1986年、トモ企画により刊行された絵本。その後1995年にあかね書房から初版が出て、2004年11月の時点で13刷を発行。長く親しまれている絵本。
古式ゆかしい「絵巻物」を連想させる横長の作りで、本を開くと62センチ前後になり、迫力満点。そこに古代の香りが漂ってきそうな王朝風の上品で素朴な絵。神話を物語る雰囲気を、現代の印刷技術でどうやったら表現できるか?を追求した作者たちの工夫の数々が素晴らしい。
巻末には二人の解説・あとがきがしっかり書かれており、この話の前後の話や、調査の様子などがわかり、イメージだけの想像ではなく、しっかりと資料に裏付けを取ったうえで、作品を創り上げたことがわかる。大御所たちの夢の競演。実に豪華な絵本だ。
うみさち、やまさちは、海で仕事をする兄と山で仕事をする弟(三男)の兄弟間のもめごとの話だ。弟が、たまには別の仕事がしたいといって、兄に無理に仕事を交換してもらうが、兄の大事にしている釣り針をなくしてしまう。
弟は謝るが、兄は許さず…という、形で話がどんどん展開していく。最終的には、謝っている人を許さなかった兄が散々な目に遭うのだが、私はこの結末に納得がいかない。
だいたい、ワガママを通したのは弟の方であり、借りたものをなくしたのも弟だ。そもそも兄は、弟に押し切られるかたちでイヤイヤ「仕事を交換する」ことに同意したのであり、本来、ひどい目に遭うゆわれもなかったのではないか…いや、ここには書かれていないが、兄は性格や普段の行いが悪かったのか?!
兄弟がある人は、兄・姉と弟・妹の間で、不公平だ!ともめた経験がある人も多いと思う。特に末っ子はなにかと可愛がられたり、特別扱い。昔話でも、上の兄弟は性格が悪くひどい目に遭うが、下の子は性格もよく良い結果を得るという話が多くないだろうか?
私は下の兄弟に、親が思いっきりエコヒイキして嫌な思いをした経験があるので、そのような不快感が常に付きまとう話であった。古来より、兄弟間は不仲で問題が絶えず、エコヒイキは神話の時代から存在し続けるものなのだろうか。いずれにせよ、古事記では、人間関係、兄弟間、親類間でのもめごとが多くあり、生々しい。
神話の世界なのに、妙にリアルだ。パンチの効いた結末は、読後感などがいろいろに別れると思う。考えさせられた作品で、印象に残った。