俗に汚い部屋のことを「豚小屋」などと申しますが、豚は存外綺麗好きなのでございます。じっさい豚は「食う」「寝る」「出す」場所をちゃんと区別してはるとか。
きくところによると野生に生きていた頃の名残らしいですわ。なんでも敵に自分の居場所を悟られないようにするためなんだそうでして。野生の豚いいますと、「もののけ姫」に出てくる乙事主(おっことぬし)様、祟り神になってしまったあの齢500歳の猪神を想像しますな。えっ、しませんか? ま、要するに豚は自分が暮らしやすいように、ちゃんと普段から考えてはるっちゅうことですな。
本書の主人公トン吉は、ある養豚場で暮らす豚さんであります。仲間がガツガツとエサを食うとるいうのに、ひとり食べないんですな。その理由をきいてビックリしたらあきまへんで。
「自分がハムになるのは納得いかない。丸々ふとったらいずれは人間に食われる。だから自分はダイエットしてふとらない」っちゅうんですわ。
そんでトン吉は、ダイエットばかりでなく、腕立て伏せや腹筋、ヒンズースクワットまでやっとるんですわ。想像してみなはれ、丸々ふとった豚たちのなかに、一匹だけスリムで逆三角形の体つきしたのがおるんでっせ! ブヒブヒ
仲間たちは心配して、「食べろ、それがわしらの仕事やないか」と説得をこころみる。要するに自分たちの運命を疑うことなく受け入れているんですな。もしくはあきらめている。しかしトン吉はまったく納得しない。そして仲間にこう言い放つんですわ。
「おれは自由になる!」
カッコよろしいなぁ〜、トン吉はん、あんさん男やねえ〜
その後、ダイエット作戦を遂行しつづけたトン吉は、不思議な行動をとる豚として耳目を集め、狙いどおりに「考える豚」として大学の研究室に送られることになります。
で、ハムになるのを免れた……かどうかは読んでからのお楽しみ。なにしろ三枝師匠のお噺ですから、そうはトン屋が、いや問屋がおろさない、かも???
そんなわけで、お後がよろしいようで……
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