● アリスンは、クールに見えて内側に熱い情熱を秘めた人
─── わが子への思いだからこそ、多くの読者の共感を得られるですね。なかがわさんが感じた、アリスン・マギーさんは、どんな女性ですか?
アリスンは、クールに見えて内側に熱い情熱を秘めた人です。彼女に言わせると、この絵本の核は「かなしいしらせ」のページなんだそうです。なぜかというと、愛しいわが子に悲しい思いなんてさせたくない。幸福な人生を送ってほしい。でも波風のない人生というのは充実した人生とはいえないし、いろんなことが起きても逞しく歩んでいってほしい。そのためには辛い経験をして、すこしずつ強くなっていかなければならないのだということを母である私は知っている。なぜ知っているかというと、自分も悲しさ、悔しさ、苦い思いを重ねてきて、今、ここにいるから…なんですね。そこに至って、自分もかつて母にそういうふうに思われていたのだということに気づく。自分の母親がオーバーラップしてくるんです。その深さがこの絵本の魅力だと思います。
─── なるほど…私たち読者は、わが子を思う母親から、母に思われる娘へと変化していくんですね。アリスンさんの詩と共に、ピーター・レイノルズさんの絵もこの絵本の魅力ですよね。
そうですね。決して明るいだけではない物語を、ピーター・レイノルズの絵が爽やかに、軽やかにページをめくる力になっていると思います。
絵に関して、面白いエピソードがあって、アメリカで出た絵本の絵が、私たちが最初に見たプルーフと何か所か、違っていたんです。
─── え! 本当に?
たとえば、さっきの「かなしいしらせ」のページ、プルーフではこう(写真)だったんですよ。最終的に出版する段階でピーター・レイノルズが、じぶんの描いた背景を消してしまったようです。前の絵を見慣れていた私はびっくりしましたが、たぶん、ピーターは「引き算」をしたんですね、本全体の効果を最大限にひきだすために。つまり、読者が経験した「かなしいしらせ」は人それぞれで違うわけでしょう。こまごまと描きすぎないほうが、普遍的な強さがでると考えたのではないかしら。甘さのさじ加減をみながら削っていった感じがします。
左:出版された絵本
右:プルーフ
プルーフには背景が付いていたんですね。
─── すでに原画ができている状態で、新たに描き直すのってとっても勇気がいることだと思うんですが、なかがわさんの感じるピーター・レイノルズさんはどんな方ですか?
ピーター・レイノルズは才気あふれる人ですね。彼ひとりで文/絵の絵本も作りますが、他の方が書いた文章に対しても、文章の裏側や行間を読み取って絵に反映していけるアーティストです。そして絵本の構造をよく理解していて、絵の中で物語をプラスしていける人です。気づいた方もいると思いますが、絵本の中で犬が少しずつ年をとっていたり、女の子が家を出るときに付けているマスコットは、小さい頃に大切にしていたぬいぐるみと同じクマだったり…など、想像が広がる絵を描ける人なんです。