この絵本を読み終えて、まるで映画のようと思う人は多いはず。
それもそのはず、この絵本はアニメーションショートフィルムを監督自ら絵本にしたものです。
監督、つまりこの絵本の作者マイケル・ディドウ・ドゥ・ヴィットさんはオランダ生まれのアニメーション作家で、作品に描かれる平坦な大地はオランダの風景だそうです。
この絵本の翻訳をしているうちだややこさんは本木雅弘さんの奥さんで樹木希林さんの娘さんでもあるエッセイストの内田也哉子さんです。
うちださんはこの絵本に付けられた付録の冊子で、この作品の絵のことを「つつましく繊細な温度を保つ絵」と表現しています。
なんとうまい言い方でしょう。
絵本は、干潟を自転車で走っていく父と娘の姿から始まります。
岸辺に着くと、父は「それじゃあな」と、一人ボートで漕ぎ出していきます。
それが、父と娘との別れでした。
それから、長い時間が過ぎていきます。
少女は美しい女性になり、伴侶ができます。
やがて、子どもも生まれ、母となります。
あの時の少女も今は年をとりました。
いつしか、父と別れた岸辺に彼女は戻ってきます。
その岸辺で彼女が見つけるもの。きっと読み手はそこでこの岸辺の深い意味を知ることになります。
人の一生がこんなに静謐な時間の流れだということを気付かさせてくれる、尊い絵本です。