『あのころはフリードリヒがいた』『氷の上のポーツマン』のような翻訳や『まほうつかいのでし』のようなゲーテの再話で知っているドイツ文学者の上田真而子さんからは異質な、そしてオリジナル作品です。
トイレにお化けがいるという言い伝え、お墓参りの時の薄ら怖さなど、自分にとっても少し昔の、昭和初期の日本ともいえるお話が4編。
少し古すぎて、子どもにわからせるにも難しいような世界ですが、自分の親の世代の日本風景として妙な懐かしさを感じました。
上田さんの経歴からは浮かびあがってこないのですが、上田さん自身の子ども時代の原風景がそこにあるのでしょうか。
妙に心に残る作品集です。
『いつもだれかが…』という上田さんの翻訳絵本では、おじいさんが自分自身のことを語っていますが、どこか近いものを感じました。
『おばけさんとのやくそく』が『いつもだれかが…』の後に出されているのも、意味があることでしょうか。
翻訳を中心に、どちらかといえばヨーロッパ圏に自分の表現の場をおいている上田さんですが、そう考えるととても意味深く、味深いお話です。
梶山俊夫さんの絵が見事に、それを支えています。