くまは、せんぞだいだい、どんなにはちみつをたくさんなめても、ドーナツでおなかいっぱいになっても、
もしかしたら たべればたべるほどさびしいのだ。
それは、とだなのなかにある 赤いじゅうたんのせい。
おじいさんのおじいさんのおじいさんのおじいさんが 空をとんだ、赤いじゅうたん。
主人公のくまのお父さんは、最後まで、じゅうたんで空をとぶ勇気が持てなかった。
「いっしょうかかっても、ゆうきをもつことは むずかしいものだ。
おまえがそらをとべるくまだと わたしはうれしいけどな」
彼はそういって死んでしまった。
くまは、毎日葛藤しています。
空を飛ぶなんて、どんなにおそろしいことだろう。
そして、どんなにすばらしいことだろう。
本当の勇気とは。そして、勇者とはなんだろう。
このお話を読みながら、そんな事を考えました。
かつて読んだおとぎばなしに出てくる、とらわれの姫を救い出した勇者も、
旅立つまえは、このくまのように、ぶるぶると身を震わせたのかもしれない。
だらだらと涙をながしたのかもしれない。何度も何度も、焦燥の日々を繰り返したのかもしれない。
または、ドラゴンをやっつけながら、恐ろしさに目をつぶったかもしれない。
髪は、恐怖で白髪になったかもしれない。
現実にも、勇気をもって偉業をなしとげたとされる実在の人物は数多く存在しますが、
彼らもそうだったのかもしれない。
くまはやがて、恐怖におびえながらも立ち上がります。空を飛ぶために。
くまの家の床下にすむネズミは、彼をとめます。
「もどってこれないかもしれないじゃないか」
くまが空を飛ぶ決心が出来たのは、この小さなネズミが、彼のそばにいつもよりそっていたからかもしれません。
佐野さんの本は、切り口が一風変わったところがあって面白いですね。
くまの焦る気持ちや、ネズミが彼を心配する気持ちがよく伝わります。
最後も、文句なし!
(全部ばらしてしまうと、読む楽しみがなくなってしまうのでここには書きませんが)
大方の勇者って、こういうものなのだろうなあ、と思ってしまいます。
ネズミがラストでつぶやく、「いまのいまがしあわせだね」という言葉が、じわっときます。