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【連載】児童文学作家 廣嶋玲子のふしぎな世界

偕成社 小峰書店 静山社 理論社 講談社

2020/10/15

【連載】最終回 廣嶋玲子さんインタビュー

【連載】最終回 廣嶋玲子さんインタビュー

3か月に渡り連載をしてきました「児童文学作家・廣嶋玲子のふしぎな世界」。最終回は、「鬼遊び」シリーズでお話を伺った廣嶋玲子さんに再度、ご登場いただきます。
今回は、廣嶋玲子さんご自身のこと、特に児童文学を書くようになったきっかけや、今ハマっているもの、児童文学を書きたいと思っている子どもたちへのメッセージなど、いろいろな質問に答えていただきました。
廣嶋玲子ファン、銭天堂ファンはもちろん、児童文学を書きたいと思っている方にも読んでいただきたいインタビューです。
●いろいろなものから物語の種を見つけています。
―― 「銭天堂」に「十年屋」「もののけ屋」……、さらに今年スタートした「怪奇漢方桃印」や「猫町ふしぎ事件簿」など、タイプの違う作品をたくさん書かれている廣嶋玲子さん。多種多様なおはなしのアイディアは、どのように生まれてくるのですか?

アイディアは編集者さんと打ち合わせをしているときに浮かんでくることが多いです。打ち合わせでテーマとか、こういう物語が良いんじゃないかという話をしているときに、ある一言がヒントになって、パッパッパとひらめきます。
あとは、寝る直前に浮かんできたり、面白いテーマを取り上げているテレビ番組を観てアイディアが浮かんだり……。反対に退屈な映画を観たときも「ここをこうしたら面白くなるのに……」とアイディアが浮かぶこともあります。
―― 日常の色々な場面から、アイディアをキャッチしているのですね。

そうですね、いろいろな物にアンテナを張っていることが当たり前になっている感じです。
―― 今まで出版した作品の中で、特に思い出に残っているひらめきはありますか?

どの作品のアイディアも思い入れがあるのですが、「銭天堂」は、jyajyaさんの絵からインスピレーションを受けて生まれたおはなしです。
jyajyaさんのホームページの絵を見ているうちに、「レトロな路地にお店があったらいいな……。お店は不思議な駄菓子屋で、奇抜な店主がいたら面白いだろうな」と、どんどんお話が浮かんできました。なので、「銭天堂」の出版が決まって、絵を誰にお願いするか聞かれたとき、「jyajyaさんにしてください!」と編集者さんに懇願しました。
jyajyaさんのイラストに触発されて生み出された「銭天堂」が、廣嶋玲子さんの代表作になりました。
―― 銭天堂のお店の雰囲気や、紅子さんの風貌など、jyajyaさんの絵があったから生まれたんですね。9月からNHK Eテレでアニメ「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」が放送中ですが、アニメ化の話を聞いたときはどんな気持ちでしたか?

とび上がるほど嬉しくて、夢のようだと思いました。読者からのお手紙によく「『銭天堂』をアニメ化してほしいです」と書かれていて、その度に、「私も、アニメ化してほしいです!」と思っていたので、テレビでキャラクターが動いているのを観たときは、言葉に表せないくらい感動しました。
●気分転換はジグソーパズルです。
―― 今もたくさんの作品を執筆されていると思いますが、どのようなタイムスケジュールで執筆を行っているのですか?

特に決めてはいないのですが、執筆や出版社さんから来たゲラ(印刷する前の原稿)のチェックは日中に行うことが多いですね。夜は一転、のんびり本やテレビを観て、体を休ませながら過ごしています。
―― とても速いペースで新刊が出版されますが、同時に何作品も書いていらっしゃるのですか?

以前は同時進行で、何作品も書いていた時期はありますが、今はひとつの作品を仕上げてから、次の作品に取り掛かるようにしています。児童書は気分が乗っているときだと、大体10日から2週間で書きあげることもあります。
――2週間で1作品仕上げるのですね! それはすごく早いペースですよね。
おはなしを書いているときに、一番大切にしていることは何ですか?


ひとつは、ひらめきを大切にするということです。日々暮らしている中で、「こういうのがあったら面白いかな」というのは、忘れないようにメモに残すようにしています。そういうときに思いついたアイディアを大事にしていると、後からすごく役立ったりすることがあるので。
――アイディアが浮かんでこなくて煮詰まったり、書くのが止まってしまったことはありますか?

もちろんあります。最近では〈ナルマーン年代記〉三部作 の『白の王』がそうでした。プロットはできているのに、なぜか全然書けないんです。
そのまま、1年くらい止まってしまいました。何かの拍子に、栓が抜けるようにわだかまりが消えて、書けるようになったのですが、そのきっかけがなんだったのか、実は今も分かっていないんです……。

<ナルマーン年代記>三部作

―― ご自身のリラックス方法は何ですか?

子どものころから手を動かして何かを作るのが好きで、以前はドールハウスを作って、小物や人形などを増やしていくことが気分転換のひとつでした。今は仕事が忙しくなってしまい、全然進めることができないのですが、その代わりにと、ジグソーパズルをはじめました。
1000ピースくらいのものをいくつか持っていて、作っては壊して、また作る……というのを繰り返しています。原稿が完成したら、次の作品に取り掛かる前に1日休みをいれるのですが、そのとき、気持ちを切り替える儀式として、ジグソーパズルをひとつ完成させます。
廣嶋玲子さんの手作りドールハウスの一部。
※画像提供「廣嶋玲子のあずま屋
―― ジグソーパズルが気分転換なんですね。おはなしを作る前に、取材をしたり、実際に体験してから書くこともあるのでしょうか?

機会は少ないですが、体験できるきっかけがあったら逃さないようにしたいと思っています。『トラベル旅行社』を書く前には、フクロウカフェに行って、フクロウの様子や手に乗ったときの感触を体験しに行きました。
『魔石館』を書く前も、化石堀りに行く予定だったのですが、コロナ禍で取材ができなくなってしまって……。外出がもっと自由にできるようになったら、化石堀りに行きたいと思っています。
フクロウカフェでの記念写真。お気に入りの一枚です。
●おはなし作りは小学生からはじめました。
―― 児童文学作家を目指そうと思ったのは何歳くらいでしたか?

子どもの頃から物語を読むのが大好きで、その流れで、小学生くらいから自然とおはなしを作るようになりました。高校生の頃に、童話のコンテストがあるのを知って、はじめて応募したのが、ひとつのきっかけだったと思います。でも、児童文学作家になろうと思って応募したわけではなく、副賞でもらえる賞金が目当てでした (笑)。 
そんな不純な動機だったからか、当然、第一次選考にも残らなかったのですが、当時の私はそれが非常に悔しくて……。「絶対に賞を取ってやる!」と、どんどん書いては応募するようになりました。
―― 悔しさが作品を生み出す原動力になっていたんですね。

でも、何度応募しても、全然、賞を取ることはできませんでした。なんでだろう……と考えるようになったとき、ふと「子どもの頃の自分は、今、このおはなしを面白いと言うかな?」と思ったんです。
そこから、子どもの頃の私が読みたいと思う作品を書くように考えを変えました。そうしたら、少しずつ選考に残るようになりました。

水妖の森 水妖の森」 作:廣嶋 玲子
絵:橋賢亀
出版社:岩崎書店

少年タキと幻の水棲人(水妖)が、見知らぬ生き物たちがすむ密林で心を通わせ、怪魚ウラーの支配に苦しむ湖の民の解放に立ち上がるまでを描く、愛と哀しみの冒険ファンタジー。
第4回ジュニア冒険小説大賞を受賞した、廣嶋玲子さんのデビュー作です。

―― 子どもの頃のご自身を振り返ることで、本当に面白い作品を書くきっかけになったんですね。廣嶋さんは、子どもの頃、どんな作品が好きだったのですか?

我が家は母が読み聞かせに熱心だったので、絵本と本は小さい頃から読んでもらっていました。
よく覚えているのは5歳くらいのときに『ホビットの冒険』と『ナルニア国物語』を読み聞かせてくれたことですね。
―― 5歳で『ホビットの冒険』と『ナルニア国物語』ですか? この2作品は小学校高学年くらいに読む物語だと思っていました。難しくて分からなくはならなかったのですか?

言葉はたしかに難しかったのですが、それがとても魅力的で、思い出に残っています。私が読んでもらった『ナルニア国物語』は古い訳で、白い魔女がエドマンドを誘惑するお菓子が「プリン」だったんです。それが非常においしそうで、すごく好きでした……。
大人になって、プリンではなく、ターキッシュディライトだと知ったときは、「全然違うじゃない!」と……良い思い出ですね(笑)。
―― 訳の違いに気づくなんて、かなり本を読まれているのが分かりますね。お母様の読み聞かせから、ひとりで読むようになったのは何歳くらいだったか覚えていますか?

一人読みは3、4年生くらいから本格的にはじめました。近くに図書館があったので、時間があるとそこに出かけては、いろいろな作品を借りていました。
5、6年生のときは江戸川乱歩の「怪人二十面相」にはまって、中学生では池波正太郎の「鬼平犯科帳」と「仕掛人・藤枝梅安」にはまって……。読む作品はどんどん大人向けになっていきましたが、その間も児童文学はずっと読み続けていました。
―― 児童文学の中で、特に好きな作品はありますか?

たくさんありますが、日本の作家さんの中で特に衝撃を受けたのは、荻原規子さんの『空色勾玉』からはじまる「勾玉三部作」です。あれを読んだときに、なんてすごい作品なんだ!と感動しました。
―― 今、廣嶋玲子さんの作品を読んでいる子どもたちも、「なんて面白い作品なんだ!」といろいろなシリーズを読んでいるのだと思います。

子どもの読者の方から「私は本が嫌いでした。でも、『銭天堂』を読んだら、面白かったから、どんどん本を読むようになりました。今は100冊くらい読んでいます」というお手紙をいただいたことがあって、そういうお手紙をいただくのが、作者として一番嬉しい瞬間ですね。
●廣嶋玲子流、物語の作り方。
―― 廣嶋さんご自身も小学生くらいから物語を書かれていたとお答えいただきましたが、作家になりたい子どもたちへ、物語を書くときのアドバイスがあったら教えていただけますか?

先程も言いましたが、思いついたことをどんどんメモしていくことですね。そこにおはなしの種があるはずです。それと、書きはじめても、すぐに続きが思い浮かばず、筆が止まってしまうこともあると思います。そうしたら、この後、主人公はどうするのか? 誰と出会って、なにをするのかということを考えて、箇条書きでも良いので、最後まであらすじを書いてみるのがオススメです。
―― なるほど。あらすじができていると、途中でおはなしが止まってしまうことも減りますね。

おはなしを書ききったら、それをぜひ、誰かに読んでもらってください。
―― え! それはかなりハードルが高いのではないですか?

恥ずかしいし、イヤなこと言われたらどうしよう……と思いますよね。でも、自分以外の人の目に触れることで、自分では気づかなかった、物語に足りないところを見つけてもらえるんです。
私もデビューするまで、母と妹に作品を読んでもらっていました。特に妹は厳しい読者だったので、見せるたびにすごく落ち込みました……(笑)。
―― あらすじを考えてから書きはじめる。作品を誰かに読んでもらうことに慣れる……この2つを繰り返していったら、第二、第三の廣嶋玲子さんが誕生しそうですね。

はい。私自身、ライバルはどんと来いという感じです! 良いライバルがいると、負けるもんか!という気持ちが沸き上がります。
それと、児童文学の世界ですごい作品、作家が生まれることは、業界の活性化にもつながります。その作品を読んで、本好きな子が増え、業界がさらに活気づく。この良い循環を繋げていきたいと思っています。
―― ご自身の作品だけでなく、児童文学全体のことも考えていらっしゃるのですね。たくさんのシリーズを読者は待っていると思いますが、これからどんな作品を書いていきたいですか?

私自身、こんなにたくさんのシリーズを書かせてもらえる日が来ると思っていなかったので、今、すごくありがたい悲鳴を上げています。今後は、今まで同様に、子どもの頃の私自身が面白いと思う作品を、頑張って書き続けていきたいです。

―― ありがとうございました。

※掲載されている情報は公開当時のものです。

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