2008年のコールデコット賞オナー賞受賞作品。
原題は、「The Wall: Growing Up Behind the Iron Curtain」
舞台は、第二次世界大戦後、冷戦時代のチェコスロバキア。
アメリカに亡命した絵本作家ピーター・シスが、冷戦下のチェコスロバキアでの生まれてからの世界を描いた異色作とも呼べる作品です。
ものごころついてからずっと、絵をかくのがすきだった。
はじめは、いろいろな形。
やがて、人をかいた。
家では、なんでもすきなものをかいたが、
学校では、かきなさい、といわれたものをかいた。
戦車をかいた。
戦争をかいた。
教わったことに、何の疑問ももたなかった。
やがて、教わらないこともあると知った。
という文が、それぞれの絵の下にあります。
絵は、コマ割で描かれていて、どういう事象があったのかが、詳細に描いています。
モノクロに、共産主義のシンボルである赤旗や星が赤で、実に象徴的な構図となっていて、胸を打たれました。
また、所々に、私の日記と称されたピーター・シスの日記のページがあります。
日記のまわりには、当時描かれた絵や写真が散りばめられていて、その世相や、如何にシスが絵が好きだったのかが伺い知れます。
それほど歴史を遡ることなく冷戦下の世界が存在していたことを思い起こすと、今の日本で生活していることの幸せを改めて認識させられます。
平和ボケと言っても過言ではないかも知れません。
こういう史実を伝えること、翻って知ることは、現代を生きる私達にとって必要なこと。
また、伝えていかないと、風化してしまいます。
書籍で知ることも必要ですが、こんな絵本という形式は、史実を伝えると言う点において、実は優れているのではないかと思いました。
その生活が、実に分かりやすく描写されています。
さらに、この絵本が良いのは、ピーター・シスが、常に現状に対して考え疑問を抱き、希望を持ち続けた人物であったと言う点。
この視点があるからこそ、作品が活き、読む人の共鳴を得ることが出来たのだと思います。
対象年齢は難しいですが、中学生くらいからでしょうか。
歴史を考える上で、貴重な副読本としてオススメできる作品です。