『おじいちゃんのたびじたく』は、
文と絵をかいた作者の名前がソ・ヨンさんということでわかるでしょうが、
韓国の絵本です。
翻訳をしているのは、ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんの作品など
多くの韓国作品を訳している斎藤真理子さん。
斎藤さんは2015年にパク・ミンギュさんの『カステラ』という作品の翻訳で、
第1回日本翻訳大賞を受賞しています。
斎藤さんのお父さんは宮沢賢治の研究者でもある物理学者の斎藤文一さん、
お姉さんは文芸評論家の斎藤美奈子さん。
この絵本が日本で出版されたのが2021年ですから、
その時にはすでに斎藤さんの翻訳の実力は確立していたと思います。
そんな斎藤さんにこのじっくりと読ませる、
しかもどちらかといえば大人の読者にふさわしい絵本の翻訳を依頼したのは大正解でした。
ある日しずかなおじいちゃんの家にやってきたお客さん。
ほわほわして、白い小さな子供みたいなお客さん。
このお客さんは、これからのおじいさんの旅のお供をする大事な人。
旅先で奥さんが待っていると聞いたおじいさんは身ぎれいにしたり、
思い出の写真をかばんに詰めたりします。
読んでいるうちに、おじいちゃんの旅の意味が読者にもわかってきます。
人はいずれ、誰もが旅をすることになります。
それはさびしいことでもありますが、誰にでもおとずれること。
そんな思いが、やわらかな絵とやさしい言葉で綴られています。
散り始めた桜におじいちゃんの帽子がぽつんと残された裏表紙の絵に余韻が漂う、
そんな絵本です。