なんだか懐かしい、紙芝居時代の香りを感じさせる絵と、芥川龍之介の文章です。
大森界隈の西洋館に住む魔術使いの印度人マティラム・ミスラとなんだか意味ありげな設定と、右から左に流れる横書き。
私が知っている「月光仮面」や「まぼろし探偵」より昔の時代。
そこで、魔術を習得しようとした主人公ですが、欲望を持ってはいけないという条件が、マジックという自由奔放な世界と相反するところにこの物語の味わいがあります。
燃え盛る石炭を手ですくい上げて放り投げたら金貨に変わるなどと言う、人からすればうらやましい魔術を目にしたら、周りから羨望と欲望で誘い水をかけられても仕方がない。
怪しげな雰囲気のなかで、主人公が魔術で出した金貨を賭けてするトランプゲームなどはギャンブルそのものです。
絵本の隅々まで意地悪さや、意味ありげな怪しさが込められていて、それが魅力です。
同じ『魔術』をひらがなで書いた本が最近出版されましたが、用語が古風で難解なだけに返って難しく感じてしまいました。