新刊
はっけんずかんプラス 妖怪

はっけんずかんプラス 妖怪(Gakken)

しかけをめくると妖怪が登場!今大人気の本格子ども向け図鑑

  • 笑える
  • びっくり
絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  イギリスで話題のクリスマス絵本『こえだのとうさん』 訳者 いとうさゆりさん インタビュー

イギリスで話題のクリスマス絵本『こえだのとうさん』 訳者 いとうさゆりさん インタビュー

表紙で、雪の中を走っている一本の小枝。原作絵本”Stick Man”が2008年に出版されて以来、この小枝は、イギリスの子どもたちに大人気のキャラクターになりました。作品もすっかりクリスマスの定番絵本になってきているんだそう。小枝のなんともユーモラスな表情!そして小枝が主人公のクリスマス絵本なんて、それだけで面白そうですよね。
今回は、日本でも2015年に翻訳版が発売された『こえだのとうさん』について、訳者のいとうさゆりさんにお話を伺いました。
この絵本の翻訳を担当できたことは、「神様からのギフト」だと話すいとうさん。作品の作者ジュリア・ドナルドソンさんとイラスト作家のアクセル・シェフラーさんについて、そして『こえだのとうさん』誕生のストーリー、絵本に隠された作者の思いなどをご紹介いただきました。

こえだのとうさん
こえだのとうさんの試し読みができます!
作:ジュリア・ドナルドソン
絵:アクセル・シェフラー
訳:いとう さゆり
出版社:バベルプレス

おおきな おおきな きのおうちに こえだのとうさんと、こえだのかあさん、 そして さんにんの こどもたちが なかよく くらしていました…… ところが、こえだのとうさんにとって、 お家の外は、危険がいっぱい。 犬には遊び道具にされ、白鳥には 巣作りの材料にされ、最後はとうとう 暖炉のたき火にされてしまいます…… 果たして、こえだのとうさんは 無事、家族の待つお家に 帰ることができるのでしょうか?

今やイギリスの子どもたちにとっては大人気キャラクターです。

───まず、枝が主人公のおはなしというのが面白いですね。『こえだのとうさん』はどのように誕生したのでしょうか?

作者はイギリスを代表する絵本作家、ジュリア・ドナルドソンさん。イラストは、こちらもベストセラー作家のアクセル・シェフラーさんです。お二人の代表作と言えば、世界各国で出版された『もりでいちばんつよいのは?』(評論社)ですが、その第2弾『グラファロのおじょうちゃん』(評論社)の中で、主人公の女の子が大切そうに枝の人形を手にしているんです。いつもはドナルドソンさんの原稿をもとに、シェフラーさんがイラストを描いて絵本が出来上がるそうですが、『こえだのとうさん』の場合、ドナルドソンさんがシェフラーさんの描いた枝の人形からインスピレーションを得て、枝を主人公にしたお話を作ろうと思い立ったそうです。作者の3人の息子さんたちが、小さい頃、外で遊ぶのが大好きで、よく枝や石で遊んでいた記憶もおはなしを作る上で影響したと言います。普段、私たちが気にも留めない「枝」を絵本の主人公にしようと考えた彼女の着眼点がユニークだと思いました。

───小枝が、奥さんと3人の子どもと暮らしている「とうさん」だという設定にも、親近感がわきます。とうさんは、ある日早起きしてジョギングにでかけたばかりに、災難にまきこまれてしまうんですよね。

そうなんです。犬の遊び道具になってしまったり、白鳥の巣の材料にされたり・・・、どんどん家から離れていってしまいます。とうさんが、どうやって家族のもとに帰れるか、ハラハラドキドキの冒険ストーリーになっています。

───いとうさんは、作品のどこに魅力を感じられていますか?

素朴なキャラクターが珍しくて面白いと思ったのと、おはなしの内容やひねりの効いた展開も大きな魅力でした。おはなしを読み進めていくにつれ、とうさんはどうなってしまうんだろうと心配したり、応援したり、最後はこえだのとうさんに訪れる奇跡に心がジーンとして、ホンワカした気分になれます。
この絵本のもう一つの見どころは、やはりシェフラーさんの絵です。細部にこだわった味わいのあるシェフラーさんの絵があったからこそ、この絵本がより魅力的になっていると思います。おはなしに出てくる登場人物たちは、とても表情豊かに描かれていて、絵だけ眺めても楽しい作品ですよね。

───アクセル・シェフラーさんの絵は、クスッと笑ってしまうような可笑しみがあって、味わい深い独特のタッチですよね。

はい、ユーモアのあるカラフルなイラストで、一度見たら忘れられない絵を描く方です。生まれはドイツですが、1982年、イラストレーターやアーティストを数多く輩出しているBath Academy of Artで学ぶためイギリスに渡り、才能を開花させました。
ドナルドソンさんと初めてコンビを組んだ作品『きつきつぎゅうぎゅう』(ほるぷ出版)(原書は“A Squash and A Squeeze”)を描くことになったとき、シェフラーさんはすでにイラストレーターとして活躍していました。ドナルドソンさんはその頃はまだ無名でしたが、出版記念パーティーで初めて顔を合わせて以来、二人は信頼を寄せる仕事のパートナー、そして親友になったんだそうです。
シェフラーさんは元来引っ込み思案で内気な性格の持ち主のようで、ドナルドソンさんの、シェフラーさんの第一印象は「生真面目な方」だったそう。けれども、のちに辛口なユーモアと機知に富んだ方だと分かったんだそうです。描く絵からもそんな彼の人柄がにじみ出ている気がします。


アクセル・シェフラーさん

───作者のジュリア・ドナルドソンさんは、どんな方なのでしょうか?

ドナルドソンさんは、英語独特のリズミカルな韻を踏む絵本の名手で、現在まで180冊以上の本を出版しています。イギリスでは、絵本の売上がハリーポッターの原作者を凌ぎ、6年間連続(2016年1月現在)で、ただ一人1,000万ポンド以上の売上げを誇る、まさに絵本界の女王というべき存在です。イギリスの絵本売上の4割は彼女の作品が占めているほどなんです。作品の多くが、学校の教材としても利用されています。2011年から2013年まで、優れた絵本作家またはイラスト作家に与えられる「こどものためのローリエット」に任命されたほか、文学界への功績が称えられ、英国王室から大英帝国勲章、MBEを受賞するなど、輝かしい活躍を収めています。
デビュー作は1993年、シェフラーさんとの出会いとなった『きつきつぎゅうぎゅう』。でも、私が驚いたのはドナルドソンさんが絵本作家としてデビューすることとなったきっかけです。実は、この絵本は、約20年前に書き上げた子供向けの歌だったそうですが、出版社の方がお子さんと一緒にこの歌を聞き、何十年も頭から離れず、是非、絵本化したいと申し入れたそうです。
このコンビで20作以上の数々の人気絵本を生み出していますが、最初の絵本が出版されてから6年間ヒット作は生まれず、書店に並んだ絵本はこの1冊だけだったそう。それでも、諦めずに書き続け、現在の確固たる地位を築かれました。


ジュリア・ドナルドソンさん

───ドナルドソンさんの作品は日本でも翻訳されていますが、イギリス本国で絶大な人気を誇っている作家さんなのですね。『こえだのとうさん』はクリスマス絵本としてイギリスで定番になっていると伺いました。

クリスマスならではの奇跡が起きて、家族と再会できるという心温まるラストが、クリスマスに読むのにぴったりの物語だと思います。クリスマスに活躍する、子どもたちが大好きな”あの人”も登場しますよ!原書ではstick man にかけてstuck man (”stuck”とは「抜けないで身動きができない」の意味)と表現されています。

───なるほど、えんとつにつっかえて登場するシーンですね(笑)。

───『こえだのとうさん』は、2015年のクリスマスには、イギリスでアニメ映画化もされたそうですね。

そうなんです。2015年、日本語版の発売と同じ時期にテレビ放映されると聞いて、そのタイミングに驚きました。ドナルドソンさんとシェフラーさんのコンビでの作品は『こえだのとうさん』を含め4作が映画化されているのですが、クリスマス放映当日、『こえだのとうさん』の視聴率は、エリザベス女王のクリスマス演説より何と30万人以上も多かったそう! アニメになったこえだのとうさんも可愛いので、日本でも放映されることを願っています。映画「ホビット」シリーズのビルボ役でもおなじみの俳優、マーティン・フリーマンさんも、こえだのとうさん役でベスト声優賞を獲得して話題になりました。

───こえだのとうさんの人気ぶりがうかがえます。

はい。とうさんは大活躍で、絵本の世界を飛び出してしまいました! アニメだけでなく、劇場でお芝居もやっています。今やイギリスの子どもたちにとっては大人気キャラクターです。この人気ぶりが買われて、イギリスの林業委員会(Forestry Commission)が、こえだのとうさんを全国のキャンペーン・キャラクターに起用しました。「子どもたちに、もっと外に出て遊んでもらいたい、生活の中で木や森の重要性を感じてもらいたい」という願いからです。 各地の森林公園には、スティックマン・トレイルが設置され、大盛況を収めています。


森林公園に設置されたスティックマン・トレイル

今、あなたにオススメ

出版社おすすめ

  • なまえのないねこ
    なまえのないねこの試し読みができます!
    なまえのないねこ
    出版社:小峰書店 小峰書店の特集ページがあります!
    ぼくは ねこ。なまえのない ねこ。ひとりぼっちの猫が最後にみつけた「ほんとうに欲しかったもの」とは…


児童書出版社さん、周年おめでとう! 記念連載
可愛い限定商品、ゾクゾク♪

いとう さゆり

  • ハワイ大学文学部芸術人文学科卒業。ホノルルの会計監査事務所で、コンサルタントとして勤務。夫の転勤に伴い、世界各国を回り、現在、カナダのウィニペグに在住。『こえだのとうさん』がデビュー作。絵本翻訳をはじめ、暮らしを豊かにする情報や心と身体が元気になる書物の翻訳に関わる。将来の夢は、日本の素晴らしい絵本を海外に紹介すること。バイリンガル読み聞かせの活動も行っている。

作品紹介

こえだのとうさん
こえだのとうさんの試し読みができます!
作:ジュリア・ドナルドソン
絵:アクセル・シェフラー
訳:いとう さゆり
出版社:バベルプレス
全ページためしよみ
年齢別絵本セット