ある雪の日、子どものトナカイはおもちゃと間違えられて包まれてしまいます。袋に詰め込まれたトナカイは、サンタが空を飛んでいる途中、誤ってアパートの屋上に落ち、そこにいた少年の手に渡りました……。
評判の高いクリスマス絵本なのでワクワクしながらページを開きましたが、予想していたものとはまったく違いました。けれども、そこがこの作品の根幹をなします。舞台はニューヨーク。この設定は冒頭の北国ラップランドの光景とは対照的で、クリスマスが絵空事ではないという現実感を与えます。街の描写には高層ビルが林立し、一般的なクリスマス絵本として思い描くような情景は登場しません。クリスマスは「形」ではなく「心」であることを証明するメッセージが、そんなところから強く感じられました。
驚いたのは、そのメッセージがしっかり子どもの心に伝わっていたこと。……というか、この絵本は昨年のクリスマスに購入したもので、初回以来リクエストはなく、他のクリスマス絵本の中に埋もれてしまった感がありました。今年も一回読んだだけでしたが、感動は忘れた頃にやって来たのです。娘が学校で描いたという絵は、トナカイの絵。トナカイの吹き出しの中には4本足の出た包みがあります。「これは、あの小さいトナカイ。大きくなってヒュ〜ンと空を飛ぶんだよね〜」とたどたどしい英語混じりで嬉しそうに話すので、わたしは意外な言動に思わず「覚えていたのー?」と彼女の笑顔を見て何度もほおずりしてしまいました。
街中クリスマス一色の中、彼女が思い描いたのは、小さいトナカイのことだったんだと思うと、いまさらながら絵本の力を感じずにはいられません。通りやビルの壁画の描かれ方が、主人公の少年ぐらいのもう少し大きな子ども向きかなとも個人的に感じていたこともあり、とにかく娘の思いがけない反応に驚きました。少年とトナカイの交流が胸を打つ作品を、子どもは子どもなりに感じていたのですね。