死んだら楽になれると思っている方には、残念なお知らせですが、
あの世もこの世もたいして変わらないようです。亡者も鬼も、エンマ大王も、この世の人間関係や苦しみをそのままあの世に持ち越しており、誰一人賢くならず、悟らず、成仏せず、愚かなまんま。
この世で大変だったことも、全くそのままで、全然楽になりません。
かといって、古来より語り継がれてきたような恐ろしい責め苦がまともに存在するというわけでもなく、実にお役所仕事的な、地獄の有り様です。この世の責め苦のほうが、よほど厳しいかもしれません。
この絵本は、鬼のサラリーマン「オニガワラ ケン」氏(妻、子ども2人、ペット数匹)の毎日の出勤→着替え→仕事→帰宅前の寄り道→を追った仁義なきドキュメント作品である。マナーの悪い亡者たちを相手に、血の池地獄の秩序を守らせて、正しい責め苦を味わってもらうために、今日も監視員席で関西弁で怒鳴る、男のドラマである。
見どころは、地獄に落ちただけあって亡者たちの勝手気ままさ。そして、それとは対照的な鬼やあの世の人たちが住む世界の平和さ。昔懐かしい人情物の物語に、大人も子どもも大笑いである。ちょっと死にたくなった人は、これを読んだらますますあの世が近くなるかもしれないが、誰でもいつかは絶対に行かれるところなので、安心して寿命まで行きぬいて欲しい。
天国は、「暇なだけ」らしい。どっちがいいか、悩ましい話だ。