都会の中で、ビルに囲まれながら、それでも高く見上げるような一本の木は、何をみてきたのでしょうか。
どこか土の匂いのするような塩野米松さんの文と、それを幻想的な絵で包みこんだ松本春野の絵が醸し出す世界は、殺風景とも言えるビル街の中に、郷愁の風を吹かせてくれました。
かつては木々に囲まれ、いろんな動物たちが棲息していたことを想像すると、一本の木が緑空間への道標のような気がしてくるのです。
次第に都市化されてきた場所に、まだ蝉がいるということが、一本の木が語りたいことを代弁しているように思いました。
確かにそんな木に出会うことがあります。
いつまでもそこで元気にいて欲しい木です。
その木がなくなったら、思い出はまた遠ざかってしまうような気がします。