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連載

岩崎書店 えほんができるまで 作家インタビュー

岩崎書店様

2017/09/07

【連載】『空からのぞいた桃太郎』 影山徹さんインタビュー

【連載】『空からのぞいた桃太郎』 影山徹さんインタビュー

●知らなかった!? こんな「桃太郎」!
日本人なら知らない人はいない、とってもなじみ深い昔話、「桃太郎」。今までに、たくさんの絵本作家による「桃太郎」が出版され、最近ではCMのキャラクターとしても、人気を集めています。
しかし、その「桃太郎」のおはなしが、実は“ツッコミどころ”が満載なのだというのです。
そんな「桃太郎」の“ツッコミどころ”を今までない視点で描いた絵本が出版されました。それが、『空からのぞいた桃太郎』(岩崎書店)です。
この絵本の最大の特徴は、『桃太郎』の世界を空から見た目線で描いていることです。
すると、今まで感じることのなかった、いろいろな”ツッコミどころ”に気づくことができるのです。
桃が流れてくる場面では、川の勢いや川幅などが俯瞰だと、より現実的な映像として私たちの目に映ります。
すると、「どうして桃は川を流れてきたんだろう」「おばあさんは、急な流れの中、どうやって桃を拾ったんだろう」と
ツッコミどころに気づきます。
桃太郎が生まれた場面を見ると、おじいさんとおばあさんが、とても広大な土地を持っていたことが分かります。
経済的に裕福だったからこそ、桃から生まれたあかんぼうを育てることができたのかな?と想像できるよう、描かれています。
どうしてこのような新しい視点の『桃太郎』を描こうと思ったのか……。
本書の企画発案者で、岩崎書店代表取締役の岩崎夏海さんは言います。
岩崎:きっかけは、スタジオジブリが発行している小冊子『熱風』に載っていた、高畑勲監督の「『日本人の心性』の、ある側面について」(2015年2月号)を読んだことです。そこに「桃太郎」がいかに、侵略的な物語なのかが書いてありました。そしてそれは、高畑監督だけが言っているのではなく、福沢諭吉や芥川龍之介など、日本を代表する作家も論じているというのです。私はそれまで、「桃太郎」を、そういうおはなしだと思ったことがなかったので、とても衝撃を受けました。同時に、とても面白い視点だと思い、「桃太郎」に関する歴史を掘り下げていきました。
岩崎さんが「桃太郎」の歴史を調べると、すぐに戦時中に桃太郎をヒーローに、敵国を鬼に見立てたアニメーションや絵本が作られていたことを知りました。そして、この「桃太郎」の世界を俯瞰して見ることで、今までの「桃太郎」の物語では描かれなかった側面が浮かび上がるのではないかと思ったのだそうです。
岩崎さんは、「俯瞰の絵といえば、影山さんしか思い浮かばなかった」と、影山徹さんに企画を持ちかけました。
影山:岩崎さんからお話をいただいたのと同じくらいのときに、小説家の池澤夏樹さんが朝日新聞に掲載した「終わりと始まり 桃太郎と教科書〜知的な反抗精神を養って」という随筆を読んでいました。その随筆によって、ぼくの中に「桃太郎=ツッコミどころ満載」というイメージがすでに出来上がっていたので、岩崎さんからの提案もすんなりと受け入れることができました。
はじめての打ち合わせが終わるころには、『空からのぞいた桃太郎』の構図が、影山さんの頭の中に浮かんでいました。長年、イラストレーターとして活躍し、『鹿の王』(作:上橋菜穂子、角川書店)など、多くの文芸書の表紙を手掛ける影山さんの中でも、このような経験ははじめてだったのだそう。
影山:1回目の打ち合わせが2015年11月後半ぐらいだったのですが、あっという間に下絵が描けてしまいました。
貴重なラフを見せていただきました。
岩崎:私は、下書きを描くまでに何度かやり取りをして、1年くらいかかるだろうと踏んでたんです。まさか、年明けにすぐ下絵をいただけるとは……と非常に驚きました。
影山さんの原画はとても個性的で、紙ではなく、べニア板に描くのだそう。よーく見ると、絵のところどころに木の質感が表れているのを確認できます。それだけでなく、この絵本の最初の何ページかでは、おじいさん、おばあさんの元で暮らしている間の、時間の経過や季節の移ろいなども絵から感じることができます。
桃太郎の旅立ちの場面。
岩崎:私たちが見てきた『桃太郎』の絵本の中には、桃太郎が鬼退治に行く理由を説明しているものもあります。でもそれは、終戦後、日本の作家たちが手を加えた設定であって、本来の『桃太郎』のおはなしには、桃太郎がどうして鬼退治に行くことになったのか、その理由は出てきません。あえて書かないことに、桃太郎の異質さが表現できるのではないかと思ったんです。
鬼退治の道中。桃太郎はイヌ、サル、キジと出会い、彼らをお供に迎えます。
影山:お供の3匹と出合う場面は、描く前から思い切り遊べる場面だと思っていました。迷路みたいになっているでしょう。でも、その中でも注目してほしいのが、イヌ、サル、キジが暮らしている環境です。桃太郎の住んでいたところと比べて、非常に過酷な場所だということが分かるように描きました。
岩崎:イヌ、サル、キジは、桃太郎の部下として、きびだんごで雇われていますが、なぜ、この3匹だったのかも、物語の中には説明されていません。でも、少なくとも絵を見ると、3匹がきびだんごという報酬を経て、鬼退治を請け負ったのか、その理由がなんとなく感じられるのではないかと思います。
そして、桃太郎は鬼たちのいる、鬼ヶ島へやってきます。影山さんは鬼ヶ島の場面を描くのに、何度か描き直したそうです。
影山:最初、鬼たちが近くの村から盗んだ食べ物やご馳走を並べて、酒盛りをしている絵を描いたんです。でも、そうすると、鬼が悪役になり、桃太郎が鬼退治に来ることに正当性が生じてしまう。そこで、鬼たちが普段暮らしている様子が見える絵に変えることにしました。

鬼ヶ島の様子をよく見ると、芝居小屋があり、豆や金棒を売っているお店があり、鬼たちが平和に暮らしていることを感じ取ることができます。そんな鬼ヶ島に攻め入る、桃太郎とお供のイヌ、サル、キジ……。
物語はその後どうなるのか、読み終わった後に、読者の心の中にどんな感情が芽生えるのか、ぜひ絵本を手に取って感じてほしいとおふたりは言います。
影山:ぼくは、『桃太郎』の善悪の認識を覆そうと思っているわけではなく、絵本として、あくまで客観的に、『桃太郎』の世界を俯瞰して描きたいと思い、描きました。
岩崎:影山さんのその立ち位置は、全然揺らがないんですよ。普通だったら、もっと伝わるように、登場人物の表情に感情を描き加えたりしそうなものなのに、「空から見た」客観性を最後まで貫いてくださいました。編集者である私の方が、その揺るぎのなさにたじろぎました(笑)。もしかしたら、逆にすんなりと受け入れられてしまって、昔話の「桃太郎」の持つ“ツッコミどころ”に気づいてもらえないんじゃないかと……。そして、苦肉の策で「解説」を絵本に付けることにしました。

解説には、戦前戦後を通じて起こった「桃太郎」の変化や、各ページに隠された“ツッコミどころ”が丁寧に紹介されています。絵本を読んだ後に解説を読むと、さらに、何度も絵を見たくなる小冊子です。
岩崎:子どもは親の姿を見て育ちます。私は、親は毅然とした態度で揺るがないなんてことはせずに、戸惑ったり、悩んだりする姿をどんどん子どもに見せてほしいと思っています。そうするとこで、子ども自身が考えるきっかけになると思うんです。解説は、絵で描かれていることに対して、より深く考えてほしい、気づいてほしいと思い作りました。どうぞ、みなさんも、お子さんと一緒に「桃太郎」について、いっぱい悩んで、発見してください。
岩崎書店 岩崎夏海さん
影山:自分が子どもだった頃のことを思い出してみると、やさしい、かわいい絵本よりも、強烈なインパクトがある場面が一か所でもある絵本の方が印象に残っています。『空からのぞいた桃太郎』が、お子さんだけでなく、大人の方にとっても、いつまでも記憶に残る、強烈な絵本になってくれると嬉しいです。
皆さんは、この作品を読んで、どんな感想を持たれるのでしょうか……。


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