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【長新太没後10年記念連載】 担当編集者&絵本作家インタビュー2016/04/21
2015年春、ちひろ美術館・東京を皮切りに、長新太さんの没後10年を記念した展覧会「長新太の脳内地図」展が大々的に開催されました。
約1年をかけて神奈川の横須賀美術館、静岡の佐野美術館、愛知県の刈谷市美術館、長野県の安曇野ちひろ美術館へ巡回されるこの一大展覧会は、多くの人に「長新太」という類まれなる絵本作家がいたことを印象付けました。 今回は長新太さんの身内として、長年、長さんをそばで見ていた姪の御簾納美紀さんにお話を伺いました。
●私の、ジェントルマンな伯父さん
―― 今日は、伯父さんである長新太さんのことをいろいろ伺えたらと思います。
よろしくお願いします。伯父はたしかに絵本作家の長新太なのですが、私の父の姉の連れ合いだったので、私自身には長新太の「へんてこ」な血は流れていないんですよ(笑)。
―― そうなんですね。伯父さんが絵本作家であることは、いつ頃知りましたか?
物心つく頃には、家に長新太の絵本がたくさんありました。小さい頃の私にとって、長新太の絵本は少しもふしぎでない、日常の楽しい絵本の世界でした。なので周りから「変なおはなしよね」と言われても、どこが変なのか、まったく分からなかったのです。
―― 長さんの絵本に囲まれて育ったなんて、とてもうらやましいです! 普段から長さんとは交流があったのですか?
互いの家がそれほど離れていなかったので、よく遊びに行っていました。残念ながら、今は家を処分してしまったので、再訪することは叶わないのですが、『長新太の脳内地図』(東京美術)の中に登場する、伯父のアトリエの写真を見ると、細かい部分までとても懐かしく思い出されます。2階のアトリエは壁一面本棚になっていて、角に四畳半ほどの和室がついているんです。そこで伯父は、ごろんと寝転がったり、本を読んだりしていました。画机の横の壁に美術展の半券がところ狭しと貼られていて、本棚には文学全集や図鑑などがずらっと並んでいました。とても伯父らしいと思うのは、玄関の壁のコート掛け。フックの部分を鼻に見立ててゾウの顔が描いてあるんです。子ども心に「大人なのに壁に絵を描いちゃうんだ」って思っていました(笑)。
―― 家の中にも遊び心を加えてしまうのは、とても長さんらしいなぁと思います。御簾納さんから見た長新太さんはどんな人でしたか?
家に大きな水槽があって、イカとタコがいっぱいいました……とか、実はタヌキを飼っていてね……なんて絵本の世界のような変わったところもなく、私から見た伯父は、きわめてジェントルマンでした。お昼時に家に遊びに行くと、子どもの頃から「女性は食事をしているところを見られるのはイヤでしょう」と、すっと席をはずして2階に行って仕事をする、そんな優しい気配りの人でした。そして、お茶の時間を見はからって降りてきて、いろいろな話を聞かせてくれました。
―― どんな話をされたのか、とても気になります。
いつだったか、私がタコの桜煮を作るのにはまって「最近、タコが好きなのよね」と話をしたとき、今までに見たことのないくらい、伯父が目をキラッとさせて「美紀ちゃん、なんでタコなのかな?」って聞いてきたんです。そのとき、「お寿司で食べたタコが美味しくて……」と普通の返事をしてしまったことは、今でも後悔しています。あのときの伯父の落胆した顔……、忘れられません。
―― 「生まれ変わったらイカかタコになりたい」と言うくらい、イカとタコが好きだった長さんですから、自分のように御簾納さんがタコ好きになってくれたと思ったんですね(笑)。
また、伯父は年を取ってボケ老人になるのをとても楽しみにしていて、「ボケたら、子どものようなすごい絵が描けるんじゃないか」って。「もう十分子どものように奇想天外よ」と思うのですが、本人はもっと炸裂したものを描きたかったんだと思います。残念ながら、最後まで伯父はジェントルマンだったので、ぼけさせてあげられなかったことに、今でもごめんねと思っています。
―― ボケ老人になりたいなんて、とても長さんらしいですね。長さんと絵本の話をしたことはありますか?
素人が何か言うのはとてもおこがましくて、伯父に絵本の話はできませんでした。絵本の仕上がりに対して、意見や不満を言うことを聞いたことがないんです。ときどき、絵本の帯がイメージと違っているようなときに「これじゃないなァ……」ってつぶやいているのを耳にするくらいでした。 そうそう、読者の方の中には「長新太は着想のままに勢いで絵本を描いている」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、伯父は思いついたまま絵を描くようなことはしませんでした。思いついたアイデアを手帳に書き出していって、そこから絵本にまとめる作業をしていました。手帳に残っているアイデアは、とても奇抜で過激でそのままではとても絵本にならないようなものばかり。それを何度も何度も構成して、角を落としていって、絵本の形にまとめていく。下絵(ラフ)もかなり緻密に、細かいところまで描き込んでいました。それが分かるものを今回、お持ちしました。
―― これは、『クーくんとツーくん』(文溪堂)のラフですね!
そうです。しかも自分で化粧箱をつけて本の形にするこだわりよう(笑)。この中には、クーくんとツーくんの3部作それぞれのサブタイトルや、ふたりは双子であること、「単純明快、はずむような絵本にしたい、と思っております。」という作品に対する思いまで書いてあるんですよ。愛を感じます。
―― こんなに丁寧にラフを描かれているなんてビックリしました。
ふたりの表情や、色、構成まで考えて作っています。さらに、亡くなった後、遺品を整理していたら大量にスケッチブックが出てきたんです。その中には若い頃のデッサンがたくさん収められていて、「こういう、写実的な上手な絵も描ける人なんだ」とビックリしました。
―― これは東京日日新聞社の嘱託社員として働いていた20代の頃のスケッチですね。
大量の手帳やスケッチブック、絵本のラフ、それに集めていたぐい呑みや旅行先で作った皿や時計など、いろいろなものを伯父は遺してくれました。ちょっと切ないものは、入院中の日記。病室の様子や自分の手にできた斑点のスケッチなんかを克明に残しているんです。
―― 長年の友人だった多田ヒロシさんも、長さんは大変筆まめな方で入院中の様子を手紙に書いてくれたとおっしゃっていましたが、日記にも詳細に書かれているんですね。
最後、日赤病院のホスピス病棟に入るのですが、毎週末、私は伯母と交代で付き添い、そこで何時間も伯父と二人で話をしました。旅行の失敗談とか、飲んだ席での話とか、楽しい思い出ばかり。本当は苦しかったこともあったのかもしれませんが、私に見せる伯父の顔はいつもの通りジェントルマンで、「自分としては人生大成功! 本当にやりたい仕事ができて大満足」という話をよくしてくれました。
―― まさに、独占インタビュー! 長さんの旅行の失敗談、聞いてみたいです。
旅先でイカの絵を大量に描いていたとき、旅館の仲居さんに「あなたはお布団の柄を描いている人なんですね」と言われて憤慨したとか、一人でふらりと旅行に出かけているときに息子が高熱を出して寝込んでしまって、家に帰ったらこっぴどく怒られたとか、本当に、貴重な時間だったと思います。
―― 御簾納さんの中で、お気に入りの長新太作品を教えていただけますか。
『チョコレートパン』(福音館書店)のかわいさも捨てがたいですし、『ろくべえまってろよ』(文:灰谷健次郎、文研出版)の構図の描き方も面白いですし、『みみずのオッサン』(童心社)の全てを食べて浄化する設定も、まるで伯父の表現そのもののような気がして興味深いです。伯父の中で、芸術や文学、音楽、風景、旅の思い出……そういったいろいろなものを飲み込んで、凝縮させて、漉していってまとめて『みみずのオッサン』のように出たものが「絵本」だったのだと思います。 とても選びきれませんが、はずせないのは『おしゃべりな たまごやき』(作:寺村輝夫、福音館書店)だと思います。
―― 昨年から巡回している「長新太の脳内地図」展では、そんな長さんの多彩なタッチが初期の頃から晩年まで、じっくりと見ることができますね。
亡くなって10年も経っているのに、これほどいくつもの大きな会場で作品を展示していただけて、多くの方に見てもらえるなんて、とても幸せなことですよね。この本も図録としては珍しく小さいサイズですが、そこはさすが東京美術さんだけあって、作品の色もきれいで今回の展示の解説も、学芸員の皆さんの愛情あふれるまなざしが感じられて、感動します。 作品以外にも、先ほどお話に出た、懐かしのアトリエ写真など、ぎゅっと情報満載ですね。
―― 展示をご覧になって、どう思いましたか?
横須賀美術館での展示に伺ったとき、観音崎の灯台の近くで、タヌキのようなものに横切られました。姉にそのことを話したら「それは伯父ちゃんだね」って言っていたので、長新太もきっと、展覧会場の近くに見に来ていたんだと思います。
―― まさに『はんぶんタヌキ』ですね(笑)。もしかしたら、他の展覧会会場にも長さんは来ているかも……?
●今回、紹介された作品
1958年のデビューから2005年まで独自のナンセンス世界を生み出し続けてきた長新太さん。 長さんってどんなひと? 知りたい方はこちら>>
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