
昆虫写真家・海野和男氏の年来のテーマの一つは「昆虫の顔」を撮ること。以前に他社から『昆虫顔面図鑑』を出して評判になったが、本書はそれから10年以上たって、撮りためた新作を「超拡大図鑑」として150点の作品をまとめたものである。
この二十年ぐらいのデジタルカメラ技術の進歩は驚くばかりで、とくに「深度合成」という技術は、昆虫のような小さいものの各所にピントが合わせられるようになり、驚くほど精細な写真が撮れるようになった。昆虫は5センチぐらいなら大きいほうで1センチ以下のものが大半だ。まして顔となるとなかなか普通の人間に見ることはできない(上から見ているので顔を真正面から見ることはない)。海野さんは微細な昆虫の顔をアップで撮り続けて、その驚異の世界に魅入られてしまったという。
本書に並んだ昆虫の顔は多くの人にとって未知なものだ。しかし、よく見ると何か人間と共通した形態や目・鼻・口などの配置が見えてくるような気がする。これは擬人化という科学の禁じ手だが、意外に重要な学問的示唆も含んでいるようである。バッタ類は総じてのんきな顔、カマキリ類は凶悪な面構え。草食系のバッタは目が横についているためそう感じる。肉食系のカマキリは獲物を狙うために前についていているのは動物などと似ている。
コラムや各解説ページでサイエンスライターの伊地知英信氏が「昆虫と顔」についての興味津々な話題を各種展開している。最新の「顔認証」技術や「進化生物学」の話など。いずれにしろ、人間の200分の1のサイズの虫だからまだ耐えられるが、これが人間と同じ200倍のサイズだったらどうだろう、と考えるのも面白い。
とにかく地球上で最も数が多く、生き残ってきた生物は昆虫なのだから、かれらのことを知ることは重要である。
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