
野菜畑の地下深く、洞窟の奥の部屋で暮らす野ネズミの女性発明家。そこへ訪れたのが町のネズミ、ハンフリー。人間からくすねてきたネジや歯車、その他発明に役に立ちそうなものを持ってきてくれたのだ。そこで目にしたのが大きなネコのような顔が描かれた切手。こんな動物が本当にいるのだろうか……知りたくなった野ネズミは、外の世界へ出ていった。
やがて世界は丸いということを知った野ネズミは、かつて飛行機で大西洋横断を果たしたというパイロットに出会い、飛行機で世界一周をしたいと考えるようになり……。
空を飛びたい一心で飛行機を完成させた野ネズミを待ち受けていたのは、他の野ネズミたちからの心ない言葉と仕打ち。
「おれたちは穴掘りネズミだ。空を飛んだりするもんか!」
そんな逆風をものともせず、自分を貫きつづける野ネズミを主人公に、この壮大な物語を生み出したのは、ドイツの絵本作家トーベン・クールマンさん。世界35言語62を超える国で翻訳出版されている「ネズミの冒険」シリーズ待望の5作目です。
コミュニティの役割からはみ出し、より大きな世界に向けた冒険へ一歩を踏み出す野ネズミと重ね合わせているのは、100年以上も前に女性飛行士として活躍したアメリア・エアハートという実在の人物。何度も苦境に立たされる中、軽やかに問題を乗りこえていく姿は、時代を超えて、子どもたちに憧れの気持ちと希望を抱かせることでしょう。
そして物語に登場する有名なパイロットというのは、もちろんあの……。シリーズを読んできた方ならすぐにわかりますよね。最後にはアメリア本人の姿を見ることもできます。
すべて水彩で描かれているという、まるで映画を観ているような緻密で重厚な絵。緊張感のある場面と、愛らしくユーモラスな場面が交互にあらわれ、読み応えのある物語をぐいぐいと引っぱっていってくれます。
史実とファンタジーが織りなす物語。独自の世界が広がるこのシリーズは、どの本から手に取っても楽しめるはず。好きな物語からじっくり味わうことをおすすめします。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)

ネズミは再び空を目指す― 女性パイロットが大西洋横断に挑戦!
野菜畑の下で暮らす野ネズミの女性発明家は、 偶然ある切手を目にしたことから、外の世界に関心をいだく。 やがて、かつて飛行機で大西洋横断をはたしたパイロットネズミと出会い、 飛行機による世界一周の冒険を計画する。 必要な材料を集め、野ネズミ自ら飛行機をつくり、飛立つが......。
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