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えほん新定番 from 好書好日

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インタビュー

2021.08.03

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はたこうしろうさんの絵本『なつのいちにち』 「一人でクワガタを採ってみたい」思いを叶えた日

いよいよ夏休み本番。コロナ禍できゅうくつに感じてしまうこともあるかもしれませんが、たとえば近所に一人で昆虫を採りにいくことだって、子どもには大冒険。絵本作家でイラストレーターのはたこうしろうさんが、5歳のときの体験をもとに制作した『なつのいちにち』(偕成社)は、そんなことを教えてくれる絵本です。朝日新聞の本の情報サイト「好書好日」から、インタビュー記事をご紹介します。(インタビュアー:日下淳子、撮影:片桐圭)

「一人でクワガタを採りたい」5歳の体験が元に

―― 一面に広がる田園風景。夏の暑い日差しの中、息を切らして神社の階段をかけのぼる。セミの声が響く渓谷を抜け、少年はクワガタを一人で捕まえたいと必死になる……。子どもだけでなく大人もかつて夢中になった夏の体験を描いた絵本『なつのいちにち』(偕成社)。はたこうしろうさんの絵からは、あの夏のにおいや音や湿度までが、鮮明によみがえってきます。

この絵本は、ぼくが5歳のときの体験が元になっています。いつもは7つ離れた兄と虫採りに行っていたんですけど、「一人だけでクワガタを採ってみたい」とずっと思っていました。そうしたら、あるとき、兄貴も両親も出かけて、ちょうどチャンスが巡ってきたんです。雑木林のある山まで1時間ぐらい歩く道でした。

実はこの絵本は、物語自体はとても単純で、家からクワガタ採りに行って、採れた、嬉しい、帰ろう、それだけ。でも、目的に向かって走っていって、達成するまでドキドキして、そして達成した瞬間の喜び、というのを伝えたかったんですよね。そのためには、いかに読者が主人公の気持ちに乗り移ってくれるのかを考えました。なるたけ言葉は少なくして、その代わりにこの子の気持ちの強さとか、走って向かっていっているときの、身体のしんどさ、日差しの暑さ、そういうのを自分のこととして実感してほしかったんです。そのためには、言葉をできるだけそぎ落として、その分体感できるような絵を作っていくようにしました。

ひとつページをめくると世界が変わる

――絵と言葉の連続した構成が、まるで映像を見ているように感じさせます。この絵本は、少年のアングルを上から下から極端に振った構図で描くことで、読者がぐっと主人公の気持ちに寄っていけるよう描いたのだと言います。ほかにも、読者の心を導き寄せる細やかな描写が、全編に散りばめられています。

この作品の絵を描くときは、3週間まるまる、この絵本のためだけにスケジュールをあけたんですけど、ものすごーく楽しかったです!

夕立のシーンをどう描いたらいいか迷っていて、雨の表現を思いついたときは、嬉しかったですね。普通は雨というと、雨の線を描くんですけど、めちゃめちゃすごいどしゃぶりのときって、景色全体がふわっと白くなるでしょ。その、遠くまで霧がかかった様子を描きたくて。薄い白を筆でさっと流していくんですが、その溶け具合を見ながら何度も練習しました。本番はめっちゃ緊張しましたね。

この子はね、このお腹のとこをすごく大事にしてるんですよ。はじめて自分で採ったクワガタ持ってるからね。シャツの中に入れてる。だから濡れてることなんか、全然気にしてないんです。子どもはすぐ気づいてくれる。ここに虫持ってんだ! ってことを。ちょっと怪我をするシーンなんかも、大人は気づかないんですけど、子どもはすぐ気がつきますね。

  • なつのいちにち

    みどころ

    暑い暑い夏の日。子どもの頃に体感したあの記憶の断片が蘇ってきます。
    真っ白な陽射し、青い草の匂い、響き渡るセミの声。
    そして大きな麦藁帽子をかぶって、山へ向かって一心不乱に走る少年。
    広い青空の下に駆け回るこの開放感は、体験した者にしか味わえない感覚です。
    我が息子にも、「夢中になって遊ぶ」事でこんな記憶の残像を一つでも多く体の中に残して欲しい、
    心からそう思わせてくれる一冊です。

渓谷のシーンは、背景に黒を使いました。編集さんが絵を取りにくる直前に思いついたんです。この前のページは、すごく暑い中、少年が階段をのぼって息切れしている。でもこの渓谷に入った瞬間に、気温がすっと下がって、湿度も上がって、という感じを、読者に肌で感じてほしかったので、色をぐっと抑えて、黒にしました。次のページを開いたときに、暗い中からぱっと明るい夏の日差しに飛び出した! という感じがするんですよ。

常に前のページが、次のページの布石になっているので、次をどう見せるかということを考えて描いています。特に絵本は、めくるという作業が生きるというか、そういう考え方しないとうまくいかないなと思うんです。それは場面だけでなく、言葉だったり、間だったり。絵本はめくることで、ひとつ世界が変わっていきますよね。それがおもしろいですね。

絵本の仕事をもらって「ああ、これだ!」

――今でこそ、絵本作家として人気を誇るはたさんですが、幼少期、家に絵本は1冊もなく、あったのは児童書の『エルマーのぼうけん』だけだったと言います。中学1年生のときに、長谷川集平さんの絵本『はせがわくんきらいや』を読み聞かせてもらい、感銘を受けたというはたさん。ああ、こんな世界があるんだと思ったものの、すぐに絵本作家を目指し始めたわけではありませんでした。

ぼくが絵を描き始めたのは、兄の影響が強かったと思います。7つ離れてるので、ぼくにとってスーパーマンみたいな存在でした。兄は絵がめちゃくちゃうまくて、ぼくは絵が好きだけど、ものすごくへたくそ。親はまさかこんな仕事すると思わなかったでしょうね。

はじめは、広告や雑誌で活躍するイラストレーターになりたいと思っていました。でも実際やってみると、まったくそんな才能がないことに気が付いたんです。何を描いたらいいかわからないんですよ。時代の先端をいく仕事なのに、どんな絵が今かっこいいのか、わからない。だめだー!と真っ暗闇でした。まったく向いてませんでした。

そんなとき、たまたま絵本の仕事をいただいて、「ああ、これだ!」と思いました。これならわかる、こういう絵本を描いたら喜んでくれるんじゃないか、とイメージが湧いたんです。そうだ、俺は長谷川集平さんの絵本を見て、絵本作家になりたいという時期もあったんだ、と思い出して、それからです。絵本を描くようになったのは。

絵本の構成に関して、技術的なことは嫁さん(おーなり由子さん)に教えてもらいました。結婚した当時は、まだ雑誌や広告で絵を描いてたんです。そのときは、嫁さんはぼくの絵を見ても何も言わない。

ただ嫁さんのほうは、その頃、「りぼん」で漫画を描いていて、ネームというんですが、スケッチをぼくに見せるんです。読んでみてって。「ここはどう思ったか」「ここは読むのにつっかえなかったか」「ここは時間の経過がわかるか」とか、すごく突っ込んだことを質問されるんです。それまで、そんなことを考えて読んだことがなかったので、聞かれてもとまどうじゃないですか。返事にとまどっていると「もっとちゃんと読んで」って。編集のプロのようなコメントを求められるわけです。こっちも必死になって読むようになると、物語を伝えるにはこういうことが大事なんだなとか、こういう構成をしなきゃわかりにくいんだなとか、というのがすごく勉強になりましたね。

この絵本も、タイトルをつけてくれたのは、実は嫁さんなんですよ。ほとんどできあがって、どういうタイトルにしようって編集さんとも言ってたんです。そうしたら、ある日、ぼくが朝起きて仕事に行こうとしたときに、布団の中の嫁さんに呼び止められて。まだねぼけながらも「こないだ言ってたあの絵本『なつのいちにち』にしぃ」って言うんです。「ああ、そのタイトルいいなあ!」って、すぐに編集さんとも合意して、これになりました。

この絵本は、大人の人にもよく感想をいただきます。講演をしたとき、『なつのいちにち』が好きという年上の男性にたずねられました。「この本、ぼくはすごい好きですけど、子どもはわかるんですか?」って。大人にならないと、この感じはわからないのではないかって。でも、不思議なことに、都会に住んでて全然虫採りをしたことないような男の子、女の子が、この絵本がすごい好きだったりするんですよね。それがおもしろいなと思っています。確かに、ぼくらが子どものときも、映画を見て、そんな経験してないのに、すごく憧れたり、楽しく感じたりすることっていっぱいあってね。そういうのを感じ取ってくれたのかなと。いまの子も、経験していないことにも、絵本で同じように感じてくれてるんじゃないかと思っています。

この書籍を作った人

はた こうしろう

はた こうしろう (はたこうしろう)

兵庫県に生まれる。絵本作家、イラストレーター。絵本に「ショコラちゃん」シリーズ(講談社)、『ゆらゆらばしのうえで』『ことりのゆうびんやさん』(以上福音館書店)、『なつのいちにち』(偕成社)、『むしとりにいこうよ』『みちくさしようよ』(ほるぷ出版)『雪のかえりみち』(岩崎書店)、『はるにあえたよ』「クーとマーのおぼえるえほん」シリーズ(ポプラ社)、『ぼくはうちゅうじん』(アリス館)、『はじめてずかん どうぶつ(1)(2)』(コクヨS&T)、童話の絵に『きかせたがりやの魔女』『あしたあさってしあさって』などの作品がある。

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