インタビュー
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2024.08.19
中川ひろたかさん、長谷川義史さん、そして、長野ヒデ子さん。絵本好きな方であれば誰もが一度は読んだことのある絵本を作っている3人がタッグを組んで一冊の絵本が生まれました。
その名も『ナガノさん まっちゃアイスの巻』(アリス館)です。
長野ヒデ子さんが「ナガノさん」という絵本の主人公になり、中川ひろたかさんの紡ぐ物語と長谷川義史さんの絵の中でとってもチャーミングに動き回る、なんともほのぼのとしたおはなしです。一体、どうして長野ヒデ子さんをモデルにした絵本を作ることになったのか、今回は、2024年7月13日に日本ペンクラブで行われた「読みたいラジオ 第39回【公開収録】」イベントの前にお邪魔して、中川ひろたかさん、長谷川義史さん、長野ヒデ子さんにお話を伺いました。
出版社からの内容紹介
なおちゃんに抹茶アイスを買うため、アイスクリーム屋さんを追いかける、ナガノさん。その様子に、大勢の人がついてきて!?
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1954年埼玉県大宮市生まれ。日本ではじめての男性保育士として、5年間千早子どもの家保育園に保父として勤務。1987年、みんなのバンド「トラや帽子店」を結成。リーダーとして活躍。「みんなともだち」「世界中のこどもたちが」などは、たくさんの子どもたちに歌われている。1995年「さつまのおいも」(童心社刊)で絵本デビュー。「たなばたプールびらき」他ピーマン村の絵本シリーズ(童心社刊)、「わりとけっこう」(絵本館刊)などの作品がある。絵本「ないた」で日本絵本賞受賞。絵本作家、詩人の他にも、ラジオDJなど、多方面で活躍中。
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1961年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版) で絵本デビュー。『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『やまださんちのてんきよほう』 (絵本館)、『きみたちきょうからともだちだ』(朔北社)、『おへそのあな』(BL出版)、『スモウマン』『いろはのかるた奉行』(講談社)など、ユーモアあふれる作品を発表。2003年、『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2005年に『いろはにほへと』(BL出版)で日本絵本賞を受賞。2008年に『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。
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絵本作家。絵本創作に紙芝居、イラストレーションなどの創作の仕事やエッセイや翻訳も。代表的な作品に「とうさんかあさん」(石風社/絵本日本賞文部大臣賞受賞)「おかあさんがおかあさんになった日」(童心社/サンケイ児童出版文化賞受賞)、「せとうちたいこさん・デパートいきタイ」(童心社/日本絵本賞受賞)、紙芝居に「ねこのたいそう」(童心社)など。
───今日は本当に豪華な方々にお話しを伺えることになり、とても感動しています。みなさんお揃い生地で作られた「ナガノさんコスチューム」もすごく目を惹きますね。
長野:すごいでしょ〜。これは長谷川さんの奥さんで、絵本作家のあおきひろえさんが生地のデザインから手掛けてくれて、アロハシャツと私のズボンを作ってくれたのよ〜。ポケットも付いていて、すご〜くかわいいでしょう!
中川:でも、ポケットに手を入れて歩くと危ないよ。長野さん、すぐに転んじゃうから。
長野:転んでも手がポケットに入っているから、顔にケガするのよね〜。気をつけないと。
長谷川:それでケガした顔を写真に撮って、我々に送って来るんですよ。
中川:あれはどう返信したらいいか悩むよね(笑)。
───すでに皆さんの仲の良い様子が伝わってきます。改めまして、『ナガノさん まっちゃアイスの巻』の発売、おめでとうございます。やっぱり最初に気になるのは、どういった経緯で長野ヒデ子さんをモデルにした絵本を作ることになったのかということなんですが……。
中川:そもそもね。コロナの時にぼくがYoutubeで「中川ひろたかの見えるラジオ!」というのをはじめたんです。ぼくと長野さんは同じ鎌倉在住で、もうずっと前からの知り合いなので。
長野:絵本も一緒に作ったでしょ〜。あと、お芝居もね。
中川:そうそう、「てくてく座」ってもう10、20年くらい前かな。絵本作家の飯野和好さんの劇団があって、長谷川義史も長野さんもその劇団員。あと、ささめやゆきさんとか山本孝くんとか、あべ弘士さんとか絵本作家と編集者が何人か参加してね。
長野:そうそう、あべ弘士さんがやくざの親分でね。私と長谷川くんが子分なの。
長谷川:そうです、芝居仲間。
───長谷川さんと長野さんはそのお芝居ではじめてであったのですか?
長谷川:いや、長野さんは僕が絵本作家になって最初に仲良くなった絵本の先輩ですね。僕が講談社絵本賞をもらったときは、それまでほとんど面識がなかったのに、授賞式のお祝いに来てくれました。
中川:……で、僕らは長野さんとのことを、もうずっと前から知っているんだけど、長野さんの行動がとても面白い。で、その面白エピソードを「見えるラジオ」で話しているうちに、「みんなの長野ヒデ子」というコーナーを作って、いろいろな人から長野さんの面白い出来事をお披露目してもらったんですよ。 長谷川義史にも頼んだら、長谷川くんはオリジナルの紙芝居にして演じてくれたんだよ。あと、長野さんの娘さんとお孫さんからも教えてもらってね。その中で、井上ひさしさんの奥さんからいただいたエピソードが、今回の絵本の原案になりました。原案…というか、ほとんどそのままを絵本にしています。
───え、じゃあ、なおちゃんがくれた抹茶アイスをほとんど食べてしまったというのは、本当にあった話なんですか?
中川:そう。実際は、アイスを食べられてしまったのは井上さんのお友だちなんだけどね。そこは絵本向けにアレンジしています。
長野:みんなで旅行してたのね。それで、みんなでアイス食べてて。私、後から合流したから、アイスは売り切れちゃっていたの。でも、あまりにもみんなが「美味しいわぁ」っていうから、食べたいって言ったら「じゃあ私のちょっと食べさせてあげる」ってくれたんだけど、私は「あげる」って勘違いしちゃってみんな食べちゃったの。そしたら「ひとくち味見って言ったのに」って。
中川:それで、悪いなって思って、急いでアイスを買いに行ったんだけど、お財布忘れたんでしょ。
長野:なんで知ってるの?!
中川:インタビューなんだから、脚色しちゃだめだよ(笑)。ね、そこまで絵本と一緒なわけ。
───まさにフィクションみたいな本当のおはなし。だから絵本になったんですね…。
中川:あとは、ナガノさんが絵本の中で言っている「へーそーかい」とか、ナガノさんがダジャレを言ったら子どもたちは鼻をつまむところとかはフィクション。どうしてそうなったかは僕もわからないんだけど、ナガノさんのことを考えていたら、自然とだじゃれが思い浮かんで、自然と原稿に書いていたんです。実在の長野ヒデ子さんをモデルに「ナガノさん」というキャラクターを肉付けしていった感じです。
───ちなみに、長谷川義史さんが作った紙芝居はどんなおはなしだったのですか?
長谷川:それはちょっとここでは…(笑)。中川さんの「見えるラジオ」で演じているから、探してみてください。
中川:長谷川くんのはね、なかなか絵本にしにくいエピソードなんだよ。
───あ、でも絵本の後ろに紙芝居をしているナガノさんが登場していますね。これが長谷川さんが描いたおはなしですか?
長谷川:いや、これはまた別のエピソードです。
中川:長野さんの娘さんからの話だね。これもなかなか絵本にはしづらい……。長野さんがお風呂あがりに娘のローラースケートを履いたって話だから(笑)。長谷川くんのはちょっと脚色して、いつか出せるといいなと思ってます。
───お風呂あがりにローラースケートのエピソードが気になって仕方がないのですが……。長野さんご自身は、こういう絵本が作られているということをいつ知ったのですか?
長野:いつだったかしら? でもたしか、長谷川くんのラフが出来上がっていて、ヤメテ〜って言えない段階だったような気がする……。
中川:それはもう、水面下で進めていってたんで(笑)。
───長野さんがはじめて『ナガノさん』のラフを見たとき、どう思いましたか?
長野:私、「絶対出したらいかん。読んだら長野ヒデ子みたいにアホがいっぱい増えるから!」って言ったの。そうしたら、それが絵本の帯になったのよ〜。
中川:だって、すごい宣伝文句だよね。絵本のモデル本人から「読んじゃいけない!」って言われるとさ、絶対読みたくなるよね。
───たしかにそうですね。
中川:しかも長野さん、自分の講演会がある度に講演会場で「私の絵本が出るのよ〜。でも、読んだらアホになるから読んだらいかんよ〜」って宣伝をしてくれたの。だから、みんな読みたくなっちゃって、大変だったよね。
長谷川:多分その時、僕の手元に「ナガノさん」原稿があって、1年くらい寝かせていたんです。そんで、僕は絶対、誰にもこの絵本を描いていることは言ってなくて。言ったら描かなきゃいけなくなるから。それなのに、いろんな人から「『ナガノさん』描いているんでしょ」って言われて。
───その情報源は長野さんなんですね。
長谷川:長野さん、僕には「描かないで!描かないで!」って連絡して来るんですけど、あっちゃこっちゃで「絵本が出るのよ」って宣伝しまくってて。それで僕に「いつ絵本が出るんですか?」ってあっちゃこっちゃから連絡が来て……。
───新しいタイプの催促ですね(笑)。
中川:この絵本の編集者が、長谷川くんに原稿を渡してそろそろ1年たつから進捗伺いに行こうって大阪に出向いたら、『ナガノさん』のラフを手渡されて、あまりに早いんでビックリしたっていうね。長野さんはこの絵本のモデルであり広告塔なんですよ。
長谷川:ほんとそうです。ほんとに長野さんがあっちゃこっちゃで言いふらしてるから(笑)。僕にしてはすごく早くできた仕事なんです。
───長野さんは長谷川さんのラフを見て「絶対出したらいかん。」と言ったそうですが、そのほか、絵の中で直してほしいところなどはあったのでしょうか?
長野:最初、おへそがね、もっとたくさん出てたのよ。だから「おへそ、そんな出さないで」って言ったわ。
中川:おへそだけにクレームがついたの。絵本の中でナガノさんにいろいろダジャレを言わせて、それはほぼ創作なんだけど、そういう所にはなんのクレームもなくて。すごくゆるされたんだよね。それは本当に長野さんのおおらかさ、寛大さがあってですね。
───長谷川義史さんの絵本といえば、絵の中にいろいろ有名人やお友達の絵本作家さんが登場していますが、今回もいろんな方が出てきていますね。
長谷川:そうですね。まずアイスクリーム屋のおじさんが中川さんでしょう。あと、ささめやゆきさんに、飯野和好さん。
───鎌倉にお住いの絵本作家さん総出演という感じですね。
中川:知る人ぞ知るですけどね。あと、「きんじょの いのうえさん」はこの絵本の元になったエピソードを教えてくれた井上さんです。ここもかなり似ているんだよね。
長野:私の知り合いでね、この絵本持って美容院に行って、「ナガノさんと同じ髪型にしてください」って言った人がいるのよ。あと、ナガノさんみたいな大きい眼鏡をかけたりしてね。
中川:すごい!ナガノさん、ファッションリーダーだ。
───見返しには「ナガノさんたいそう」が描かれていて、脱力系でかわいいナガノさんのいろいろなポーズが楽しめますね。このアイデアはどなたが出したのでしょうか?
長谷川:僕ですね。なんか楽しそうな見返しにしたいなって思って。
中川:こういうのはね、僕には全く相談ないんですよ。編集者と相談して、勝手に出来上がっている。素晴らしいんだけどね。ちょっとぐらい僕にも声をかけてよって感じだよね。
長野:「アイスクリームたいそう」でも良かったね。
中川:そういえば「まっちゃのアイス」って曲も作りましたね。これもアイデアはあおきひろえさんで、大阪で『ナガノさん』の原画展を長谷川くんのアトリエ兼ギャラリー「空色画房」でやったんですよ。僕は自宅からイベントのために空色画房に向かっていて。到着したらあおきひろえさんが「まっちゃのアイス」って詩を急に持ってきてね。「中川さん、この詩に曲をつけてください」って。それがとても良い詩だったからすぐに曲を作っちゃった。
───「まっちゃのアイス」、どんな曲かすごく気になります。
───今回の「まっちゃアイス」のおはなしもそうですが、長谷川さんが描いた紙芝居のお話しや、先程ちらっと出たローラースケートのお話しなど、長野さんのエピソードは本当にたくさんあるんですね。この『ナガノさん』にはサブタイトルで「まっちゃアイスの巻」と描かれていますが、やはりシリーズになる予定なのですか?
中川:先日、次回作書いて編集者に見せたんだけどね。「これは盛り込みすぎです。3冊分の絵本になりますよ」と言われて、修正中です。なにしろエピソードの宝庫なんで、どれを絵本にしようか困るくらい。
長野:今ね、うちの庭にモリアオガエルが卵を産んで、100匹くらいカエルになったから、近所の子どもたちに「あげるよ、あげるよ」ってカエルを渡していたんだけど、カエルがいるところってヘビも来るのよね。それである日、庭に水音がするからハッと思って見てみたらヘビが来てて。カエルを全部食べられたら大変!って思ったんだけど、家に私しかいなくて助けが呼べない。だから怖いけどバーベキューするときのトングを持って、えいやぁ!ってヘビの頭をトングで掴んで、庭から離れたところに逃がそうと走って外に出たの。そうしたら鎌倉へ遠足に来ていたどこかの小学生が「おばあさんがヘビ持って走ってる!」って大騒ぎ。あとちょうど、仕事で来ていた編集者も「ナガノさんが素手で蛇をつかんで持っていった」って会社で言っちゃったもんだから、話が変な方へどんどん膨らんでいってしまったのよ。
中川:ね、エピソードの宝庫でしょう(笑)。
───本当にそうですね。今まで長野さんのエピソードが絵本にならなかったのが不思議なくらいです。
中川:この絵本の帯にも書きましたけどね。この『ナガノさん』はユーモア絵本じゃないんですよ。これは偉人伝なんです。こんなにいろんな人に話を聞いてエピソードが出てくる人はいないですし、そのエピソードどれもが愛と優しさにあふれている。こんなすごい人はいないですから。だから図書館の偉人のコーナーにぜひ並べてほしいですね。「キュリー夫人」の隣くらいに。
長野:私はこの絵本が出た時ね、友だちから「中川さんと長谷川さん、二人の愛を感じる絵本だね」って言われましたよ。
中川:そうですよ、その通りですよ。僕と長谷川くんと長野さん、お互いへの愛がなければこの絵本はできませんから。
長谷川:それもこれも長野さんが全部「許して」くれるから。ものすごい平和な絵本だと思いますよ。
───読めば読むほどハッピーな気持ちになる『ナガノさん まっちゃアイスの巻』。この絵本を味わいながら、次回作の発売も期待しています。今日は楽しいお話しをありがとうございました。
編集後記@
日本ペンクラブの「読みたいラジオ」で、公開録音の様子が掲載されています。 『ナガノさん まっちゃアイスの巻』のエピソードや、インタビュー中に出てきた「まっちゃのアイス」の歌をあおきひろえさんが歌う場面も! ぜひ、聞いてみてください。
編集後記A
中川ひろたかさんの「見えるラジオ!」はSONGBOOKCafe(ソングブックカフェ)YouTube公式チャンネルでバックナンバーを観ることができます。 「みんなの長野ヒデ子」のコーナーのある回を一部ご紹介します。興味のある方は是非、ご覧ください。「中川ひろたかの見えるラジオ!」は毎週月曜日配信です。
取材・文/木村春子(絵本ナビ)
写真/篠部雅貴(シノベ写真事務所 )