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インタビュー
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2022.09.22
2008年、作家・湯本香樹実さんと絵本作家・酒井駒子さんが初タッグを組み一冊の絵本が生まれました。『くまとやまねこ』。最愛の友だちの「死」と、悲しみからの「再生」を描いた本作は、講談社出版文化賞 絵本賞をはじめ、数々の賞を受賞し、2008年を代表する1冊となりました。それから14年、再び、おふたりによる作品が誕生しました。
出版社からの内容紹介
学校帰り、ぼくはひとりで川の水を見ていた。そこに雪柄のセーターのおじさんがあらわれて、ふしぎなことをおしえてくれた……名作『くまとやまねこ』の夢のコンビで贈る、いのちの物語。
この作品は『くまとやまねこ』出版後に届いた多くの感想や手紙がきっかけとなり、生まれた物語なのだそうです。湯本さんの綴った言葉から、ひとりの少年の姿を絵本に描いた酒井駒子さんにお話しを伺いました。
この書籍を作った人
東京都生まれ。小説『夏の庭 The Friends』で児童文学者協会新人賞、児童文芸賞を受賞。同作品は十カ国以上で翻訳され、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ミルドレッド・バチェルダー賞などを受賞。その他に、小説『ポプラの秋』、童話『くまって、いいにおい』(絵:ほりかわりまこ)、絵本『おとうさんは、いま』(絵:ささめやゆき)、『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。絵本の翻訳も手がける。(写真:中道 智大)
この人にインタビューしました
兵庫県生まれ。『ゆきがやんだら』(学研)はオランダで銀の石筆賞を受賞。『きつねのかみさま』(ポプラ社・作:あまんきみこ)で日本絵本賞。『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラティスラヴァ世界絵本原画展金牌賞。『ぼく おかあさんのこと・・・』(文溪堂)では、フランスでPITCHOU賞、オランダで銀の石筆賞を受賞。 絵本に『よるくま』(偕成社)、『ロンパーちゃんとふうせん』(白泉社)など多数。
─── 『橋の上で』発売、おめでとうございます。橋の欄干に肘を乗せ、じっと下を見つめる少年の姿にまずグッと引き込まれました。この作品は2008年に出版した湯本香樹実さんとの絵本『くまとやまねこ』に寄せられたお手紙や感想から生まれた作品と伺いましたが、酒井さんの元に、『橋の上で』のお話が来たのはいつ頃だったのでしょうか?
たしか6〜7年くらい前だったかと思います。
─── 『くまとやまねこ』の感想から新しい作品が生み出されることを聞いたとき、どう感じましたか?
作品の成り立ちについては、聞いていませんでした。テキストだけをいただいて、真っさらなところからはじまっていきました。最初に作者の方と打ち合わせをする……ということを、しない方が私は進めやすいです。実際に描いていってみないとわからないので、打ち合わせや下書きで詰めることができません。特に今回はラフも作らずに、あえて曖昧なまま作りはじめるようにしました。
絵本のテキストというのは、行ったことのない場所への「地図」に似ているなぁと思っています。湯本さんの地図は、事細かに説明された地図ではないので迷いそうでスリリングですが、でもきっと辿り着けるはずという大きな信頼があります。
─── テキストを最初に読んだときの感想を教えてください。
「みずうみ」の水のイメージに共感しました。自分の中にもそういう像がありました。あと「だれかと目があったような、ふしぎな感じがした。いつか、たぶんおとなになってから、きょうのことを思い出すんだろう」というフレーズがとても好きでした。そういう言葉が地図の目印になっていきました。
─── 橋の上にやってきた「ぼく」、そこで出会った、 古くて何年も脱いでいないようなセーターを着た「おじさん」。「ぼく」の学校で 体験したショッキングな出来事の回想、「暗い地底の水路をとおって、きみのもとへとやってくる」という「みずうみ」の描写……。物語の中に出てくるエピソードはとても多岐にわたっていて、1冊の作品にまとめるのは、大変だったのではと思います。絵を描くときにパッと浮かんできた場面はありますか?
構図はパッと浮かぶのですが、なかなか絵にならなかったり、何度も同じ絵を描いて少しずつ進んだり。湯本さんの、説明しすぎないやわらかなテキストを、なるべく、自分なりでしかないけれどそのまま1冊にしたいと思ったので最後までウロウロしました。「ぼく」の体験した理不尽なエピソードは、描いてみてどうしてもわからないところを湯本さんにお聞きしたりしました。
─── 少年の持つまっすぐさや儚さ、脆さが、主人公の「ぼく」の表情、仕草、語り口調からひしひしと伝わってきました。同年代の読者は、まさに今同じような悩みを抱えているかもしれないですし、われわれ大人は、昔の出来事を思い出すきっかけになるのではと思いました。「ぼく」にはモデルとなった人物はいるのでしょうか?
「ぼく」の特定のモデルはいません。誰でもない誰かとして描きたいと思いました。
─── 酒井さんの作品でも年配の男性、しかもこの絵本に登場するようなおじさんは珍しいと思いました。絵を描くときに参考にしたものはありますか?
以前住んでいた町で、時々すれ違う人がいました。その人を思いながら描きました。ポーズなどは家の者に頼んだりして描きました。
─── ラフを描いている時や、原画完成の後など、湯本さんとのやり取りはありましたか?
湯本さんは絵について、こちらに委ねてくださいました。完成後に原画を見られて、「絵で描かれた夕暮れの太陽の位置が、想像していた情景の太陽の位置と1ミリのずれもない」と、言われたと聞いて嬉しかったです。
─── 絵を描いているとき、絵本に出てくるように、耳をぎゅうっとふさいで、水の音を聞く動作をされたと思うのですが、そのとき、どう感じましたか?
そうですね。自分の内側に広がる場所を見る感じでしょうか。
─── 酒井さんといえば、黒を基調とした色彩の中にも、単調ではない深み、鮮やかさを感じるタッチが魅力だと思います。『橋の上で』はどのような画材で絵を描かれたのですか?
この絵本は、ボール紙にアクリル絵の具とオイルペンシルで描きました。『くまとやまねこ』と、ほぼ同じ画材と描き方です。 他の絵本だと、水彩紙や段ボールに描いたりもします。
─── 著者からのメッセージの中で「初めてこの本のテキストを読んだ時、自分の小学生の頃を思い出しました。(中略)その時の気持ちを目印にして、少しずつ絵を描いていきました。あの時の自分に向けて手紙を書くように描きました」とコメントを寄せていますが、作品を描き上げた今の気持ちを教えてください。
なかなか進まなくて時間がかかってしまいましたが、やっと形にすることができました。出来上がった本の表紙を見ながら、小学生の頃の自分は読んでくれるだろうか、手に取ってくれるだろうかと思いながらページを繰りました。
─── 小学生のときに思いつめて立ちつくした出来事を、今でも思い出すことはありますか?
「その日」の気持ちというのは、今でもはっきり覚えていて、忘れることはないです。
─── 最後に、この作品をどのような方に手に取ってほしいですか? また、どんなことを感じながら読んでほしいですか?
どのような方にというのは無くて、どんな人でも手に取ってもらえたら嬉しい。でもやっぱり、子どもの人が手に取ってくれたら、それはすごく嬉しいなと思います。
─── ありがとうございました。
文・構成/木村春子