●実は、鼻をすする音が下品? 海外と日本のマナーの違いにビックリ!
───海外の絵本に出てくる癖が、日本の私達も共感する「くしゃみ」や「しゃっくり」「お腹が鳴る音」だったことにとても親近感が湧きました。
感覚が共通しているところは私も面白いと思いました。ただ、ちょっと日本人の感覚と違うところがあって、それは鼻をすすることなんです。ヨーロッパ圏では、鼻をズルズルすすることは日本で思っている以上にお行儀が悪いことなんですよ。
───そうなんですか?
鼻が出そうになったら、すするのではなくかんでしまいますね。
───なるほど。ヨーロッパの国の方は、おそばをすすれないと聞いたことがありますが、もしかしたら、おそばをすすることもお行儀が悪いという感覚なのかもしれないですね。ふしみさんは普段、フランスで生活されていますが、日本の子どもとフランスの子どもで、この絵本を読んだときの反応の違いを感じますか?
国の差はあまり感じないと思います。鼻を「ぐすんぐすん」という感覚は、日本人には分からないだろうなと思いましたが……。国籍が違うから、反応も違うとは、じつはあまり思っていないですね。とはいえ、日本語に翻訳するときは、日本の人たちにこの絵本を一番楽しい状態で読んでほしいという、プロデューサー的な立場で考えているとは思います。
───原文で分からないところが出てきたときは、作者の方に直接質問したりするのですか?
分からないことがあるときは、エージェントを通して作者の方に聞いてもらいます。でも、たとえば登場人物がすごく独特な名前で、作者が何か意図を持ってつけたのかなどといった、特殊な場合以外は、あまり連絡をすることはないですね。
───先ほど、この絵本の文章は少し説明的だったと言っていましたが、文章を大きく変えたりする部分もあったのでしょうか?
今回はかなりシンプルになるように訳したと思います。大人向けの文学作品の場合だと、少し難しい表現でも原書に忠実に訳すこともありますが、絵本はくどくどしていたら、子どもにあきられてしまいます。子どもに面白さが伝わることが大切なので、より分かりやすく、楽しくするために削るところは削りました。ただし変えるのは、その作品がよりよくなる場合だけ。作品に流れている雰囲気やユーモアは、すべて原書に忠実です。訳者はあくまで黒子で、作家ではありませんから、日本語の文章としてよくなるところにだけ、手を加えました。
───文章の中に、太字になっているところがありますが、これもこだわりですか?
そうです。この絵本は、黒いアウトラインでしっかりと囲まれた、「静的」な絵が印象的だったので、横に添える文章が大人しいと動きがないように感じたんです。なので、おはなしが動き出してくれるよう、太字の部分を入れて、動きをつけようと思いました。
───表紙のタイトルに動きをつけたのも、同じ理由ですか。
はい。四方を額に囲まれた、わりときちんとしたイメージの表紙ですよね。でも、おはなしはもっとはちゃめちゃというか、ユニークな内容なので、かっちりしすぎないように、文字に動きをつけてもらいました。原書のタイトルは「PRINCESSE PETITS-BRUITS(プリンセス プティブリュイ)」といって、ある有名な古典作品をオマージュしています。何か分かりますか?
───え? お姫様のはなしだから、シンデレラとか、白雪姫ですか?
「えんどう豆の上に寝たお姫さま(Princesse au petit poids) 」というアンデルセンのおはなしのタイトルをひねったものなんです。このタイトルを見たら、フランスやベルギーの人はすぐにこのアンデルセンの作品を連想すると思います。
───そうなんですね。絵本に登場するさわがしいお姫様と、厚い布団の上から、小さなえんどう豆の存在に気付く、繊細なお姫様……。タイトルのギャップがより楽しいですね。