野菜が苦手なお子さんをお持ちのお母さんに、朗報です! 「くれよんのくろくん」シリーズ(童心社)や「どんぐりむら」シリーズ(学研)でお馴染み、人気絵本作家なかやみわさんのとってもキュートな野菜絵本が誕生しました! タイトルは『やさいのがっこう とまとちゃんのたびだち』。「やさいのがっこう」ってどんなところ? とまとちゃんはどこに旅立つの? これを読むと苦手な野菜が好きになるかもしれない……? などなど、なかやみわさんが私たちの疑問に答えてくれました!
●絵本ナビ最多インタビュー記録、更新中! 今度の舞台は野菜の世界。
やさいの子どもたちが、おいしいやさいになるためにかよう「やさいのがっこう」。あこがれの「ごうかくシール」を貼ってもらうため、みんな毎日ふんとう中。とまとちゃんも真っ赤になる日を夢見て、がんばります。読めばやさいが好きになる! なかやみわの新シリーズ絵本登場です。
───なかやさんとお会いする度に、新作と出会えるのがとても嬉しいです。新作は『やさいのがっこう とまとちゃんのたびだち』。まず野菜たちのかわいい姿が、目に飛び込んできました。この野菜のキャラクターはどのように生み出されたのですか?
この野菜たちはもともと、別の企業で依頼された食器のキャラクターだったんです。描いていく中で、とても気に入ったデザインになったので、いつかこの野菜たちで絵本を作りたいと思っていました。そんなとき、白泉社の編集者さんに絵本の依頼をいただいて、この野菜たちのイラストをお見せしたら、とても気に入ってくださったので、絵本の企画がスタートしました。
───先にキャラクターが誕生して、そのあと絵本の企画がスタートしたのですね。この絵本に出てくる「やさいのがっこう」は、畑にいる野菜たちが通っている学び舎。どうして、学校にしたのですか?
私たち人間は野菜をおいしく食べるために、水を与えたり肥料を考えたりして、栽培しています。けれど、野菜の側から見たとき、野菜たちもとびきりおいしい状態でお店に並んで、買ってもらって、食べてもらいたいんじゃないかと思ったんです。野菜たちにとって、畑はよりおいしくなるための方法を学ぶところ。なので、幼稚園ではなく「学校」を舞台にしました。「やさいのがっこう」に通って、一生懸命おいしくなるために努力して、最終的には八百屋さんの店頭に並ぶ……。そんなおはなしをそれぞれの野菜で考えたら、面白いんじゃないかと思いました。
───おいしく食べてもらうために学校に通って学ぶ姿が、とても健気にも思えてきます。今回は「とまとちゃんのたびだち」ということですが、ほかの野菜たちのおはなしも予定しているのでしょうか?
はい。このイラストに登場している野菜たちのおはなしを描いて、シリーズにしていきたいと思っています。
───すでにシリーズ化決定!? 今後、どんな野菜が出てくるのか、今からとても楽しみです。シリーズ一作目の主人公を、とまとちゃんにした理由はなんですか?
子どもに好きな野菜アンケートを取った資料があるのですが、トマトの人気がダントツだったんです。それで、最初の主人公はとまとちゃんに決定しました。
───トマトは赤くて丸くて見た目がかわいいのと、甘い種類もあるのが人気の理由かもしれませんね。そんなとまとちゃんが、おいしい真っ赤なトマトになるために一生懸命がんばるのが、今回の絵本のストーリー。トマトが赤くなるためにおひさまの光が必要だということを、この絵本ではじめて知りました。
私もこの絵本を作ることが決まってから、トマトのことをいろいろ調べました。その中で、トマトには8000近く種類があることや、故郷が南アメリカだということを知りました。そして、青いトマトを日光浴させると赤くなるということを知った時、私の中で日光浴をしているとまとちゃんの姿が浮かんで、「楽しい絵本になりそう!」と思ったんです。
───おはなしの中では、天気の悪い日が続いて、なかなかとまとちゃんは日光浴をすることができません。その代わり、みょうがちゃんやクレソンくんなど、曇りの日に元気になる野菜が出てくるところが面白いと思いました。
みょうがは日陰のほうが好きな野菜で、クレソンは水の多いところで育つ野菜。とまとちゃんと対照的なキャラクターを登場させることで、よりおはなしが盛り上がり、ストーリーとして面白くなるのでは……と考えました。
───元気で明るいとまとちゃんに、ちょっぴりお姉さんのみょうがちゃん。そしてとても優しく、友達思いのクレソンくん。この3人のほかにも、絵本の中にはいろいろな野菜が描かれていて、ひとりひとりの姿を見ていると、本当の学校のように感じますね。おはなしを作っている中で、最初に考えていた内容と大きく変わったところなどはありましたか?
そうですね。とまとちゃんたちが八百屋のおじさんが忘れていったレンズを使って太陽の光をあつめようとする場面。最初は、レンズに集まった光の熱で、頭が熱くなってしまった! というストーリーにしていたんです。でも、実際に曇りの日に虫眼鏡で光を集めたら熱くなるのか実験してみたら、あまり変化がなくて……。この設定は没にして、今のストーリーに変更しました。大きく変えたのはこのくらいで、ほかはラフで考えていたままで原画に入ることができました。
───今回、今までのなかやさんの作品には登場していなかった人間のキャラクター、「やおやのおじさん」が登場しますよね。野菜たちがほしいと思うアイテムを置いていってくれる、図らずとも粋な存在で気になりました。
「やおやのおじさん」は私もお気に入りのキャラクターです。あの白に黄色い線の入った軍手が、野菜のプロというイメージがあって良いんです(笑)。
───軍手しか出てこないのですが、出荷する野菜たちに合格シールを貼る手つきがとても優しい感じがして、野菜に愛情を注いでいるんだな…と思いました。
少しこだわりのあるスーパーや八百屋さんに行くと、野菜に「合」というシールが貼ってあるんですよね。シールを貼られている野菜たちが誇らしそうに見えたので、この「合」シールを貼って出荷されることが、野菜たちの目標ということにしました。
───絵のタッチも、今までと少し変えているように感じました。枠線をなくして、柔らかなタッチになっているように思います。
そうですね。野菜なので、新鮮さとおいしさ、そして鮮やかさを出したいと思い、この描き方にたどり着きました。今までのように細かい部分を書き込むことを抑えて、あえて白い背景にカラフルな野菜を描いていくイメージです。野菜のビタミンカラーを際立てて、「食べてみたい」と読者に思ってもらえるように描きました。
───この描き方は、食器のキャラクターとして描いていたときと同じなのですか?
はい。そのときに野菜をかわいく、おいしそうに描くことを追求したので、今回はそのときの感覚を思い出しながら描きました。なので、画材選びや絵のタッチで悩むことは少なかったように思います。
───「やさいのがっこう」の舞台となる学校のデザインも、すごくかわいいですよね。
この学校はもちろん、人間には見えないんですけど、野菜たちにはこういう風に見えているんです。
───ダイコンやカボチャ、ニンジンが校舎の形をしていて、ブランコやすべり台までついている! とてもワクワクする学校ですね。この畑にはモデルがあるのですか?
特に意識していないのですが、実家の父と母が、家庭菜園をやっています。実家の近所にはこんな畑の雰囲気が広がっているので、あぜ道や畑の中の支柱の様子など、その畑を思い出しながら描きました。