとても楽しみです!
最後に改めて、『カエサル君とカレンダー 〜2月はどうしてみじかいの?〜』のみどころをお願いいたします。
ゆうかちゃんがカエサルくんと一緒に実験しているところの絵が、自分でも描いていてすごく楽しかった場面です。絵本を読んで、お家でもお父さんお母さんと実験してもらえたら嬉しいです。
今回のインタビューに同席いただいた、福音館書店 編集部 科学書担当の有賀さんにもお話を伺いました。
─── 今回の絵本では、当初色んな画家さんに試作をお願いしたと伺ったのですが、せきぐちさんに決めた決め手はなんだったのでしょうか?
一番文章を深く理解して絵を描いてくれたのが、せきぐちさんだったからです。
僕の担当している科学絵本は性質上、どうしても絵が図解的になってしまうんですが、せきぐちさんなら新しいアイデアを出してくれるんじゃないかと思ったんです。
実際、閏年をつみきで表現したり、カレンダーのこびとを登場させたり、今までの科学絵本ではなかなか見られない描き方をしてくれました。
─── 文章を書かれた池上俊一さんは、東京大学総合文化研究科の教授で、『動物裁判』(講談社)などの一般書を多く手がけていますが、絵本の文章を書くのは初めてですか?
初めてですね。
実は、科学絵本の文章はすごく特別でなんです。難しい言葉を使わずに、分かりやすい言葉で書かなくてはならないので、池上先生にとっても非常に大変だったと思います。
─── 今回登場する「カエサルくん」というキャラクターはあのユリウス・カエサルですよね。お話にカエサルを出そうと思ったのは何故ですか?
ガイウス・ユリウス・カエサル(Gaius Julius Caesar):、共和政ローマ期の政治家。紀元前46年に終身独裁官に選出し、後のローマ帝政の基礎を築く。英語読みの「ジュリアス・シーザー」(Julius Caesar)でも知られる。
暦についての資料を色々調べて行くと、カエサルが相当関わっていることに行き当たったんです。それなら、カエサルを出さないことにははじまらないだろう…と。でも、普通にカエサルが出てきて、淡々としゃべっているだけでは絵本としてはつまらないから、誰かとカエサルを一緒にしたほうが面白いんじゃないかと池上先生と話が進んでいって…。
ゆうかちゃんをメインにカエサルくんを登場させることが決まりました。
─── おはなしのラストから、シリーズ化もしそうな雰囲気を感じますが、続編の予定はありますか?
「カエサル君シリーズ」を続けたいね…という話は池上先生とはしているんですけど、この1冊目が出て、読者の皆さんにどう感じてもらえるかが、重要になってきます(笑)。
─── 最後に読者の方へのメッセージをお願いします?
わたしたちは、毎日カレンダーに縛られて生きているのに、その成り立ちをほとんど皆さん知らずに生きてきたと思うんですよね。どんなことでも、当たり前と思わずに、身近なことに疑問を持つことの大切さを親子で楽しんでいただければと思います。せきぐちさんが、細かい部分にもいろいろな仕掛けをしているので、何度も楽しめると思います。是非見つけてみてください。よろしくお願いします。
(編集協力:木村春子)