季節の移ろいは寒暖の変化もあるが、夜の長さでも季節が変わったことがわかる。
夏から秋へ、気がついたら夜はうんと早くその帳を下し、どことなく暗さも増したような気がする。
秋の夜長とはうまくいったものだ。
長くなった夜に少し得をした気分になる。
みやこしあきこさんのこの絵本を読んだあとも、その少し得をした気分を味わった。
お母さんウサギに抱っこされて家に帰る、子ウサギ。
レストランも本屋も店じまいを始める時間。都会では夜中になっても煌々と灯りがついているが、本来夜は誰もがその日の活動をやめて、明日にそなえるもの、だったはず。
「よるって とても しずか」、そんなことさえ忘れている。
静かだから、家の灯りから人の話声がぼそぼそと聞こえてくる。
誰かが電話で話している。
どんな話をしているのだろう。
おいしそうな匂いもする。
一日の営みの終わりにおいしい料理をこしらえる。作ってくれる人がいて、それをおいしいと食べる人がいる。
くつろいでいる人も、パーティで騒いでいる人も、みんな夜を愛おしみ、楽しんでいる。
これから出かける人が、さよならの抱擁をしている。
みやこしさんの絵のタッチの、なんという優しさだろう。
例えるなら、静かな夜にふっと浮かび上がる蝋燭の明かりのような。
やがて、夜はふけていく。
お風呂にはいってくつろぐ人、昨日の続きの本を読みながらいつの間にか眠ってしまう人、こつこつと静かな足音が去っていく。
「いつもの よる/とくべつな よる」、夜にも色々あるけれど、ベッドの毛布にようにそれはいつもどこか温かい。
絵本にいれられて言葉はとても少ないけれど、それがまるで夜の静かさをこわさないよう、作者の優しさのようでもある。
こんな素敵な夜には子ウサギはどんな夢を見るのだろうか。
寝床の子どもに読み聞かせながら、いつの間にか一緒に眠っている。枕もとには、この絵本があって、もしかしたら、こんな風につぶやいているかもしれない。
「おやすみなさい」。