日暮れ時、はたけ仕事をしていた清作はおかしな声を出す男に会う。その背の高い画かきは、怒っていたかと思えば笑い出し、柏の木大王に招待されたから一緒に行こうと清作を誘う。
柏林に到着すると、林中の柏の木が気味の悪い声を出し、清作をおどす。
「せらせらせら清作、せらせらせらばあ。」
それもそのはず、清作は木こり。木を切るのが仕事なのです。
「おれはちゃんと、山主の藤助に酒を二升買ってあるんだ。」
清作が言えば、柏の木大王は答える。
「そんならおれにはなぜ酒を買わんか。」
そんな時、大きな月がのぼり、夏のおどりの第三夜がはじまった。
柏の木どもは、みんな順に自作の歌を歌い出す。
画かきは一等賞から九等賞までメダルをやると言う。
そこに年寄りのフクロウが参加するとやってきて・・・。
月夜の晩の幻想的な出来事。
赤いトルコ帽をかぶった画かきは一体誰なのか。
夏のおどりの第三夜とはどんなお祭りなのか。
霧が落ちてくるとどうなるのか。
なんだかはっきりしないまま、ふわふわと物語を読み進めながら、
それでも柏の木たちの歌自慢に、だんだん楽しくなってくるのです。
「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」
人と自然の不思議な関係。賢治の目には、こんな情景がいつも浮かんでいたのでしょうか。
小林敏也さんの、こだわりぬいた色味や用紙やインクで表現された絵や装丁が、よりいっそう雰囲気を盛
りたてます。特に最後の場面の美しい表現では息をのみ・・・。大人になるまで味わえる「宮沢賢治の画
本」シリーズは贅沢な絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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