
【連載】第7回 『ぼくのくれよん』担当編集者 栗城浩美さん(講談社)インタビュー

今回おはなしを伺うのは、『ぼくのくれよん』の編集を担当した、講談社の栗城浩美さんです。
アッと驚く動物のクレヨンが登場するこの作品がどのように出版されたのか、当時のことを思い出しながら、お答えいただきました。
●いつも新しいことを考えていた、長新太さん
―― 長さんとはじめて会ったときのことを教えてください。
『
ぼくのくれよん』(講談社)を刊行させていただくことになって、ご自宅にうかがったときに、長さんにはじめてお会いしました。
当時、絵本の編集者になって間もない頃で、翻訳絵本や編纂ものは手がけた経験があるものの、日本の絵本は『ぼくのくれよん』がはじめての担当作品でした。
かなり緊張してお訪ねしたと思うのですが、奥さまと二人で、とてもあたたかく迎えてくださり、それからもいつも長さんのお家では楽しく過ごさせていただきました。
たいてい11時にご自宅にうかがって、毎回豪華なおやつをいただいていました。
今から思うとその時間になぜケーキや羊羹を食べていたのか、少し不思議なところもありますが……。
「ぼくのくれよん」
作・絵:長 新太
出版社:講談社
こんなくれよんで、絵を描いてみたいな。
ぞうのくれよんは、とても大きなくれよん。青で描いたら、カエルが池とまちがえてとびこんじゃった。でも、まだまだ描きたいんだ。今度は何色を使おうかな……!?
―― 『ぼくのくれよん』を出版することになった経緯を教えてください。
もともとは1977年に銀河社から刊行されていましたが、佐野洋子さんの『
おじさんのかさ』と同時期に講談社で刊行させていただくことになり、新たに原画の製版からし直しました。
くれよん画ですので、ちょっとした摩擦で原画が削れてしまいます。たとえば、青が削れて、オレンジ地の部分に点のようについてしまったりするわけです。どの程度の汚れが自然なのか、色校正のときに悩みました。
原画はかなり大きく、電車に乗れなかったので、タクシーで会社まで運びました。描かれてから15年くらい経っているにもかかわらず、色鮮やかな原画を見て、幸せな気持ちになりました。
―― 絵本に対する長さんの姿勢はどのような感じでしたか?
細かいことはなにもおっしゃらず、フォントの見本やゲラをお目にかけると「いいんじゃない?」といつもおおらかに受け止めていただきました。
ご自身のお仕事については常に新しいことをかんがえていらしたと思います。
―― 長新太さんの作品の中で、一番思い入れの深い絵本を教えてください。
たくさんありすぎて選びきれません!
『ぼくのくれよん』を別にすると、『
ごろごろにゃーん』(福音館書店)と『
ちへいせんのみえるところ』(ビリケン出版)でしょうか。文章は変わらないのにわくわくした気持ちで最終ページまでいき、何回でもまた最初のページに戻って読んでしまいます。
今でも100回連続でもいけますね。
「ごろごろにゃーん、ごろごろにゃーん、と、ひこうきは とんでいきます」
「でました」
という繰り返されるフレーズが音楽のようで、長さん世界のループに気持ちよく浸ってしまう作品です。
はじめて長さんの絵に出会った作品として『
いたずらラッコのロッコ』(作・神沢利子 あかね書房)、大人向けの絵本として『
えをかく』(詩・谷川俊太郎)も大好きな作品です。