双子のコブタ、ハムとフムの元に届いたふしぎな手紙。中に入っていた切手をおでこに貼ると、大きな封筒「エア・メール」が飛んできて……。読めばきっと、旅に出かけたくなる絵本『まほうのきって』(えほんの杜)出版を記念して、こばやしゆかこさんにおはなしを伺いました。原画に隠された驚きの行程、おはなしが生まれるあるきっかけ……などなど。こばやしゆかこさんの魅力に迫る、大注目のインタビューです。
●封筒に乗ったコブタが浮かんできて生まれた『まほうのきって』
───『あかりをけすと』(学研)や『カーテン』(学研)、『かぎ』(文溪堂)など、日常の中に潜んでいる少し不思議なできごとを切り取った作品が特徴のこばやしゆかこさんですが、『まほうのきって』は、今までと違った冒険物語が印象的でした。
───そうなんですね。
日常側から、少しふしぎな世界を見せているのが今までの絵本だとすると、『まほうのきって』はどっぷり非日常の世界に入っている感じで、最初から最後まで冒険をメインにして進んでいくというのが個人的に新しいチャレンジだったと思います。
───たしかに、そういわれてみると、今までの絵本でも、『まほうのきって』と同様に非日常の世界が描かれていますね。さきほど、どっぷりと非日常の世界に入っている感じといっていましたが、『まほうのきって』のストーリーはどうやって生まれたのですか?
───最初にひとつのイメージがあって、そこから広げていくなんて、すごく想像力のいる作業のように思います。おはなしを作る作業はスムーズだったのですか?
ひとつのイメージから、おはなしを広げていく作り方は、ずっと続けている慣れた方法なんです。でも、最初のラフができてから、絵本のストーリーになるまで、かなり試行錯誤を重ねているんです。
───最初のラフを持ってきていただいたのですが、小さいラフ(下絵)の中に、絵本の種がたくさん入っていますね! この時点ですでに絵本に出てくる主要なキャラクターが出てきていますね。今までの作品と比べて、今回はキャラクターがより個性あふれていて魅力的に感じました。
そうですね。今までは作品の中で起こるふしぎなできごとに重点を置いていたので、登場人物を追求することはあまりしませんでした。でも、今回はふしぎな世界からスタートしているおはなしなので、登場人物を個性的にした方が楽しいかなと思い、作り込みました。
───気になるキャラクターがたくさんいるのですが、やはり、ハムとフムを冒険に連れて行ってくれる、エア・メールさんが特に印象的なキャラクターだと思いました。二人をポムおじさんの元へ届けるため、嵐にあっても、荷物の重さで底がぬけてしまっても、一緒に冒険を続ける健気さもかわいいですよね。
実は、おはなしを作り直している段階で、エア・メールがいなくなるパターンも考えたんです。でも、途中でいなくなってしまったら子どもたちの中には「エア・メールはどこに行ったんだろう…」って気になる子もいると思って、最後まで冒険を共にするキャラクターになりました。
───水にぬれたり、底がぬけたりして「もう、ダメ〜〜」と弱音を吐くけれど、洗濯物のように干されて居眠りしたり、マストの帆になって「かいてき、かいてき」といっていたり、意外と楽天家? 打たれ強いタイプに感じました。そして、2枚目の切手で出てくる「シイ・メール」はマッチョな海の男タイプ。「シイ・メール」の「シイ」はどういう意味なんですか?
───そして、この2枚をハムとフムのところに送るポムおじさん。2人を迎える姿はとても優しいおじさんに見えますが、後ろにあるお家に掲げられている看板が「大まほうようひん店」……とても普通のおじさんとは思えない……。
ハムとフムを南の島に呼ぶために、まほうのきってを贈るおじさんですからね。お店の中に、どんな魔法用品があるのか、色々想像するのもとっても楽しいと思います。
───ポムおじさん、エア・メール、シイ・メールなど、個性的なキャラクターに比べると、ハムとフムは私たちに近い、感情移入しやすいタイプのキャラクターかなと思ったのですが、エア・メールが出てきても動じなかったり、小さな島に流れ着いても、すぐに順応して美味しそうなフルーツを集めている……。冒険に慣れていますよね。
きっと、今までもポムおじさんの魔法道具で色んな冒険をしているんじゃないかと思います。ハムとフムは、最初にイメージが浮かんだとき、すでに双子の設定だったのですが、おはなしを考えているうちに、ハムの方がのんきもので、フムの方が次のことを考える計画的な面があるというような性格の違いに気づきました。どちらがお兄ちゃんかといったら、きっと、フムの方がお兄ちゃんじゃないかな…と思います。
───たしかにハムは、いつも食べることを優先していますね。双子でもそれぞれ個性が出ているのも、読んでいるうちに分かって楽しいです。フルーツがたくさんなっている南の島や、カラフルな魚たちのいる海など、場面ごとに冒険の舞台が変わっていますが、モデルとした場所や写真などはあったのですか?
鳥や魚は図鑑や写真で調べてから描きました。特に参考にしたのは、古い昔の図鑑。全部絵で描かれていて、色も鮮やかで写真よりも細かいところが克明に分かるので良く使っていました。絵を描くときは、モデルにしたものをしっかり見て、描くようにしています。そうすると、ただ眺めていただけでは気がつかなかった細かいデザインや、ちょっとした変化にも気づくことができるんです。普段、見過ごしがちなことも、絵を描くためにじっくり見ることで新しい世界を再発見できる、それが面白いと思いながら描いています。
───身近にあるものを良く見ることで再発見するなんて、なんだか素敵ですね。絵本もよーく見ると、前見返しと後ろ見返しの絵が少し違っていることに気づいたりして楽しいです。
どちらも地図のデザインなんですが、後ろの見返しは、ハムとフムが冒険した工程が分かる様になっています。……あと、これはよーく見てもなかなか気づかないと思うんですが、本のサイズが、一般的な切手の等倍サイズになっているんです。
───え?! そうなんですか? ……じゃあ、この表紙をぐーっと小さくすると、普通の切手と同じ大きさになるんですか?
はい。切手がキーとなるおはなしなので、ちょっとこだわってみました。
───それで、帯に切手サイズの表紙が印刷されているんですね。ハムとフムのように額に貼ってみたくなりますね。