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偕成社 創立80周年展 記念連載

偕成社×絵本ナビ

2016/04/21

【連載】偕成社 80周年記念 今村正樹社長インタビュー

【連載】偕成社 80周年記念 今村正樹社長インタビュー

2016年、児童書専門出版社・偕成社が創立80周年を迎えます。『すてきな三にんぐみ』、『はらぺこあおむし』、『からすのパンやさん』、『じゃあじゃあびりびり』、「ノンタン」シリーズ「おれたち、ともだち!」シリーズ「あかちゃんのあそびえほん」シリーズなどなど……。絵本を楽しむなかで、誰もが一冊は偕成社の本に出会ったことがあるのではないでしょうか? 今回、創立80周年を記念して開催される「偕成社創立80周年展 子どもの本とあゆんだ80年」を記念して、絵本ナビでも連載企画がスタートします。
第1回目は、偕成社社長・今村正樹さんに、偕成社の歴史についておはなしを伺いました。
● 創立80周年を迎えて

―― 創立80周年おめでとうございます。 偕成社は創立当初、児童書の出版社ではなかったと伺いました。どのような経緯で、児童書専門の出版社になったのでしょうか?
偕成社は1936年に創業しました。おっしゃる通り、最初は社会派の一般書なども扱う総合出版社でした。偕成社が今の様な児童書専門出版社になったのは戦後、1946年のことです。理由のひとつは、初代社長・今村源三郎の娘といわれています。その子は小さい頃からとても体が弱く、家の中で本を読んで過ごすことが多かったそうです。娘の姿を見て、わが子が楽しめるような子どもの本をたくさん出版しようと、児童書出版社の道を決意したと社史に残っています。
また、社会的な理由としては、戦争が終わり、日本をはじめとしたアジア諸国で、子どもの教育に対する需要性が高まってきたことが挙げられます。学校図書館法が制定され、子どもに絵本や読み物を与える場所が増えてきました。そんな時流の流れもあったといわれています。

―― わが子を思うお父さんの気持ちが、偕成社の絵本作りの根底に流れているのですね。今回、80周年の歴史を教えていただけるとのことですが……。
80年をすべておはなしするのは、とても長くなってしまうので(笑)。偕成社の転機となるような年代を3つの時代に分けておはなしできればと思います。最初は、戦後(1945年)から1960年代。児童書専門の出版社としてスタートした頃です。
―― 1960年代というと、1956年に福音館書店が「こどものとも」を創刊したり、理論社が読み物のシリーズをスタートさせたりと、児童書業界全体の創成期にあたる時代ですね。
そうです。この年代は偕成社にとって「読み物と翻訳絵本の時代」。世界文学を子どもに読みやすく翻訳した「世界名作文庫」(全140巻)や「世界少女名作全集」(全40巻)の刊行がスタートしました。

―― まずは児童向けの読み物を出版したのですね。
ロングセラー読み物『大どろぼうホッツェンプロッツ』も1966年の出版です。
―― 悪名高い大泥棒ホッツェンプロッツと、彼を追いかける2人の少年たちのハラハラドキドキの冒険小説。シリーズを読破した子どもたちも多かったと思います。この当時、翻訳作品の情報はどのように入ってきたのですか?
今のようにインターネットなどは全くありませんでしたから、海外の版権を扱うエージェントの方や、海外児童書を研究している翻訳家の方を通じて、名作や人気作品の情報を得て、出版を決めていました。
―― 絵本の出版は何年ごろからスタートしたのですか?
本格的な絵本シリーズを出版したのは、1965年です。「ひろすけ絵本」として全10巻を出版しました。その中でも、いわさきちひろさんが挿絵を描いた『りゅうのめのなみだ』は、国内外で高く評価していただき、今でも多くの読者に愛されている作品となりました。
―― 『あかいふうせん』や『あかいくつ』、『にんぎょひめ』など、いわさきちひろさんが絵を描かれた作品も、たくさん出版されていますね。

偕成社 60年代 いわさきちひろさんの絵本

そして60年代の終わり、1969年には『すてきな三にんぐみ』が出版されました。そこから70〜80年代は、「創作絵本の土台となる年代」だと思います。『からすのパンやさん』や『おたまじゃくしの101ちゃん』など、「かこさとしおはなしのほん」(全10巻)を刊行しはじめたのが1972年。「ノンタン」シリーズが1976年、『まどからおくりもの』など五味太郎さんの作品や、きむらゆういちさんの「あかちゃんのあそびえほん」シリーズは80年代を代表する偕成社の絵本のひとつです。
―― 70年〜80年にかけての絵本の中で、特に印象的な作品をあげるとしたら何でしょうか?
そうですね……、あえて一冊をあげるとしたら、『はらぺこあおむし』でしょうか。当時、アメリカではあのようなしかけ絵本の製本が困難で、アメリカの出版元から、「日本で製本ができないか?」と直接相談を受け、アイデアを出したり、製作に関わったりした作品なので、会社としても思い入れが深いですね。最終的にはアメリカ国内で製本できることになりましたが、当時は、海外の絵本専門出版社との交流も多く、そこからいろいろな作品についてやり取りを行っていました。
―― 今では33か国で翻訳されている『はらぺこあおむし』の制作に日本の出版社が関わっていたなんて、嬉しいです。
この「土台作り」の年代の、もうひとつの側面をあげるとしたら「出版業界全体に勢いがあった時期」だということだと思います。ちょうど私が偕成社に入社したのが1980年。ちょうどその頃刊行した「ノンタン」シリーズの10作目『ノンタン ボールまてまて』は、初版とそのすぐ後の重版で、8万部スタートでした。
―― 初版で8万部! ものすごい数字ですね。
「ノンタン」シリーズは特に人気のある作品なので、初版部数もモンスタークラスでしたが、絵本の刊行点数自体も多かったですし、初版1万部スタートの作品も珍しくなかったんです。90年代以降は、3つめの区切りとなる「新しい絵本作家の時代」がはじまったと思います。
―― 「新しい絵本作家の時代」ですか?
例えば酒井駒子さんの『よるくま』や、いわいとしおさんの『100かいだてのいえ』、やぎたみこさんの『ほげちゃん』など、新しい感性、タッチで絵本を作る絵本作家さんが人気を集めている時代です。
―― なるほど、確かにどの絵本作家さんも若いお母さん、お父さんを中心に人気を集めている方々ですね。今村さんは社長として、絵本の出版にどのように関わっていらっしゃるのですか?
基本的に、社長は編集者が面白いと思って、企画を立ててくれないことには何もできない立場なので(笑)。ただ、各編集者の「出版したい!」と思っている作品はすべて目を通し、最終的に出版をするか否かの判断をしています。

―― 出版する作品の基準などはあるのでしょうか?
そうですね……。なかなかひとことでは言い切れないのですが、判断の基準として多くを占めているのは自分の子ども時代の経験ですね。例えば『100かいだてのいえ』のときは、私自身、子どもの頃に家の絵を描くのが好きだったので、きっと今の子どもたちも好きだろうと、出版を決めるのに迷いませんでした。また、「おはなしのおもしろさ」や「子どもがくりかえし読みたいと思うか」というところも、チェックするポイントです。
―― 出版を決めるのに迷うことなどはありますか?
たくさんあります。自分の子ども時代の経験では判断できないときには、編集者と作家がどのような思いで作品を作ったかを聞いたり、過去の出版物と照らし合わせて、会社として出版する意義があるかどうかも考えながら判断しています。
―― 特に会社として、意義を感じて出版を決めた作品にはどんなものがありますか?
1977年に出版した『指で見る』をきっかけに、現在も出版を続けている「障がい者を理解する絵本」※がそれに当たります。もともと先代の社長が、企画の持ち込みや、海外のブックフェアでの交流がきっかけで、この企画をやることへの思いを強くし、はじまったもので、そのあと、障がいを持つ我が子のいる編集者が賛同し、数々の本の出版につながりました。

偕成社 「障がい者を理解する本」シリーズ

※偕成社の「障がい者を理解するための本」の一覧は、 冊子になっています。ご入用の方は、偕成社ホームページの お問い合わせフォームより、 お求めください。
―― 『さっちゃんのまほうのて』や『わたしたちのトビアス』を読んだことのある読者も多いと思います。さらに、最近では目が見えない子も、見える子もいっしょに楽しめる「てんじつきさわる」絵本も出版されていますね。
製本の難しさや、単純に点字をつければよいという訳ではない、編集上の難しさもあり、なかなかコンスタントに出版することができないジレンマを抱えてはいますが、会社として今後も継続して出していきたいシリーズのひとつです。また、80周年を記念して出版した「世界のともだち」シリーズも会社として信念を持って刊行した作品でもあります。
―― 以前、絵本ナビでも取材をさせていただきましたが、世界36か国、36人の子どもたちの暮らし、家庭の食事風景、特別な行事の日などにまで密着し、1冊にまとめた写真絵本シリーズですね。
実は、創立50周年のときに「世界の子どもたち」というシリーズを刊行しました。それから30年たち、無くなった国があったり、子どもたちの身の回りの状況が大きく変化した部分もあり、いつか編集し直したいと思っていました。80周年を迎えるにあたり、「今しかない!」と決断しました。インターネットが発達した現代では、外国のことも調べればすぐに出てくると思います。でも、この「世界のともだち」シリーズは、読者である子どもたちと同じ年代の子どもの日常に軸を置いて、学校での暮らしや家の様子、日常の過ごし方を紹介している。出てくる子どもに感情移入して世界を知ることができるという点では、やはり本として出すことに意味のあるシリーズだと思います。
―― 今回、かけ足で偕成社の80年のおはなしを伺いましたが、10年後、20年後、偕成社はどのような作品を出版したいと考えていますか?
個人的には出版社が何年生きようと関係ないと思っています。それよりも、本そのものが生き続けるのが大事。
そういう意味で、偕成社の本がここまで多くの方に読まれて残ってきたのは、その本を次の世代に渡してくれた、読者の皆さんのおかげです。我々は、10年後もきっと今までの80年と同様に、子どもの本を大切に思ってくれる読者の方を大切に、1冊1冊、本を作っていくと思います。
今回、開催される「偕成社創立80周年展 子どもの本とあゆんだ80年」は、かつて子どもだった大人の方には懐かしい作品と再会できる機会だと思います。また、お子さんたちにはこれから先、20年後も思い出してもらえる本と、1冊でも出会ってもらえたら嬉しいです。
―― ありがとうございました。


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