ある町に住む風変りなどろぼう、ジャンボリ。顔を見られないよう、いつもごみ箱をかぶっているジャンボリの盗むもの、それはいったいなんでしょう?
答えは「てがみのたね」。みんなの家のごみ箱にひっそりと捨てられたそれらは、誰かに手紙を出そうと何度も書いた下書きや、出すのをやめてしまったもの。そこには、みんなの「はだかんぼうの きもち」がつづられているのだと、ジャンボリは思うのです。たっぷりじっくり味わったあと、心に残った言葉を胸に、ぐっすりと昼すぎまで眠るのです。
けれどある日、事件は起こります。町から「てがみのたね」がきえてしまったのです。一枚たりとも見つからないのです。町には「おてがみ禁止令」の立て看板。新しい町長が町の人から手紙をもらえないのだと怒って出した命令なのです。なんてこと!!
「いけない いけない。このままじゃ いけない」
しぼんだ心をひきずりながら町を出ていったジャンボリのある行動が、町の人の心に小さな火をつけます。それは……。
町に起こった奇跡を絵童話として、3つのお話でユーモアたっぷりに綴られたこの物語。手がけられたのは、国内外で注目を集める絵本作家阿部結さん。小さなコマ割りの絵から、隅々まで見応えたっぷり見開きの絵、カラフルな手紙や町の人の表情まで。豊かで丁寧な表現は、小さな子どもたちから大人まで夢中にさせてくれます。
「てがみのたね」、なんてあたたかな言葉でしょう。誰かにとっての大切な気持ちは、こんな風にさり気なくどこかに存在し、本人でさえ気づかなかったとしても、かみしめている人がいるのかもしれないのです。自然に芽生えてくる気持ちや言葉を一方的に禁じてしまった時、世界はどうなってしまうのでしょう。それぞれの視点や立場から、みんなが考え続けていけるといいですよね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む
この町に住む、風変わりなどろぼう。名前はジャンボリ。町のみんなが眠る夜、ジャンボリはあるものを、こっそりとぬすみだします。それはジャンボリにとって、とっても大事な宝物。ある日、あたらしい町長がやってきて、町のみんなから大切なものを奪います。ジャンボリが夜ごと集めつづけた「あるもの」が、あるとき、町にちいさな奇跡を起こして……。
大切なものを取り戻すためにできることや、偶然がもたらす奇跡が、ユーモラスで豊かなタッチで生き生きと描かれます。国内外で注目を集める実力派絵本作家、阿部結が手がけるはじめての絵童話。読むたびに、心が大きくふくらむ物語です。
続きを読む