一般的にお店屋さんは、昼間開いていて、夜には閉まるもの。しかし、夜になると、とてもふしぎな「よるの」お店となり、昼間とは全く違うことが起こる……そんなお店を描いた「よるの…」シリーズ(文溪堂)が注目を集めています。シリーズ第2弾は、オシャレな洋服をたくさん扱っている「洋服屋さん」。『よるのようふくやさん』で起こる、おかしなできごとがどのように誕生したのか、作者の穂高順也さんと、寺島ゆかさんに話を伺いました。
- よるのようふくやさん
- 文:穂高 順也
絵:寺島 ゆか - 出版社:文溪堂
おしゃれな洋服や、きれいなドレス、すてきなアクセサリーがそろっている、まちの洋服屋さん。ところが、夜になって店じまいすると、そのお店は真夜中にまた始まります。そのお店にやってくるのは、変なお客さんばかり……。
●『よるのようふくやさん』は、ぼくの中でも冒険だなと思いました。
───「よるの…」シリーズは現在、『よるのさかなやさん』と『よるのようふくやさん』の2冊が出版されています。前作は、魚たちが「よるの」魚屋さんで動き出すというストーリー。そして、今回は夜になると昼間とまったく異なるふしぎな洋服屋さんがオープンするというストーリー。この企画はどのようにスタートしたのですか?
穂高:元々、『よるのさかなやさん』というおはなしの原稿を文溪堂さんに持ち込みをしたんです。そのときから、シリーズ化を予定していて、2冊目用の作品もいくつか候補を考えていました。
───その中に『よるのようふくやさん』のアイディアもあったのですか?
穂高:アイディアはあったのですが、自分としては『よるのようふくやさん』はもっと後に絵本になるようなイメージだったんです。
───それはなぜですか?
穂高:「よるの…」シリーズの構造って、基本的にはひとつなんです。つまり、昼間は普通のお店だけれど、夜になると、とってもふしぎなことが起こっているということ。そのバリエーションをいくつも見せていくことになるのですが、『よるのさかなやさん』がベーシックなバージョンとしたら、『よるのようふくやさん』はちょっと突飛な展開だと思っていました。なので、その前に、もう1冊か2冊くらい、オーソドックスなおはなしを見せて、徐々にくずして行った方が良いかなと……。ですから、2冊目でいきなり『よるのようふくやさん』を出版することは、ちょっとした冒険のように思いました。
───そうなんですね。徐々にこのシリーズに触れるのも楽しいですが、『よるのさかなやさん』の次に、この『よるのようふくやさん』が来ることで、「あ、こういう夜のパターンもあるんだ」とハッと気づく感じで新鮮でした。
穂高:そうですね、かなりハイジャンプをした感じなので、驚きというか新鮮に感じていただけたらと思います。ただ、もうオーソドックスな展開には戻りにくいかもしれませんね。
───たしかに……。次はどんな面白い展開が待っているんだろうと期待してしまうかも(笑)。
穂高:そこはたぶん期待していただいて大丈夫だと思います(笑)。2冊目にこういった展開をお見せすることができたので、次はもっともっとへんてこなものを考えています。
───それはとても楽しみです。『よるのようふくやさん』は絵を寺島ゆかさんが担当されています。穂高さんと寺島さんははじめて一緒に絵本を作られたと思うのですが、いつごろ寺島さんにお願いしようと思ったのでしょうか。
穂高:編集者さんから提案していただいたかと思います。寺島さんの作品を見せていただいて、この方にお願いできれば良いですねと話し合いました。
───寺島さんは、編集者さんから連絡があって、この絵本を引き受けられたんですよね。そのときのことを覚えていますか?
寺島:はい。文溪堂さんでは『もうママったら!』と『マンドリルおじさんのおなら』(作:河辺花衣)を出版させていただいて、そのときに一緒にお仕事をした編集者さんからお電話をいただいたので、それがまず嬉しくて。それで、お会いして、原稿を見せていただいたのですが、原稿を見せるのをとてもためらわれている感じがしました (笑)。それで、こちらも「一体、どんなおはなしなのだろう」……とちょっとドキドキしました。
───ドキドキしながら、原稿を読んでみてどう思いましたか?
寺島:穂高さんはご自身も絵を描かれるので、原稿の所々にご自身のイメージを絵で説明してくださっているんですが、まずそれにビックリして(笑)。それでも、読んでいくと、ペリカンスーツのところで、ふと手が止まりました。
実は、ちょうどペリカンとニワトリに興味を持っていたところだったので、まるで私の心の中を読んでいたかのように、両方が同じ場面に登場していて驚きました。その瞬間、朝日を浴びながら飛んでいくペリカンのイメージが頭に浮かんで、「これは描きたい」と思い、お引き受けさせていただくことにしました。
───描きたいと思っていたものが物語に出てくるなんて、すごい偶然ですね。
寺島:そうなんです。それと、編集者さんからお電話をいただいたとき、ちょうど図書館から『よるのさかなやさん』を借りていて、手元にある状態だったんです。そんな偶然が重なったので、『よるのようふくやさん』の絵を描くことに運命的なものを感じました。でもそのあと、ラフ画を描こうと、改めて作品に向かったら、それがすごく難しくて……(苦笑)。
───ペリカンスーツのシーンが浮かんだら、そのほかの場面もサラサラ進むのかと思いきや、そうはいかなかったんですね。
寺島:はい。穂高さんが描いてくれた絵をしっかり受け止めた後、絵をできるだけ見ないようにして、文章だけで想像を膨らませていく作業をしました。
穂高:画家さんの中には、作家のイメージに引きずられてしまうと、原稿に絵が描いてあることを嫌がる方も確かにいらっしゃいます。でも、ぼくとしては、文章で書けない部分を「こう描いてほしい」と絵でお伝えしているので、ある程度見ていただきたいなと思います。その上で、画家さんの解釈で絵を描いていただきたいと思っています。
寺島:そうですね。イメージをイラストで共有していただけるので、それは良かったと思います。作家さんが思い描いている作品のイメージをまず自分の中で消化して、そこへ自分流の解釈を乗せていったという感覚ですね。
───そうやって、ご自身のイメージを膨らませていくことで、描き進められなかった部分がスムーズに出たのでしょうか?
寺島:いえいえ、結構、悩みました……。このおはなしは、ページをめくるたびに、パッパッパッという感じで、場面が変わっていくんですよ。文章がとてもテンポよく進んでいるので、絵でもきちんとつなげていかなければと思いました。それで、つながりを保ちながら、見た目にインパクトを持たせるにはどうしたらいいか……とか考えなければいけないことがたくさんありました。
───なるほど。全ての絵が完成するまで、どのくらいかかりましたか?
寺島:たしか、最初の打ち合わせが9月ごろで、年明けには原画をお渡ししていたと思います。
───穂高さんは寺島さんから最初のラフ画が送られてきたとき、どう思いましたか?
穂高:奇妙なはなしだなーと……(笑)。原稿を書いたときはそこまで思っていなかったのですが、寺島さんのラフを拝見して、まるで自分の作品じゃないみたいな、奇妙な感覚を覚えました。今まで、こんな感覚を味わったことがなかったので。
寺島:穂高さんは私のラフを見て、「こういう話だったっけ?」とおっしゃったそうなんです。私にとっては、最高の誉め言葉でした。なぜなら、ラフを描いている間中、「おおッ」という具合に驚かせたいと思っていたからです。作者はもちろんですが、その先の読者にも驚いて、楽しんでもらえるように考えるのが楽しかったです。
───寺島さんの思惑通りになったのですね。