ぼくがここにいるとき。
雑踏の中で歩きながら、ぼくは考える。ぼくが「ここにいる」ならば、ほかのどんなものだって「ここにいる」ことはできない。もしここに見あげるほどの大きなゾウがいるならば、そのゾウだけ。手の平に乗るほどの小さなマメがいるなら、そのマメだけしかそこにいることはできない。
地上に生きる草花や虫たちも、親子寄りそって暮らす動物たちも、水の中で自由に泳ぎまわる生きものたちも。この地球の上では守られている。
そこに「いる」だけで、そこに「ある」だけで。
ああ、それがどれだけ素晴らしいことなのか……。
詩人まど・みちおさんの代表作の一つであるこの詩に向き合い、絵本として表現、完成させたのは絵本作家きたむらさとしさん。まるで「大きな謎解きのようだった」と語るその物語の始まりは、存在が消えてしまいそうなほど風景に溶けこみながら歩く「ぼく」の姿から。そこからやがて「だれか」に出会い、かけがえのない「みんな」と一緒に地球に存在し、さらに宇宙へとスケールを大きくしていく。
その深く美しい画面を眺めながら、ここにいる自分も、そこにある何かも、存在する全てのものが大切であり、いていいのだという安心感に包まれていくのです。
没後10年を記念して刊行が続く「まど・みちおの絵本」シリーズ。生きる喜びを伝えてくれるどの作品からも、しばらく目を離すことができません。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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