一匹のさるが、生まれた頃からある大きなお城に住んでいました。
理由は、王様を喜ばせるため。
くるりんっ! くるりんっ! 宙返りをすると、王様はさるにご褒美の甘いぶどうをくれるのです。
ところが。
王様は死んでしまいます。お城の中で宙返りを喜んでくれる人はいなくなり、さるは家来によって森に捨てられてしまいました。
そんなさるをめずらしがった森の動物たち、集まって、お城での暮らしぶりをあれこれと質問します。
「おうさまの ごはんはね。けらいが はこんで くるんだよ」
「きみの ごはんも?」
「もちろんさ。だってぼくは おうさまの さるだもの」「おうさまの さるは、じぶんで きのみを あつめないんだ」
本当は、さるがもらえるのは宙返りのご褒美に王様がくれる甘いぶどうだけ。小さなウソを知ってか知らずか、動物たちはさるのところに来なくなりました。
またひとりぼっち……寂しそうなさるのもとに唯一、木の実を集めて持ってきたのは、りすです。
ウソをそのままに、お城では贅沢な暮らしをしていたと誇らしげに語る、さる。りすはその話を嬉しそうに聞きながら、さらに木の実を差し入れ続けます。
ーーどうしてりすは、木の実をくれるんだろう。ぼくが王様のさるだからだ。ぼくは特別なさるなんだ……。
お城に住んでいた時も、王様にしか可愛いがられていなかったさる。どこかで寂しさや心細さを抱えながら生きてきたことでしょう。集まってきた動物たちを前に注目を浴びたい、虚勢をはってしまうのもわかります。
そしてとうとう、りすを怒らせてしまったさるの高慢な態度。どんなに優しいりすだって許せるものではありませんでした。人より優位でありたい、普段は心の奥底になりを潜めている気持ちが無遠慮に顔を出してしまうこと。そんなさるの気持ちも、やっぱり理解できるのです。
ようやく自分の過ちに気づいたさるは、素直な気持ちでりすと向き合うことに。
くるりん くるりん くるりん !最後は得意の宙返りが、大活躍です。さるやりすの気持ちに寄り添いながら「自分だったら、どうするだろう」そんな問いをもって読み進めてほしい一冊です。
(竹原雅子 絵本ナビライター)
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