王さまを好きな女の子のお話をします。
その子は王さまの本をたくさん読んでいました。
チョコレートもたまごも大好きで、王さまは他人とは思えないと
思っていたみたいですよ。
そうそう、おばあちゃんのテープレコーダーで朗読の録音とかもしてました。
誰に聴かせるわけでもないのに、ヘンな子ですね。
――小さいころの私の話でした。
本はともだちって比喩でよく言われますが、
きっとそれ、私にとってはズバリ王さま、その本のことです。
絵を描く和歌山静子さんによる、新しい王さま絵本化シリーズ。
本作はたまご好き王さまの度が過ぎた物語。
たまごを食べる楽しみを一人占めしたいがための、
自分以外はたまご食べちゃいけない!という禁止令。
めんどりには生むなと、もうめちゃくちゃですね。
たまごのお話なら王さまシリーズには、ほかにもいろいろありますが
本作はたくさんのフライパンたちとその歌が秀逸。
広がる絵を見て、とても絵本映えするお話だと思いました。
和歌山さんが描く、黒い太線で展開される王さま世界、
がっちりしたフライパンたちは、その絵のテイストにすごく合う。
ラインダンスのように揃って迫る彼らの姿は圧巻。
フライパンたちはリズミカルにじゃがじゃが歌ってて、
この不思議な世界に引き込まれてしまいます。
らっぱの音といい、王さまワールドの音は
耳と心にズカズカ響く、不思議な魅力を持っています。
それにしても、たまごの禁止令はひどいものですが
こんなビックリの仕返しで、こってり絞られるなんて予想だにしません。
やっぱり寺村輝夫さんは、お話の魔術師ですね!
――女の子の続きの話をします。
王さまは勉強が大嫌いでしたが、
女の子は身分が普通の子だったので、それは、まぁいけないと思って
ちゃんと勉強はしていたみたいです。
そして、王さまの本をたくさん読んだおかげで、
大人になっても読書家だったんですって。
王さまは彼女にとって、とてもいいともだちだったんですね。
大人になって久しぶりに王さまの絵本で会ったら
王さまが相変わらずなので、懐かしくて懐かしくて。
長く長く愛され、人気は紛れもない王さま級、
それなのに、なんと自由な王さま。同じ大人なのに。
そんなともだちをちょっぴり誇らしく、羨ましくも思ったそうですよ。