絵本ナビで安定した人気がある『「和」の行事えほん』シリーズ。『着物のえほん』『テーブルマナーの絵本』も好評です。素敵な絵と詳細でわかりやすい文章の両方を、同じ作者が描いていらっしゃることに驚きます。
作者の高野紀子さんはいったいどんな方なのでしょう? 少し緊張しながらインタビューははじまりました。でもお話をうかがううちにすっかりリラックス(笑)。原画をたくさん見せていただきました!
●行事絵本をつくることになったきっかけ
───愛らしい登場人物の動物たちと、かゆいところに手が届くようなきめ細かい行事の紹介。「こんな絵本がほしかった!」と思うのは私だけではないはずです。子育てを始めると、いかに自分が季節の行事についてちゃんと知らないか、思い知らされることが多くて(笑)。
今日はいろいろ教えてください。よろしくお願いします。
こちらこそ。行事の具体的なことはずいぶん忘れてしまっているのですぐにお答えできないかも・・・。本を描き終えたときは物知りだったんですけれど(笑)。
───高野さんは以前から動物たちを主人公にした絵本を描かれていますが、「和の行事」を解説する絵本を作ろうと思ったきっかけは、何かあったんですか?
ええ、それはもう自分のなかではハッキリしているの。私は、幼い頃からただお絵描きが好きで、本が好きで・・・ヨーロッパ風のものへの憧れもあって、かわいいストーリー絵本を描いていましたけれど、なかなか評価されなかった。自分のなかから本当にわき出てくるものを描いていなかったなと思うんです。
でも40代にさしかかったとき、このままでは絵本の仕事ができなくなってしまうと思ったの。どうしても絵本から離れたくない。どうしたらいいだろう?と考えたときに、自分のなかにあるものしか描けないんだ、じゃあ自分のなかにあるものって、なんだろう、と振り返った。そのとき思ったんです。体験したことなら、描けるんじゃないかと。
私は大きくなったらいつか母になって、私に母がしてくれたようなこと・・・ひな祭りやお月見や・・・四季の行事のあれこれを子どもにしてあげようと思っていた。ご縁がなくてそれができませんでしたけど、自分の子にでなくても、楽しかった行事体験を多くの子どもたちに伝える絵本なら作れるんじゃないかと思ったんです。
───具体的には、お母様はどんなことをしてくださったんですか?
豊かな時代ではありませんでしたから、ひとつひとつはたいしたことではないんです。お月見のときにお団子をつくって、空き地にすすきを摘みにいったり。ひな祭りには、お内裏様とお雛様に見立てたおむすびに、薄焼き卵を衣のように着せたものをつくってくれたり。そんなことが毎年とても楽しみだったのを覚えています。
『「和」の行事えほん』には書いていませんが、クリスマスの思い出もたくさんあります。あの頃、モミの木は本物なんです。本物しかなかったから(笑)。今のようにたくさんクリスマス飾りが出回る時代ではなかったですからね。そうするとね、夜、目を覚ますと、木のすごくいい匂いがするの。モミの木を置いてある部屋から明かりが漏れて、ふすまの隙間からのぞくと母がクリスマスの飾りをつくっている。ボール紙に描いた小さな天使の羽根を切り抜いて。そのときのことは忘れられません。そーっとお布団に戻って、また眠りました。
───素敵なお母様だったんですねえ・・・。
母は手先が器用で、つくることが好きだったんだと思います。季節の葉や枝を、料理にあしらったりもしていました。
母ももう高齢で物忘れもひどくなってしまっているのですが・・・でもね、お月見のとき一緒にすすきを摘みにいったことを話すと、しっかり記憶に残っているの。ああ、あのときの時間って「宝物の時間」だったな、私にとっても宝物だけど母にとってもそうだったんだなと思います。
───子どもの頃の記憶、昔の記憶がずっと年齢を重ねても残っているってすごいですよね。そんなお話をうかがうと、子ども時代に逃しちゃいけない、大事なことってあるんだなと気づかされます。
今はクリスマスになるとブッシュ・ド・ノエルがどこでも売っていますよね。昔はそうではありませんでしたし、うちにはオーブンもなかった。母がどうしたかというと、ハンバーグの種を細長くして周りにマッシュポテトをぬったの。フォークで木肌の感じを作って・・・ひき肉とポテトのブッシュ・ド・ノエル(笑)。
今思えば質素だけど、それがもう、大ごちそうで。うれしくて幸せだった。そんな記憶があるから、行事絵本を作ることができたと思っています。